首相の解散権の是非が議論されている。ここ数十年、首相が与党に都合のいいタイミングを見計らって解散・総選挙に打って出るということは何度もあったが、実はそのような解散は憲法に規定されておらず、憲法第7条が内閣の助言と承認に基づく「天皇の国事行為」として衆院の解散を挙げていることを根拠にしているにすぎない。イギリスでは2011年に首相の自由な解散権をなくす法律が制定され、先進諸国でも同じような傾向だという。
日本でも地方自治体の首長については、党利党略で辞任して出直し選挙で当選しても、その任期は辞任前の任期までで変わりなく、「出直し選から4年」とはならない(先日の大阪クロス選挙に関する報道で知った)。出直し選挙は、自党に有利に選挙戦を進めるための党利党略による選挙が問題視され、1956年の公職選挙法改正では完全禁止されたほどだ。ただ、有権者の信を問うという意義もあることから、1962年の改正で禁止ではなくなったが、任期延長に利用できないよう、辞任した当人が当選した場合には任期はもとのままという規定が導入された(第259条の2)。(Weblio辞書「新語時事用語辞典」、ウィキペディア)
首相による解散総選挙の場合、首相自身が直接選挙されるわけではないので首長の出直し選挙と事情は違う。だが党利党略により相手陣営の準備が整わないうちに早期選挙を仕掛けて事実上の任期延長を勝ち取るのが正しくないという点では同じではないだろうか。
一方、私が今首相の解散権を論じるのも、今衆院選をされては野党の共闘準備が整っておらず、自民党の大勝に終わりそうだという危機感からにほかならない。その意味では私情がはいった議論ではある。立憲民主党の枝野代表は参院選と合わせた衆院解散による「ダブル選挙だと確信している」asahi.com 2019-6-9と公言し、解散総選挙がなければ政権をとれないので解散歓迎とまで言っている(asahi.com 2019-5-25)。多分にブラフと思えてならないが、野党が迎え撃つ準備を整えていることが、首相による党利党略の解散総選挙に対する最大の抑止力になる。
追記:結局、参院選に合わせた衆院解散はしない方向になったという(朝日新聞2019-6-10夕刊)。現在の「自公で3分の2」を失うリスクを懸念するのはわかるが、参院選単独でも与党優勢との世論調査の結果が出ているからだという。私も解散を懸念していたが、こう言われてみるとなんだか不戦敗のようで悔しい。ブラフでなく「解散歓迎」と言える態勢を野党はきちんと作っておいてほしい。(そもそも「同日選見送り」がフェイントという可能性はないのか?)
関連リンク:
「(インタビュー)解散権はだれのものか 憲法学者・岩切大地さん」朝日新聞2019-6-13 (首相の「解散権」は二大政党制とはなじみがよかったのだが、「一強」時代になって問題になったという解説になるほどと思った。)
追記2:朝日新聞2019-6-25では内閣と衆院が対立した場合に「解散権」に意義があることも紹介しているが、自民1強の今日そのような状況はなく、「政権の基盤強化と延命の手段」、「議員をゆさぶる武器」になってしまったと指摘する。
それにしても、朝日新聞でさえ「7条解散」が即違憲とは言っていない。憲法解釈上「ありえない」話ではないのだが、今の政治状況で解散権に制限がなかったら政府が強くなりすぎる、ということのようだ。
関連記事:
「「伝家の宝刀」首相の解散権は実は当たり前ではない」
日本でも地方自治体の首長については、党利党略で辞任して出直し選挙で当選しても、その任期は辞任前の任期までで変わりなく、「出直し選から4年」とはならない(先日の大阪クロス選挙に関する報道で知った)。出直し選挙は、自党に有利に選挙戦を進めるための党利党略による選挙が問題視され、1956年の公職選挙法改正では完全禁止されたほどだ。ただ、有権者の信を問うという意義もあることから、1962年の改正で禁止ではなくなったが、任期延長に利用できないよう、辞任した当人が当選した場合には任期はもとのままという規定が導入された(第259条の2)。(Weblio辞書「新語時事用語辞典」、ウィキペディア)
首相による解散総選挙の場合、首相自身が直接選挙されるわけではないので首長の出直し選挙と事情は違う。だが党利党略により相手陣営の準備が整わないうちに早期選挙を仕掛けて事実上の任期延長を勝ち取るのが正しくないという点では同じではないだろうか。
一方、私が今首相の解散権を論じるのも、今衆院選をされては野党の共闘準備が整っておらず、自民党の大勝に終わりそうだという危機感からにほかならない。その意味では私情がはいった議論ではある。立憲民主党の枝野代表は参院選と合わせた衆院解散による「ダブル選挙だと確信している」asahi.com 2019-6-9と公言し、解散総選挙がなければ政権をとれないので解散歓迎とまで言っている(asahi.com 2019-5-25)。多分にブラフと思えてならないが、野党が迎え撃つ準備を整えていることが、首相による党利党略の解散総選挙に対する最大の抑止力になる。
追記:結局、参院選に合わせた衆院解散はしない方向になったという(朝日新聞2019-6-10夕刊)。現在の「自公で3分の2」を失うリスクを懸念するのはわかるが、参院選単独でも与党優勢との世論調査の結果が出ているからだという。私も解散を懸念していたが、こう言われてみるとなんだか不戦敗のようで悔しい。ブラフでなく「解散歓迎」と言える態勢を野党はきちんと作っておいてほしい。(そもそも「同日選見送り」がフェイントという可能性はないのか?)
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「(インタビュー)解散権はだれのものか 憲法学者・岩切大地さん」朝日新聞2019-6-13 (首相の「解散権」は二大政党制とはなじみがよかったのだが、「一強」時代になって問題になったという解説になるほどと思った。)
追記2:朝日新聞2019-6-25では内閣と衆院が対立した場合に「解散権」に意義があることも紹介しているが、自民1強の今日そのような状況はなく、「政権の基盤強化と延命の手段」、「議員をゆさぶる武器」になってしまったと指摘する。
それにしても、朝日新聞でさえ「7条解散」が即違憲とは言っていない。憲法解釈上「ありえない」話ではないのだが、今の政治状況で解散権に制限がなかったら政府が強くなりすぎる、ということのようだ。
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