わたしにも漸く、愛おしい恋人ができた。
彼はアメリカ人で、美しい白人の男性である。
わたしはそれからというもの、彼と毎晩、恍惚なセックスに明け暮れている。
彼とのセックスは、感じたことのない快楽。
わたしは彼と出会えた事を心から神に感謝している。
掛替えのない素晴らしい神からの贈り物だ。
こんなに幸せを感じたことがない。
彼はまるで、わたしを母親のように求め、愛している。
わたしと彼は、相互に依存し合っている。
”なくてはならないもの”わたしたちは互いにそれを知っている。
嗚呼こんな幸福の時がわたしの人生に待っていたなんて!
あのとき死ななくて本当に良かった。
わたしは甘えてくる彼をまるで息子のように愛する。
わたしたちの愛は決して壊れることはないだろう。
決して、わたしたちの愛は離れることはない。
例え、死が、わたしたちを離そうとも。
わたしたちの愛は、永遠に。
目が醒めると、彼がいなかった。
部屋中探してもどこにもいない。
靴も携帯もそのまま。わたしの携帯に連絡も入っていない。
わたしはパソコンを立ち上げた。
するとそこに、見知らぬアドレスから一通のメールが届いていた。
「おまえの愛する男二人を預かっている。URLをクリックしろ」
とだけ書かれていた。
わたしは恐怖で貧血になって震える手でURLをクリックした。
開いた画面には、左右二つの画面に分かれて電気椅子のような椅子に縛られた二人の覆面を被せられた人間が一人ずつ映っていた。
そしてその椅子の左手から、それぞれ死神のような格好をした髑髏の覆面を被った人間が手に大きな一メートル近くある剣を持って立ち現れた。
そしてそれぞれの男が、椅子に縛り付けられている人間の覆面を取った。
右の画面の椅子にはわたしの実の兄が気を喪ったまま座らされていた。
左の画面の椅子にはわたしの恋人が怯えて蒼褪めた表情で座っていた。
わたしはその瞬間、意識を失いそうなほどのショックを受けた。
画面の下に、「カメラとマイクとスピーカーをオンにしろ」とテロップが出た。
わたしは急いでマイクとスピーカーとパソコンの内蔵カメラをオンにした。
スピーカーからは何故かドリーミーなシューゲイザーサウンドが流れている。
ヴォコーダーで音声を変えた低い声が、サウンドの中から変にゆっくりとした口調で聞えてきた。
「おまえの・・・愛する男が・・・ここに・・・二人いるのが・・・わかるか。おまえは・・・これから、どちらを・・・生かし、どちらを・・・殺すかを・・・選べ。一人は・・・拷問にかけて・・・殺すが、一人は・・・このまま・・・家に帰してやる。おまえは・・・この二人の・・・男のどちらを・・・拷問にかけて・・・殺したいのか」
わたしはその声が何を伝えたかを把握し、途端に全身からどくどくと生温かい汗が流れ出してきた。
「選ぶ時間を・・・五分間・・・与えてやる」
わたしは画面の中の、二人を交互に見た。兄はいびきをかいて眠っている。恋人は、わたしの目をじっと透き通った目で見詰めている。わたしのカメラに映った顔が向こうからも見えているのだろうか?
スピーカーの中からは、この極限の選択を迫られているわたしたちの心境とまったくアンバランスでアイロニーなずっと気怠くも甘美なユートピアへのマインド・トリップを促すようなサウンドが流れている。
わたしはその4分の間、彼の目を見詰めながら神に祈り続けた。
「神よ・・・神よ・・・神よ・・・、わたしの神よ・・・」
「さあ・・・決めたか。どちらを・・・拷問にかけて・・・殺し、どちらを・・・助けるか。言え。言わないなら、二人とも・・・拷問にかけて・・・殺す。それが・・・おまえの・・・選択だ」
わたしは絶望のなか、”最初から”決まっていた答えを、震えながら言った。
「わたしの恋人を、拷問にかけて殺してください」
その瞬間、画面に映る彼の目から、涙が流れ落ちたのを、わたしは観た。
わたしはあれほど美しい涙を、観たことはない。
わたしは彼と出会えた事を心から神に感謝している。
掛替えのない、素晴らしい神からの贈り物だ。
Washed Out - Weightless
彼はアメリカ人で、美しい白人の男性である。
わたしはそれからというもの、彼と毎晩、恍惚なセックスに明け暮れている。
彼とのセックスは、感じたことのない快楽。
わたしは彼と出会えた事を心から神に感謝している。
掛替えのない素晴らしい神からの贈り物だ。
こんなに幸せを感じたことがない。
彼はまるで、わたしを母親のように求め、愛している。
わたしと彼は、相互に依存し合っている。
”なくてはならないもの”わたしたちは互いにそれを知っている。
嗚呼こんな幸福の時がわたしの人生に待っていたなんて!
