リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

匿名の書き込みでも素性はばれる

2018-05-01 | 一般
匿名の掲示板の書き込みであっても,誹謗中傷などで被害を受けた人がサイト管理者などに「発信者情報開示請求」すれば,書き込んだ人の名前・住所・メールアドレス・IPアドレスなどを開示してもらうことができる.「プロバイダ責任制限法」による被害者保護の条項による制度だ.もちろん悪用されてはならないから実際にはいろいろ要件があるのだろうが,匿名だからと安心して暴走しないほうがいい.逆に,匿名の書き込みによって被害を受けた人は,発信者情報開示請求を使って対抗措置を考えることもできるだろう.
一つの事例が「「私は正義」攻撃や中傷」という新聞記事(朝日新聞2018-5-1)で紹介されていた.
ある会社員女性が,女性有名人のブログを見て生活ぶりが派手だと思って,自宅や近所の風景の写真から特定されていた住所を拡散したり,「詐欺師だ」という中傷を書いたりした.すると女性有名人側から発信者情報開示請求があったと,プロバイダーから連絡があったという.弁護士に相談すると法的責任を問われる可能性があると言われて,後悔してそのような書き込みはもうやらないことにしたそうだ.

匿名のはずの身元がばれる可能性はもう一つある.ハッキングによる個人情報漏洩だ.数年前,そのような情報漏洩があって,匿名で誹謗中傷を書き込んだ作家の身元がばれて,逆に批判にさらされた,というような記事を読んだように思う(うろ覚えだが).

仮に身元がばれなくても,暴走したネットの声は簡単に逆転してしまう.昨年,東名高速であおり運転を受けたあげくに死亡事故につながった件で,容疑者が逮捕されると,北九州市の無関係の人が「容疑者の父」として住所をさらされ,攻撃を受けた.メディアの取材を受けてデマだと説明したところ,今度は住所をさらした人を「逮捕されるぞ」「震えて眠れ」などと非難する投稿が続いたという.※追記:この問題では警察はデマを書き込んだ人物を特定して家宅捜索し(asahi.com 2017-12-22),デマで容疑者の勤務先とされた会社の社長が刑事告訴し(nikken-times.com 2018-4-1),11人が書類送検となった(asahi.com 2018-6-19).11人がどうやって特定されたかは報道されていないようだが,プロバイダ責任制限法による個人情報開示だったとしたら公表されるだろうから,おそらく過去の書き込みなどを分析して絞り込んだのではないか.

それにしても,匿名とはいえ,なぜネットではみんなでよってたかってこのように特定の人をたたくのだろう.今回の記事で,ある弁護士は,みなで誰かを攻撃する「一体感」や,対象者の特定に成功して得られる周囲からの「評価」に酔っているのではないかという.誰かを批判するのももちろん言論の自由ではあるのだが,それにしても超法規的な私刑にならないよう,批判するにも節度は必要だろう.批判が昂じて誹謗中傷になれば,それはもはや「正義」ではありえない.(今回の記事では,さらにエスカレートして,勘違いして批判の的になった人の自宅に,頼んでいないネット通販の商品や請求していない住宅や保険,宗教団体の資料が大量に届いたという事例が紹介されていたが,こうなると完全に犯罪だ.)ちなみに,東名高速あおり運転事故で,仮に「容疑者の勤務先」とか「容疑者の親」という書き込みが真実であったとしてもその会社に嫌がらせをすると業務妨害や名誉棄損になりうることはたとえば弁護士ドットコム「 デマ拡散の違法性…東名死亡事故「容疑者の勤務先」虚偽情報で会社に電話殺到、休業」を参照.


追記:中学生に対する誹謗・中傷の書き込みをした人を特定して損害賠償を得た事例が朝日新聞2019-10-28に紹介されている。

追記2:俳優の春名風花氏(19)は、ツイッターで「名誉男性」「両親が失敗作」などと中傷され、裁判などで約1年かけて投稿者の身元特定につながる情報を開示させた。投稿者を訴えたところ、投稿者側の弁護士から連絡があり、投稿者が315万円を支払うことで示談したという。情報開示のための裁判などで100万円以上の費用がかかったという。(朝日新聞2020-7-21

追記3:上記は匿名の書き込みをした人の素性がばれるという話だったが、特定の人の匿名の「裏アカウント」が特定されるという事例もある(朝日新聞2021-9-27)。出身地、出身校、誕生日などが一致する匿名のアカウントを探して、写真やフォローしている友人、登校内容のくせなどから絞り込んで特定していくのだという(ツイッターでは設定によって誕生日が公開される)。就職活動をする人のSNSを特定して問題投稿などについて報告する業者があり、1日あたり1~2時間ほどで調査できるという。企業側としては、SNSでの不用意な投稿や差別などあきらかな問題投稿を調べておきたいという需要がある。調査結果の報告では、暴言のほか、「どうして〇〇監督は、あんな平凡な選手ばかり集めるのか。考えが小学生すぎる」など鬼の首を取ったかのような正論をふりかざす投稿、他人の個人情報を暴露してしまう投稿などが問題とされるという。SNSからわかった副業について報告されることもあるようだ。
職業安定法では、採用活動にあたり、思想信条、社会運動などに関する個人情報の収集を原則として認めておらず、厚生労働省の指針でも採用は適性、能力に基づくべきであり、生活情報などの「身元調査」は「無責任な風評・予断・偏見が入り込んだ情報が含まれることがある」と述べているという(同25面)。
だがそういう法的・倫理的な問題とは別に、特定されたSNSが本当に当人のものなのか、不安が残る(誕生日が公開されていればかなり精度は高いと思われるが、誕生日を非公開にしているアカウントも調査しているのではないだろうか)。それに、先般のオリンピックでは過去の言動が問題視されたが、常習的でなく、過去にうっかりした投稿が残っていたということであれば、それだけで採用をとりやめるのはあんまりだという気もする。いずれにせよ、裏アカであっても暴言などの問題発言はするべきでないというのは明らかだが、取り違え・なりすましについては当人の努力では防げないから困ったものだ(あえて「裏アカ」でなりすます可能性は低いとは思うが)。

関連記事:
「ソーシャル時代の全体主義――国家権力より怖い(かもしれない)ネット社会の目」
「善意の世論が専制を招く:SNS発信者開示」




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