あまねのにっきずぶろぐ

1981年生
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

愛と悪 第八十二章

2021-11-01 23:57:14 | 随筆(小説)
すべてが生まれ、すべてが帰る夜空、エホバ。

2021年11月1日。今日は、お姉ちゃんの誕生日。
生きていたなら、56歳の誕生日を迎えるはずだった。
でもお姉ちゃんは、死んでしまった。
お母さん、お父さん、お姉ちゃんもとうとうそちらへ行ってしまったよ。
こず恵をこの星に残して。
お姉ちゃんの御通夜の日(26日)の夜。
こず恵は夜空を見上げたんだ。
あんなに美しく星たちがたくさん輝く夜空を、こず恵は何年振りに観ただろう。
あんなに綺麗に観えたのは、きっとお姉ちゃんがこの夜空に昇ってしまったからだ。
もう、この地上へは当分戻っては来ないことを決めて、旅立ちと犠牲の為に夜空高く飛んでった烏のように。
お姉ちゃんは黒い服が好きで、いつも着てて、良く似合ってたね。
棺のなかの目を醒まさないお姉ちゃんの身体に、お姉ちゃんが良く着ていた黒のカーディガンが掛けられていた。
愛おしいお姉ちゃんと一緒に、燃えてしまった。
こず恵はお姉ちゃんの告別式(27日)から帰ってから毎日、駅まで往復一時間以上かけて歩いて行ってるんだ。
生きた即身仏のような方が駅の角(辻)にずっと、何時間もじっとして頭を垂れて立っておられて、その方に会いに行ってる。
こず恵もああなりたいなと想ったよ。
自分を犠牲にし、どんなに苦しくとも他者を想う人になりたい。
この世界(人々の暮らす社会)は…、やっぱりこず恵には合わないようなんだ。
何処に行っても変わり者で、変な目で観られてる気がする。
だからとても辛いよ。
お姉ちゃんもこず恵のことを「おまえはほんまに変わってる。」「おまえはほんまの気狂いや。」って言ってたけど、そんなこず恵をずっと大切に想って愛してくれていたんだね。
ありがとう、お姉ちゃん。
でもお姉ちゃんだって、相当変わってるよ。
さっきも想像したんだ。
お姉ちゃんの告別式で、僧侶が御経を唱えて、喪主の挨拶のあと、こず恵もお姉ちゃんの棺の前に立って言うんだ。
「お姉ちゃん。あの眩しい太陽の如くに明るいお姉ちゃんが、こんなにも早く旅立ってしまうなんて、こず恵は想ってもいなかったし、想いたくなかったよ。
こんなに早くこず恵を此処に残して行ってしまうなんて、そんなことを想像もしたくなかった。
でもお姉ちゃんは、ずっとずっと、こず恵に隠してたの…?
もう限界なんだってことを…。
お姉ちゃんは、去年、6月、7月頃、お兄ちゃんの廃墟のような猫屋敷(わたしの実家)を二人で片付けに行く途中か行った帰りに、こず恵に車のなかで苦しそうに言ったね。
『(みんなわたしが元気で鬱にもならないと想ってるけれど)ほんまはわたしが一番弱いんや。』って。
お姉ちゃんは、みんなの苦労をだれよりも背負い込んで、もう限界だと感じていたんだ。
それほどまでに苦しいのに、お姉ちゃんはあの日、こんなジョークを言ったね。
その何日か前、トラ(お姉ちゃんが一番長く飼っていた猫)の亡骸を火葬しに行く為に、動物霊園(葬儀場)へ行く途中の車のなかで、お姉ちゃんは運転しながらこんなことをこず恵に言って、こず恵を笑わせてくれたね。(あのとき、お兄ちゃんとしんちゃんと別々に車で向かって、お姉ちゃんの車に二人で乗っていた。)
火葬場へ向かうなか、火葬の話になって、お姉ちゃんは、笑いながらこんな妄想話を話しだした。
或る男性が、自分の年老いた母親の葬儀を終え(火葬し終え)、棺のなかを覗いたんだ。
すると信じ難いことに、自分の母親が生焼け状態で出てきた…。
その話を、その男性はテレビで話すんだ。
