新型コロナウイルスについてWHOが11日にパンデミック(だが制御可能)と宣言したことで、7月開会が予定されている東京オリンピックが揺れている(朝日新聞2020-3-13)。大会組織委員会の高橋治之理事が個人的見解として延期の可能性に触れたときには組織委の森喜朗会長は即座に否定したが、その後、IOCのトーマス・バッハ会長は開催判断は「WHOの助言に従う」と述べた(同夕刊)。
開催是非の判断はどんなに引き延ばしたとしても5月下旬だというが、それまでにパンデミックが(五輪開催で再発の恐れがないほど)収束していればいいのだが、そうでない場合どうすればいいか。希望的観測だけではなく、中止・延期の場合に各方面の混乱を最小限にする「プランB」も用意しておくべきだ。「想定外」や唐突な決定で社会に混乱をもたらすのはやめてほしい。
たとえばもし今だったら。ヨーロッパやアメリカで感染が急拡大していて、世界中で入国制限を設けあっている段階で、そもそもオリンピックが成立するのか。観客については対象国の人には我慢してもらうとしても、選手も入国できない場合に、それでも開催する意義があるのか。また、全国の学校に休校が要請されてイベントが次々に無観客や中止になっている状況で、たとえば無観客のオリンピックというのが可能なのかどうか。
もちろん感染拡大のペースが落ちて移動制限が緩和された場合は開催の機運も高まるのかもしれないが、東京に世界中の人が集まることによって、却って世界中に新たに拡散の火種をまくことにならないか。
それに日本と海外とで事情が違うかもしれない。日本での感染拡大はイタリアなどよりペースがゆるやかなようだ。だから感染が一巡して海外では免疫を備えた人が増える一方、日本では免疫未獲得の人が大半という状況で世界中からウイルスが持ち込まれた場合、日本人に集中して感染が増えたりすることはないのか。
政治判断などではなく、専門的な知見に基づいた判断をしてほしい(安倍首相も、小池都知事も、IOCも)。そして専門家も、政治的な思惑に惑わされずに、客観的な見解を発表し続けてほしい。
(個人的には東京オリンピックは中止にしてほしい。中止すると莫大な経済的損失が出るとか、スポンサー収入が途絶えてIOCの財政が破綻するとかいった話もあるようだが、そもそもお金のための五輪という考えがいただけないし、開催によって感染拡大を加速させた場合の損失とどちらが重要か、よくよく考えてほしい。)
追記:
IOC会長が「WHOの助言に従う」と言ったが、ある意味WHOに下駄を預けたようにも聞こえる。だがWHOは「どんな種類の行事であれ、中止するかどうか決めるのはWHOの役割ではない」と述べている(朝日新聞2020-3-14)。だとするとIOCが「WHOから中止を助言されなかった」というだけの理由でオリンピックを強行することにならないか。少なくとも、中止・延期の判断を誰がどういう手順で決定するのかをあらかじめ確認しておくべきだ。
追記2:G7電話首脳会議での緊急協議の後、安倍首相は記者団に「人類がコロナウイルスに打ち勝つ証として、東京オリンピックパラリンピックを完全な形で実現するということについて支持を得た。このコロナウイルスとの戦い、大変手強い相手ではあるが、G7でしっかり結束して、国際社会で共に戦っていけば必ず打ち勝つことができるという認識で一致した」と述べた(BLOGOS)。ウイルス収束の見通しもないことから開催を断言したことで、朝日新聞2020-3-17夕刊・素粒子は、(ウイルスの現状についての)科学的知見を軽んじ、気合や功名心で政治決断をするのではないかと危惧している。何かにつけ「結論ありき」で突っ走る安倍政権を見ているとそんな危惧も理解できるが、ネットでは逆に、この発言は延期への布石ではないかという観測が流れている。というのも、記者団から開催時期について協議したかを問われたが、「完全な形で実施するということでG7で一致したところであります」と述べて明確に答えなかったという(朝日新聞2020-3-17、産経新聞)。いずれにせよ、決めるのは政府なのか、そのあたりがどうもはっきりしないのでは困る。
