山頭火つれづれ-四方館日記

放浪の俳人山頭火をひとり語りで演じる林田鉄の日々徒然記

月夜々々に明渡る月

2009-03-11 20:33:36 | 文化・芸術
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Information-四方館 DANCE CAFE –「Reding –赤する-」

―表象の森― あか色々

・紅-べに、くれない-
紅花はエジプト原産のアザミに似たキク科の植物で、「紅」はその花弁から抽出した紅色素-カーサミン-で染めた鮮やかな色。紅花による紅染は褪色しやすいため、鬱金や黄檗など黄色系の染料で下染した後に染色されることが多い。国内産地は山形県最上地方が有名だが、収量は少なく金に匹敵するほど高価だったため、高貴な人のみがこの色の着用を許された。紅花だけで染めた色を紅色、真紅あるいは深紅などという。
・猩々緋-しょうじょうひ-

緋のなかでも特に強い調子の黄味がかった朱色。猩々はオランウータンともされるが、また中国の猿に似た霊獣ともされ、その動物の生き血で染めたという伝説がある。わが国では能に登場する「猩々」の衣装のイメージでもあり、赤毛、赤面、赤装束から由来するという説も。古くから用いられた色で、この猩々緋で染めた羅紗や天鵞絨-ビロード-は武将たちの陣羽織に仕立てられ、戦の場で艶やかな意匠が競われた。

・紅緋-べにひ-
猩々緋とともに鮮やかな緋色に使われる色名で、紅花と鬱金、黄檗、支子-くちなし-を用いて黄味のある赤。古代、「緋」は茜を灰汁媒染-あくばいせん-で染めた赤をさし「あけ」と呼ばれ、女官の緋袴の色も、実際はこの紅緋が用いられた。

・照柿-てりがき-
熟した柿の実からきた色名で、濃い赤味の橙色をいう。「柿」は平安時代から用いられている色名だが、江戸時代には赤味の橙色をさす代表的な色名として使われた。
他に、熟した柿の色に「紅柿」、淡い色では「洗柿-あらいがき-」「洒落柿」があり、「薄柿」や「水柿」などは明るい橙色、濃くなって赤系によったものに「凝柿-こりがき-」「黒柿」がある。

・紅柄色/弁柄色-べにがら/べんがら-
顔料の紅柄の色名からきた赤身の褐色で、弁柄とも。名前の由来は東インドの地名「ベンガラ」からきている。その地で良質の赤褐色の酸化第二鉄が産出され、この産地名-ポルトガル語-が顔料名となった。
江戸時代から弁柄に柿渋を加えた顔料が、町家などの壁や格子戸に塗られ、弁柄格子と呼ばれてきた。

・黄丹-おうたん、おうに-
もとは顔料の「鉛丹」の別名で、紅花と支子で染めた赤味を帯びた橙色。中国より伝来した色名だが、高貴の色とされ、色彩の序列は紫の上に置かれ、着用を親王や皇族に限られ禁色の一つとされてきた。わが国では8世紀以来現在まで、皇太子の正式服色として用いられる。
  -平凡社刊「日本の色」より

<連句の世界-安東次男「風狂始末-芭蕉連句評釈」より>

「花見の巻」-30

  憎れていらぬ躍の肝を煎  

   月夜々々に明渡る月  曲水

次男曰く、二ノ折の表の端句-十二句目-を、躍に寄せて月の座としている。定座は十一句目で、うごかすことは間々あるが、特別の趣向でもないかぎり端に雫すことはまずない。

作りは前句の人情に景を添えた軽い遣句の体で、月夜月夜と踊り続けてついに有明の月を見る候にまで及んだ-片や時分片や天相-と云いたいらしいが、「月夜」と「月」の差合が誰しも気になるところだ。

「夜ごと夜ごとに明渡る月」、「月夜々々に明渡る比-ころ-」ではいけないのか。と考えたところで気がつく。「憎れていらぬ躍の肝を煎」は要らざるお節介で、云うなれば屋上屋を架すたぐいの行為だ。差合を承知のうえで、「月夜」に「月」を被せた手口は、まずそこを読取って盆踊り頃踊り明かす人情との釣合としたものらしい。

加えて、端句の月を強いられ、曲水としては出し遅れた不手際を繕うしかなかった、という事情がある。破れかぶれと云うべきか、活路と云うべきか、珍しい重ねの工夫はそこに生れた、と。


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憎れていらぬ躍の肝を煎

2009-03-09 15:47:03 | 文化・芸術
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Information-四方館 DANCE CAFE –「Reding –赤する-」

―表象の森― Goetheの赤

以下はゲーテ「色彩論」における<赤色>談義だ。
「青や黄を濃くしてゆくと、必ずそれとは別の現象が一緒に生じてくる。色彩というものは、最高に明るい状態でも暗い翳りをもつものである。したがって色彩が濃くなれば、ますます暗くなってゆくのは当然である。しかしながら、色彩が暗くなるにつれて、同時に色彩はある輝きを帯びてゆく。この輝きをわれわれは「赤みを帯びた」という言葉であらわしている。

