BLロック王子小説「ディスティニーアンダー・グラウンド-ギターとスターに愛され過ぎた王子-」

 ★過去に傷を持つ美貌のロックギタリスト遠藤麻也(まや)。運命の恋人・日向 諒と東京ドームに立つが…

★BLロック王子小説21-29「ディスティニーアンダーグラウンド」

2019-07-26 21:55:41 | ★ディスティニー21章
 ようやく諒が理解したところで、さらに鈴木が困ったことを言い出した。
「そういえば今度のミーティングで言われると思いますけど、最近業界で盗難が続いているそうですよ。」
「えっ、何それ?」
 最初は大物バンドに密着していたライターのバッグが、大きなホールのライブの時に行方不明になり、搬入口近くのゴミ箱に捨てられていたのだという。
 システム手帳と携帯は見つからず、財布は別のゴミ箱から出てきた…
「…」
 諒に言葉はない。
 すると鈴木はさらに怖いことを言う。
「他のバンドやタレントさんなんかも何件か同じような被害が…困ったことに、あの鈴音ちゃんのマネジャーの1人もそれに入ってるってことで…」
「何だろう、それ」
「あくまで噂ですけど若いチンピラのアルバイトみたいなんです。
パパラッチに売ったり夜も街の怖い人に売ったりしてるみたいです。それで困ってるのはそのシステム手帳の中に、諒さん達のスケジュールもホテルも詳しくかって書いてあったらしくって」
「えっ、なんで意味わかんない。あのコ、売り出し中のアイドルのくせに、俺たちの追っかけなの? 東京と横浜の楽屋で会ったんだから、もういいんじゃないの?」
「そのはずなんですけどね、あと須藤さんがぼやいていたのは、最近パパラッチの数が増えているみたいなのと、それに狙われているのが盗難に遭った人の担当しているアーティストばかりじゃなくて、その手帳に書かれていた親交のあるアーティストにもなので」
「そりゃうちも困るねえ…」

★BLロック王子小説21-28「ディスティニーアンダーグラウンド」

2019-07-25 21:50:42 | ★ディスティニー21章
 心配になって諒が尋ねると、
「大丈夫なんですけど、社長が心配して休みにしたんです。我々若い者と同じわけにはいかな…」
 そこで2人は顔を見合わせて笑ってしまった。
 取材先ではやっぱり、ミリオンがすごいですねと言われたが、諒は、みんなで獲ったものなので、とかまだ実感がないとか答えた。それは諒の本音だった。
 帰りは鈴木と2人で夕食を済ませた。鈴木は麻也の着替えなどを取りに、また諒たちの部屋に上がった。
 ダブルベッドに腰掛けて、諒は作業中の鈴木の背をぼーっと見ていた。細々したものは諒が選んでやるべきなのだろうが、そんな気になれなかった。
 自分のボストンバッグに麻也のシャツを入れていた鈴木が、クローゼットの前で座ったまま大きなため息をついたのは、そんな時だった。
「ごめん、鈴木さん俺もやるよ」
「大丈夫ですよ。いや、麻也さんの寝顔の写真、本当に取られてなきゃいいなとか思って…」
「えっ?」
 諒はびっくりして、そのまま固まってしまった。
 それを見て、鈴木は落ち着いた表情で諒を見上げ、
「麻也さんはあの日気分が悪くなって、ケンさんの部屋を目指してしてホテルに戻ったそうです。僕たちマネージャーや付き人が誰も見当たらなかったそうで…すみません…
「…でも、どうして何の連絡もなく、ケンの部屋だったんだろう?」
「麻也さんはかなり具合が悪かったみたいです。それで名前も知らない地元のスタッフにホテルにまでは付き添ってもらったそうで。
 だから、諒さんのいない自分の部屋でひとりになるのが怖かったので、僕たち打ち上げ組と別行動で信頼できる人間といえばケンさんしか思いつかなかったと…」
 諒が驚くばかりで、言葉を失っていると、
「昨日社長の家で事情を聞かれたんです。麻也さん、ボム、ケンくん、須藤さん、真樹さん、そして僕と後藤くんで」
「…」
「あの夜、ご存じの通りケンくんは打ち合わせでいなかったんですが、とにかく麻也さんは限界で横にならせてもらったと…」
 そして、ボムが言うには、馴染みの追っかけの女の子の携帯が繋がらず、約束がキャンセルできなかったので2人は酒を持って、約束通りやってきて…
 「バカじゃないの、そんな子追い返せば良かったのに」
「そうなんですよって同じアシスタント仲間の部屋にも交渉したけれどもちろん断られてどうしようもなかったそうです」
 鈴木もあきれ顔だったが、諒もバカバカしくなった。
 女の子たちは寝ている麻也を見て色めき立ったが、慣れた追っかけだったらしく麻也を起こさないようにして、起きたらせめて話だけでもしようという感じだったらしい。
「ボムは麻也さんがあまり見えないように座って飲んで喋っていただけと言ってましたけどね…それは本当だと思いますけど、ボムも結構酔っていたようなので、隠し撮りのようなことはされていないか心配ですよ。ケンくんが女の子と変なことをしていた形跡がないって言ってたのが、せめてもの救いかも…」
諒はまた鈴木をじとっと見てしまった。
「何で救いなの?」
「えっ、だってボムがヘンな事してたら麻也さんまで共犯みたいに思われるじゃないですか」
 ぬか喜びを恐れた諒は、
「えっ、どういうこと?」
 すると鈴木は察してほしいという風に、
「そういう形跡があったら、麻也さんまで参加したかと一瞬でもケンくんも疑っちゃうじゃないですか!」
「あ、そうか…」
 諒はほっとしてにんまりしてしまった。