あのとき死ななくて本当に良かった。
わたしは甘えてくる彼をまるで息子のように愛する。
わたしたちの愛は決して壊れることはないだろう。
決して、わたしたちの愛は離れることはない。
例え、死が、わたしたちを離そうとも。
わたしたちの愛は、永遠に。
目が醒めると、彼がいなかった。
部屋中探してもどこにもいない。
靴も携帯もそのまま。わたしの携帯に連絡も入っていない。
わたしはパソコンを立ち上げた。
するとそこに、見知らぬアドレスから一通のメールが届いていた。
「おまえの愛する男二人を預かっている。URLをクリックしろ」
とだけ書かれていた。
わたしは恐怖で貧血になって震える手でURLをクリックした。
開いた画面には、左右二つの画面に分かれて電気椅子のような椅子に縛られた二人の覆面を被せられた人間が一人ずつ映っていた。
そしてその椅子の左手から、それぞれ死神のような格好をした髑髏の覆面を被った人間が手に大きな一メートル近くある剣を持って立ち現れた。
そしてそれぞれの男が、椅子に縛り付けられている人間の覆面を取った。
右の画面の椅子にはわたしの実の兄が気を喪ったまま座らされていた。
左の画面の椅子にはわたしの恋人が怯えて蒼褪めた表情で座っていた。
わたしはその瞬間、意識を失いそうなほどのショックを受けた。
画面の下に、「カメラとマイクとスピーカーをオンにしろ」とテロップが出た。
わたしは急いでマイクとスピーカーとパソコンの内蔵カメラをオンにした。
スピーカーからは何故かドリーミーなシューゲイザーサウンドが流れている。
ヴォコーダーで音声を変えた低い声が、サウンドの中から変にゆっくりとした口調で聞えてきた。
「おまえの・・・愛する男が・・・ここに・・・二人いるのが・・・わかるか。おまえは・・・これから、どちらを・・・生かし、どちらを・・・殺すかを・・・選べ。一人は・・・拷問にかけて・・・殺すが、一人は・・・このまま・・・家に帰してやる。おまえは・・・この二人の・・・男のどちらを・・・拷問にかけて・・・殺したいのか」
わたしはその声が何を伝えたかを把握し、途端に全身からどくどくと生温かい汗が流れ出してきた。
「選ぶ時間を・・・五分間・・・与えてやる」
わたしは画面の中の、二人を交互に見た。兄はいびきをかいて眠っている。恋人は、わたしの目をじっと透き通った目で見詰めている。わたしのカメラに映った顔が向こうからも見えているのだろうか?
スピーカーの中からは、この極限の選択を迫られているわたしたちの心境とまったくアンバランスでアイロニーなずっと気怠くも甘美なユートピアへのマインド・トリップを促すようなサウンドが流れている。
わたしはその4分の間、彼の目を見詰めながら神に祈り続けた。
「神よ・・・神よ・・・神よ・・・、わたしの神よ・・・」
「さあ・・・決めたか。どちらを・・・拷問にかけて・・・殺し、どちらを・・・助けるか。言え。言わないなら、二人とも・・・拷問にかけて・・・殺す。それが・・・おまえの・・・選択だ」
わたしは絶望のなか、”最初から”決まっていた答えを、震えながら言った。
「わたしの恋人を、拷問にかけて殺してください」
その瞬間、画面に映る彼の目から、涙が流れ落ちたのを、わたしは観た。
わたしはあれほど美しい涙を、観たことはない。
わたしは彼と出会えた事を心から神に感謝している。
掛替えのない、素晴らしい神からの贈り物だ。
Washed Out - Weightless