この輝きがだんだん強まってゆき、高昇の最高段階に達すると、圧倒的な力を示す。強烈な光を見た場合には、網膜に真紅を感じる漸消現象が生じる。プリズム黄赤色は-朱色-は、黄色から生じたものだが、黄色を想起する人はほとんどいない。
赤という名称を用いる場合には、黄や青を少しでも感じさせるような赤は除外し、完全に純粋な赤を考えていただきたい。たとえば白磁の皿の上で乾かせた純正のカーマイン-紅色の絵具-のような。古代人の言う真紅が青の側に近いものであったことはよく承知しているが、赤という色彩にはその高貴な威厳のために私はしばしば真紅という名をあたえてきた。

真紅が生れてくる課程をプリズム実験で見た人は、真紅には現実的にも可能的にも他のすべての色彩が含まれているとわれわれが主張しても、牽強付会の言とは思わないであろう。
黄と青の、この二つの極が赤に向かって高昇し、合一するところに、理想的充足と名づけてよいような真の平静さがあらわれると考えることができる。実際、物理的現象においては、それぞれ合一を目指して準備し、一歩一歩進む二つの相対する極がついに出会ったところで、赤という全色彩現象中で最高の現象が生じるのである。

この色彩は、その性質ばかりではなく、その作用も比類がない。この色彩は厳粛で威厳に満ちているというばかりでなく、慈愛と優美を併せ持っているという印象を与える。赤が暗く濃ければ厳粛で威厳があるものになり、明るく淡ければ慈愛と優美に満ちたものになる。このように老人の威厳と若者の感じの良さとが一つの色彩の中に包みこまれているのである。」

連句の世界-安東次男「風狂始末-芭蕉連句評釈」より>

「花見の巻」-29

   我名は里のなぶりもの也  

  憎れていらぬ躍の肝を煎  珍碩

躍-をどり-、煎-いる-

次男曰く、「なぶりもの」というから「憎れて」と承け、前句に嵌って付けている。「いらぬ肝を煎」が、其人を虚から実に執成して人柄を見定めた作で、たねほ踊-初秋-としたのは次に月の座をひかえているからである-踊に月は付合-、と。


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我名は里のなぶりもの也

2009-03-07 10:52:47 | 文化・芸術
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Information-四方館 DANCE CAFE –「Reding –赤する-」

―世間虚仮― 広島原爆投下前のCG写真

政治団体を隠れ蓑にした西松建設からの巨額献金で、小沢一郎の公設秘書大久保隆規が政治資金規正法違反容疑で逮捕されたこの3日以来、政界には激震が走り、新聞・TVの報道も関連ニュースに賑やかこのうえないが、このところは新聞などとてもじっくりとは読めないような状態だから、一連の騒動を遠くから眺めやるといった態で過ごしている。

そんな朝方の、束の間のほっと一息、眼に映じた紙面トップの写真、原爆投下前の広島の街並み、ドーム界隈から周辺の風景をCGで復元したという一枚が掲載されていた。左側に在りし日のドームを配して、太田川が本川と元安川とに岐れる中州が三角状に延び、当時広島有数の繁華街だったという中島町には、瀟洒な二階建ての木造家屋が立ち並んでいる。遙か前方に広がる、霞むように見える低い山脈は、左に江田島や能見島、右に宮島など、瀬戸の島々だろう。

よくTVなどでCG映像を空撮のごとく動態で見せられることがあるが、この手のHyper Realism?には此方の想像力はちっとも羽ばたかず、却ってリアリティが遠のくばかりに思えてしかたがないのだが、今朝のこの一葉は、その3次元CGで復元した画像にも拘わらず、それをあらためて2次元平面の写真として掲載されていることからであろうか、ふと眼を奪われひとときその風景に見入ったものだった。
 -写真は毎日新聞本日朝刊より

<連句の世界-安東次男「風狂始末-芭蕉連句評釈」より>

「花見の巻」-28

  中なかに土間に居れば蚤もなし  

   我名は里のなぶりもの也  翁

次男曰く、観相句の面白さは、前後に執成していろいろな世相人情を取出せることである。前句は、今一番と目を血走らせる勝負師に対する冷しにもなれば、偶、それともたわむれにか、知った土間の味が行脚放浪への誘い水ともなるだろう。

里人の一人でも、余所者でもよいが、自ら「我名は里のなぶりもの」と名告る人間はむろん痴愚の徒ではない。「ほそ道」日光山の麓のくだりで「我名を仏五右衛門と云」と名告った宿の主と表裏、同じ伝の人物の取出しである、と。


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中なかに土間に居れば蚤もなし

2009-03-04 23:09:24 | 文化・芸術
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―四方のたより― 忙中閑あり