★BLロック王子小説21-27「ディスティニーアンダーグラウンド」

2019-07-24 21:56:29 | ★ディスティニー21章
諒は1人でマンションに帰り、疲れ切って、ダブルベッドの方に転がっていた。
 自室のベッドでも良かったが、とにかく手足を伸ばしたかったのだ。
(自分のこともできないのに、病気の麻也さんのことまで面倒見るのはもう無理…)
 とは言っても、1人ではなんとなく寂しいので、好きなアート系のビデオなどをテレビで見ていた。夕方近くなると、どうにか起きだして、コーヒーなど飲んでいたが…
(なーんにも考えたくないな…もう打ち上げなんか出ない。ホテルも1人の部屋にしてもらおう…)
 その時、珍しく家の電話が鳴った。
 ここの番号を知っているのは、身内だけだから安心して立ち上がり、ディスプレイを見ると、社長だったので驚いて受話器を取り上げると、
―諒、体調の方はどうだ? 風邪とかひいてないか?
 社長の優しさが嬉しくて、
「お陰様で大丈夫です。でも明日の午後の主題は早く切り上げちゃおうかななんて…」
ーああ、それでいいよ、疲れてるんだろう
。それ終わったら、お前もうちに来て泊まったら? 麻也にも会えるし、真知子ちゃんの手料理も…
「いや、すいません、それは…ちょっとやりたい作業もあるので…
曲作りとか…」
 麻也の名を聞いて電話を切りそうになったを引き止められた。
 あと、ミリオンのお祝いなんだけど、あさってライブの後で。豪華なのはツアーの後に張り込むから。
 あー、そんなこともあったっけ…
 諒はただありがとうございますとしか言えなかった。
 あまりに諒の反応が悪いので、
ーまぁ、取材もあんまり無理しないで。体には気をつけてな。
 と電話は終わってしまった。
 しかし…
 受話器を置いてから気づいた。
 あの大事件はどうなったのかと。
「まあ、大したことなかったんで何も言われなかったんだろうな…」
 翌日の取材には意外にも須藤ではなく、鈴木が同行してくれた。
「須藤さん体調悪いの?」

