リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

またも唐突な中韓からの入国制限:官僚による調整は行なわれたのか

2020-03-07 | 政治
安倍首相は中韓からの入国制限の強化を発表した。ただアメリカでは中国全土からの入国制限を早くから決めていたのに対し、武漢から徐々に広げているだけだった対応が妥当だったのだろうか。「何をいまさら」というのが一般の受け止めではないか。(朝日新聞2020-3-64面)専門家も少なくとも中国に対しては「今さら感」が強いと指摘しており、中国メディアの記者も「日本の対応は遅いくらいだ」と語った(同2面)。
アメリカよりも日本のほうが中国との往来は多く、入国制限の影響も大きくなるので、より慎重な対応が求められたことはわかる。だがなぜ今なのか。影響が大きいといえば、2月末には全国の学校の一斉休校を決めたではないか。入国制限に関する5日の発表は、ちょうど中国の習主席の訪日延期の発表の直後だった。習氏の反発をおそれて必要な対策を行なえずにいたということではないのか。

今回言いたいのはそこではない。中韓からの入国制限強化について、外務官僚による事前調整がどこまでなされたのかだ。習主席の訪日については、外交ルートで入念に調整がされたという(同3面)。
それもあってか今回の発表について中国は冷静な反応を見せているというからまだいい。だが韓国のほうは猛反発し、「対抗措置は不可避」とまで述べた。日本での感染拡大を受けて日本人に対する入国制限をかけるのはわかるはなしだが、それを「対抗措置」と表現するところに、今回の唐突な決定がいかに韓国にとってショックだったかがわかる。入国制限強化にいちいち相手国の許可を得るものではないのかもしれないが、微妙な関係にある重要な隣国に対しては配慮が必要だ。

今回書きたかったのは、入国制限強化のタイミングの是非よりも、官僚の劣化と、官僚を生かそうとしない安倍政権の姿勢だ。
内閣が官僚の人事権を握って以来、安倍政権にすりよる官僚ばかりが厚遇され、批判的な人は左遷される(関連記事)。先日も政権に忖度するかどうかが重きをなすあまり「適材適所」が行なわれていない旨のことを書いた。舛添要一氏が同様の趣旨のことを証言しているのを読んだので引用する。
「私の厚労相時代から民主党政権時代にかけて仕事を一生懸命やった優秀な官僚が何人も、安倍政権になって飛ばされました。恐怖人事で近代国家の柱である官僚を壊し、3分の2の議席を手にして人の言うことを聴きません」(朝日新聞2020-3-6

内閣による恣意的な人事を改め、官僚というプロ集団がしっかり活躍できることが必要だ。とりあえずは今回の入国制限強化にあたってどの程度官僚と打ち合わせがされたのかが知りたい。


関連記事:
「権力の源泉:人事権が官僚を支配する」
「官僚が強かった時代がなつかしい」

追記:入国制限強化について、直前に電話連絡を受けた公明党の山口氏は「相手国と意思疎通を図ってほしい」と応じたという(朝日新聞2020-3-7)。まっとうな助言だが、生かされなかったのではないか。

追記2:上記は、中韓からの入国制限というのは官僚という専門家集団に相談したものなのか、という疑問だったが、朝日社説2020-3-7を読んで、もっといろいろな面で問題だと知った。
・政府が2月下旬に定めた基本方針では、水際対策から国内の感染拡大防止に重点を移すとしていたのに、ここで水際対策を強化するという根拠は何か。
・感染者が急増しているイタリアやイランではなく、なぜ拡大が落ち着きつつある中国なのか。
・「中国に甘い」と批判する保守層にアピールするためだけに、習主席の訪日延期が決まった段階で即、実行したのではないか。

追記3:入国制限強化に反発する韓国は、「対抗」してビザ免除停止などを打ち出した。だが中国の地方政府が入国した韓国人を隔離したことや、オーストラリアが日本より厳しい入国禁止としていることには対抗措置を取っていないことを考えると、やはり韓国政府の過剰反応に思える。外交関係者は「韓日関係と、韓国と豪州との関係が同じということはありえない」と開き直っているようだが、これは「感情的で過剰」という批判を認めているようなものだ。さすがに韓国国内でも批判が出ているという(朝日新聞2020-3-8)。
だがこうした反応は日本政府に全く予想外だったのだろうか。防疫上の制限についていちいち相手国の許可を求める必要はなくても、関係がこじれている隣国に対しては配慮を示してもよかったのではないか。

追記4:菅官房長官は9日に「我が国の考え方や措置の内容は外交ルートで韓国側に事前通報を行い、発表後も丁寧に説明した」と述べたが、韓国側は5日の入国制限発表の直前に日本側問い合わせたが「そのような事実はないと否定された」と述べている(朝日新聞2020-3-11)。かつての自衛隊機へのレーダー照射問題でもそうなのだが、関係がこじれると基本的な事実関係の認定まで難しくなってしまう。韓国側は、発表までは「査証免除措置の停止や2週間の待機要請といった具体的な内容はなかった」と述べているというから、「考え方の事前通報」をしたところまでは認めてくれているのだろうか。だとしたら、その内容がどこまで具体的だったかを検証する必要がある。
繰り返すが、感染拡大のための入国制限は必ずしも相手国の同意を得る必要はないと思う(他国の場合はどうなのだろう?)。だが、日韓関係の微妙な現状をふまえれば、責任ある政治家なら他国よりは慎重に根回しをするものだと思う。共通の危機(新型コロナだけでなく、つい先日述べた、トランプ大統領の法外な要求も)に直面した両国は連携して対処する好機でもあるはずなのに、政治のせいでそれを生かせないとしたら残念この上ない。

追記5:日本側の言い分によると、韓国への事前連絡は、入国制限発表(5日午後7時ごろ)の約2時間半前、外務省から在日韓国大使館の担当公使宛の電話連絡だという(朝日新聞2020-3-14)。韓国側も、この電話連絡があったことは認めたうえで「具体的な内容はなかった」と言いたいのだろうか。とりあえずそこを確認したいが、いずれにせよそのようなことよりも、世界的に移動や活動の制限・自粛が続く中で、人々の生活や経済活動をどう維持していくかを考えることが第一であることを忘れないでほしい。


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 政府の決めた一斉休業やイベ... | トップ | 入国制限が続くなかでオリン... »
最新の画像もっと見る

政治」カテゴリの最新記事