数年前に港区で借りていた事務所を引き払って以来、お水取りの頃、2月末頃からこの月末あたりまで、例年きまって私の手内職が繁忙を極める時期なのだが、そんな最中にDance Cafeの企画を入れたものだから、いつもよりきつくなると覚悟はしていたし、早めに着手すべしと心懸けたつもりだった。

ところがそんな場合にかぎって好事魔多し、手内職といってもいわゆる事務屋の仕事で、パソコン相手の明け暮れなのだが、昨年暮れにそれまで使っていたメカが突然ダウンして新機種に入れ替えた際、XPからVistaにしたのがここに至って災い、この仕事に最も要になるソフトがまともに動いてくれないことが迂闊にもいざとなって判明、しばし立ち往生といった始末なのである。

もちろんただ手を拱いていたわけではない。すぐに安上がりのXP導入機購入の手配はしたし、かたわら現状で可能な仕事は手を尽くしてやってはいる。この3日ほどなどずっと朝方まで寝ずで没頭してもきた。お蔭でまだ宵のうちというのに、疲労と睡魔で些か呆としながら、これを綴っている。肝心の新機は明日にしか揃わないし、やれることはやったしで、身から出た錆、おのれの不覚からとはいえ、ここにきて手待ちの状態だ。

忙中閑ありとくれば読書になぞ勤しめばよいようなものだが、今夜はそれほどの気力が湧こう筈もなし、ただぐっすりと眠るしかあるまい。

<連句の世界-安東次男「風狂始末-芭蕉連句評釈」より>

「花見の巻」-27

   仮の持佛にむかふ念仏  

  中なかに土間に居れば蚤もなし  曲水

次男曰く、「仮の持佛」から「土間に居-すわ-れば」を引出し、観相の付としている。前句苦しいときの神頼みに対する冷かしと読んでもよい。

サイコロを拝んでも霊験は怪しいものだが、蚤に責められたら土間に逃げればよい、というのが含ませた意だ。「中なかに」は「むしろ」、予想とは反対の結果になることを表す副詞である。

蚤は「毛吹草」以下に晩夏の季とする。兼三夏、と。


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仮の持佛にむかふ念仏

2009-03-03 15:27:03 | 文化・芸術
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―表象の森― 道化の笑い

以下は孫引きだが、坂口安吾が笑いについて論じたなかに、諷刺と道化-Farce-の違いをこんなふうに語っているそうな。

「笑いは不合理を母胎にする。笑いの豪華さも、その不合理とか無意味のうちにあるのであろう。ところが何事も合理化せずにいられぬ人々が存在して、笑いも亦合理的でなければならぬと考える。無意味なものにゲラゲラ笑って愉しむことができないのである。そうして、喜劇には諷刺がなければならないという考えをもつ。

 然し、諷刺は、笑いの豪華さに比べれば、極めて貧困なものである。諷刺する人の優越がある限り、諷刺の足場はいつも危く、その正体は貧困だ。諷刺は、諷刺される物と対等以上ではあり得ないが、それが揶揄という正当ならぬ方法を用い、すでに自ら不当に高く構えこんでいる点で、物言わぬ諷刺の対象がいつも勝を占めている。」

「正しい道化は人間の存在自体が孕んでいる不合理や矛盾の肯定からはじまる。-略-
 道化は昨日は笑ってはいない。そうして、明日は笑っていない。一秒さきも一秒あとも、もう笑っていないが、道化芝居のあいだだけは、笑いのほかには何物もない。涙もないし、揶揄もないし、演技などというものもない。裏に物を企んでいる大それた魂胆は微塵もないのだ。ひそかに裏に諷しているしみったれた精神もない。
だから道化は純粋な休みの時間だ。」

最後の一句はとてもくっきりとして秀逸、爽快感が走る。
道化-Farce-の笑いは一瞬の祝祭空間だ。腹を抱えて笑いころげるほどに‥、それがなかなか出来なくなってしまってはなんとも味気なくつまらない。

<連句の世界-安東次男「風狂始末-芭蕉連句評釈」より>

「花見の巻」-26

  双六の目をのぞくまで暮かゝり  

   仮の持佛にむかふ念仏  珍碩

次男曰く、打越と前は時分と気味の付であって、人物とその行為ではない。そこを見定めて双六打の二句一章に作っている。一日打ち暮した勝負のさまである。そう読まぬと三句絡みになる。

「仮の持佛」は、厨子に入れ旅などに持歩く小念持仏と考えてもよいが、御守でも賽でもよい。筒に入れたサイコロを振り拝んで今度こそと、良い目を念じている図は最も俳になる。

初折表五句目で「月待て仮の内裏の司召」と付けたのも珍碩だった。前は実の「仮」、後は虚の「仮」、二度の遣いはむろん意識した興である。

猶、板本に「持佛」「念仏」と遣い分けたのは同字差合を嫌ったからか。いっそ「ねんふつ」とすればよかった、と。


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