★BLロック王子小説21-26「ディスティニーアンダーグラウンド」

2019-07-23 21:29:24 | ★ディスティニー21章
 ケンが、
「須藤チーフ、監督不行き届きで申し訳ありません。これから詳しく問いただして、明日ご報告します」
 と頭を下げるのに、須藤は頷くと、ボムに向かって厳しく、
「若い人の部屋割りの時からずっと噂になってましたよね。それでケンくんと同室にしたのに何ですかこれは!」
 さらにはいつも冷静な直人も憤懣やるかたないと言った様子で、
「ボム! 女の子を部屋に入れるなんて、どんだけバンドに迷惑かけるかわかるよね!」
「はい、でも変なことはしてなくて、じゃあ一緒に飲んでた…」
「言い訳はいいよ、どうして麻也さんのいる部屋に女の子を通したの! 今後何かあったらお前、責任取れるの? バンドに傷つけてもらうのやめてくれる? お前は最近のスタッフだから、クビぐらいで済むだろうけど、ケンや、須藤さんや古くからの身内をどうしてくれるんだよ!」
「直人やめろって!」
 直人は激昂し、ボムの胸ぐらを掴みかけ、慌てて真樹と鈴木たちが止めたが、いつも冷静な直人のその態度に驚き、直人のことは誰も咎めなかった。
 しかし、その時気分が悪くなったらしく、麻也の体が前に出たボムを肩をつかみ、そこねて崩れ落ち、ケンと須藤で慌てて支えた。 
真樹が、
「鈴木さん、悪いけど、俺の部屋に兄貴連れてくんで手伝ってもらっていい?」
 はい、と言いながら、鈴木も他のみんなも諒の様子を伺ったが、諒は思わず目をそらしてしまった
 それが諒のいつわらざる気持ちだった。
 
 …ディスグラ一行は、関東での公演のために東京へ戻ったが…
 移動の間、麻也がどうなっていたか、諒は知らない。
 乗り物の中では麻也は直人の隣でみんなと同じく爆睡していたし、サポートも、真樹たちに押し付けていたし。
 3日後のライブまで2人を離してでも休ませなければと、麻也は社長宅へ連れていかれたし、ボムのことも聞こえては来なかった。
 諒はその社長の計らいに感謝していた。

★BLロック王子小説21-25「ディスティニーアンダーグラウンド」

2019-07-22 21:39:59 | ★ディスティニー21章
やはり、須藤の先、廊下でびっくりして顔をして立ちすくんでいたのはローディーのケンのアシスタントのボム…
 そして、その先には化粧が汗くずれしているとはいえ、いかにも追っかけらしい、ちょっと服の乱れた、派手な20歳ぐらいの女の子2人がいて…
「ちょっとっ!」
 須藤の言葉も聞かず、その女の子達は非常階段の方へと必死に走っていく。付き人たちが追ったが、疲れ切っているせいか逃げられてしまった。
 しかし、それよりもみんなが驚いたのはボムの後から同室のケンではなく、乱れた髪の麻也がよろよろ出てきたことだった。
 サンドベージュ色のパンツのウエストをずり上げながら、白いシャツはややはだけていて…
「ええーっ!」
 みんなが混乱していると、エレベーターから誰かが降りてくる気配…
 姿をを現したのは、疲れ切ったケン、大きなシステム手帳を抱えたケンだった
「えっ、みなさんどうしたんですか?」
「ケンくん、ボムと一緒にいたんじゃなかったの?」
「いや、打ち合わせが長びいて、今帰ってきたところで…」
 疲れきったその様子に嘘があるとは思えなかった。
 そうなると当然麻也とボムに視線は集まるわけで…
 須藤は厳しく問いただす。
「ボム!これは一体どういうわけだ!女の子はホテルの中に入れるだって言ってあるだろう!」
次は麻也に、
「麻也さん、麻也さんも一体この部屋で何をしていたんですか!」
 怒りの矛先が向けられても、麻也は当惑した表情を浮かべるばかりだった。
 でも、どういう当惑なのだろう、諒は嫌な予感がして目をそらした。
 今の麻也のこと、女の方から何かされたのかも…いや、途中からは、麻也も合意のうえだったかも…
 最近では自分にもあまり反応しなかったし…
(女の子の方がいいって戻っていたかもね…)
「本当に何を、いや、何があったんですか麻也さん…」
 みんなヘトヘトなのに、更に疲れているはずの年長の須藤が気の毒にも見え、また諒自身も疲れていて、この場をどうにかしたいと投げやりにもなり、ささやかな動きを起こした。
 真樹に小声で言ってみたのだ。
「真樹、王子様の荷物持ってくる。そっちで泊めてあげて…」
「いいけど、諒、兄貴は無実だと思うよ、次から部屋はせめてツインにしたら…」
 その声を背中で聞きながら諒は自分の部屋に戻ると、クローゼットから麻也のバッグを取り出し、廊下に戻って真樹に突き出した。