プライバシーの為に顔にはモザイクがかけられ、音声もエフェクトをかけられて、男性は鼻で笑いながら話すんだ。
お姉ちゃんはこず恵を笑わせようと、見事にその男性のエフェクト入りの声を真似て演じてくれたね。
『ええ、そうなんですよぉー(笑)完全にまだ焼けてなくて生焼けの状態で出てきちゃったんですよねぇー(笑)ホント吃驚しましたよぉー(笑)』
こず恵はあまりに可笑しくて大爆笑してしまったよ。これからもうすぐ、お姉ちゃんの愛するトラを火葬するというときに…。
でもお姉ちゃん、そんなブラックジョークを話したあと、数分後はトラっ、トラって何度も呼びかけて泣いていたね。
こず恵は、そんなお姉ちゃんが本当に本当に本当に大好きで堪らなかったよ。
まだこず恵は信じたくないんだ。きっと何年経っても、信じたくない。
もっとたくさん、こず恵はお姉ちゃんと一緒にいろんなことを経験したかったんだ。
お姉ちゃんはこず恵が生まれたときから知ってるけれども、こず恵の一番古いお姉ちゃんの記憶がいつか、ずっと懐い出そうとしていた。
お姉ちゃんはこず恵が幼いときに家を出たから、いま懐い出せる一番古い記憶がこず恵が8歳くらいのときなんだ。
お姉ちゃんは一番仲の良い友達のマー君をこず恵に初めて会わせた。
それで何処へ行ったか懐い出せないけれど、マー君が帰ったあと、お姉ちゃんの車(確かあの頃、赤いオープンカーの車)のなかで、こず恵は突然何も言わず後ろの席でぽたぽたと涙を落として泣き始め、お姉ちゃんを吃驚させた。
お姉ちゃんは勘が鋭いから、こず恵の辛い気持ちの原因がすぐにバレた。
それでお姉ちゃんは運転席から振り返ってこず恵を宥める(安心させる)ために言ったんだ。
『ちゃうで、こず恵。”マー君”は女の子やで?』
お姉ちゃんはこず恵が男性(恋人)のマー君にお姉ちゃんを取られたと想って、嫉妬のあまりに悲しんで泣いていることがすぐにわかったからそんなことを言った。
それでこず恵はお姉ちゃんに対し、そのとき泣きながらこう想った。
なんでそんな変な嘘つくんやろ…!?
でも実はそれは本当だったことがあとでわかったんだ。マー君は性同一性障害(GID)で肉体は女性で心は男性だったんだ。
こず恵は完全にマー君が男の人だと想っていた。
お姉ちゃんはあのとき、嬉しかった?
こず恵はお姉ちゃんのこと、お母さんのように想ってたのだろうね。
そんなお姉ちゃんに恋人がいることがあまりにショックだったのだろう。
ずっと、本当はお姉ちゃんをこず恵は独り占めしたかったんだ。
でもできないことはわかってたから、ずっと諦めてた。
だから会っても、心の底では寂しかったのだと想う。
想ったんだ。過去生で、こず恵はお父さんともお兄ちゃんとも恋人だったように感じているけれども、お姉ちゃんともそうだったんじゃないかなって。
お姉ちゃんは、すごく男性性も強くて、不思議な存在だった。
お姉ちゃんの魂は、男性的なのかな。
お姉ちゃんが此の世を去った日(24日)に表現した作品たちを読み返して想ったんだ。
そうだ、もうこのとき、お姉ちゃんは此の世にいなかったんだ。
天へ、お姉ちゃんは昇っていたんだ。
天は、お姉ちゃんをわたしから連れ去り、自分の元へ帰した。
天は、お姉ちゃんとひとつとなって、わたしにあの夜言った。
「今夜、夢で会えるか?」
わたしは自動筆記で書いた自分の作品を読み返して、”彼”と”ぼく”はだれだろう?と感じていた。
でも今わかった。
お姉ちゃん…だったのだね…?
お姉ちゃんは、天とひとつになって、わたしに約束してくれたんだ。
”彼は立ち上がる。(彼はよみがえる。)”
わたしはあなたに約束する。
わたし(あなた)はよみがえる。
そしてあなたをわたしは強く抱き締める。
あなたを、わたしは何度忘れようとも、
わたしは、あなたを憶いだす。
この、無限に広がりゆく星空のなかで。