追記3:「あまりにも不平等なIOCと東京都の「開催都市契約」 」(サインのリ・デザイン)によれば、オリンピックの中止や契約解除を決められるのはIOCのみだという。また、「締結日に予測できなかった不当な困難」による変更として延期を組織委員会が要求することはできるが、決定権はIOCにあるという。だとすると、安倍首相も組織委を通じて間接的に「要請」はできるものの、決定には全く関与できないということになる。カナダが2020年夏には選手を派遣しないと発表するなど(朝日新聞2020-3-23夕刊)、延期に向けて世界が動きつつあるが、IOCには日本や世界の状況をきちんと把握して責任ある決断をしてほしい。
…と書いてから、契約にある、組織委は「合理的な変更を考慮するようにIOCに要求できる」という文言がひっかかった。組織委が延期を要求でき、IOCが決定するというのは確かだが、組織委は延期する時期まで含めて要求し、IOCはそれにイエス/ノーで答えるのか、それとも組織委は漠然と「合理的な変更を考慮してくれ」と要求できるだけで、変更の具体的な内容はIOCが決めるのか。たぶん前者だとは思うが、だとしたらやはりJOCが都知事や首相(そして国民!)の意見を聞いてIOCに要求を出すのが先ということになる。IOCは4週間以内に結論を出すと発表しているが(朝日新聞2020-3-23夕刊)、それまでにJOCは適当な要求をIOCに出すべきではないだろうか。
追記4:「「東京2020チケット購入・利用規約」が想定していなかった「無観客」開催 」(サインのリ・デザイン)を読んでいて(同記事の趣旨とは関係ないかもしれないが)、東京オリンピックは予定通りの日程で無観客で実行するのが最も実害が少ないように思えてきた。中止は首相・都知事はじめ考慮の対象外とされているようだし、日本にとって経済的ダメージが大きいという。延期となると、そもそも会場を確保できるのかなど、社会にとって多大な負担となる。カナダなど選手を派遣しなかったり派遣できなかったりする国もあるかもしれないが、無観客で済ませるのが最もダメージが少ないのではないか。オリンピックの収入の柱は放映権料だというから、それでも成り立つのではないか。盛り上がりに欠ければ放映権料が減ることもあるのかもしれないが、IOCが満額の収益を上げるために日本だけが負担をかぶるというのはやめてもらいたい。
追記5:結局オリンピックは延期になった。時期はあと3週間で決めるという。延期も含めて4週間以内に決めるといってからすぐ方針が決まったのはよかったのだが、延期決定までのプロセスとしてはモヤモヤが残ることを朝日新聞2020-3-28を読んで改めて思った。契約上はIOCが決定権を持っているのとは裏腹に、坂上康博教授によると、五輪熱が冷める近年、IOCは開催を後押ししてもらうために開催国の政治リーダーにこびを売るようになっているという。延期を決めたIOC会長との電話会談の相手も、東京都知事でも大会組織委でもなく安倍首相だった。IOCのほうからもっと早く言い出さなかったのは、金づるのテレビ局やスポンサーに大きな損害を与えるのをはばかったことと、開催地に負担を強いているという印象を避けたかったことが理由だという。
ライターの武田砂鉄氏も、安倍首相の「人類がコロナウイルス感染症に打ち勝った証として、完全な形で東京オリンピック・パラリンピックを開催する」という発言や、延期の流れができる前に延期を口にしたJOC理事に対して山下泰裕会長が「みんなで力を尽くしていこうというときに、そういう発言をするのは極めて残念」と批判したことを挙げて、具体策や理由に基づく反論ではなく、「気持ち」や精神論がはびこっていることを指摘し、五輪が理性的な評価抜きに「成功」が決まっているイベントと化していることに疑問を呈している。、
坂上教授はいう。「新型コロナウイルスの問題が世界的に深刻化してもなお、延期に追い込まれるギリギリまで開催に固執し続けたところに、五輪のひずみが現れていました。」
開催是非の判断はどんなに引き延ばしたとしても5月下旬だというが、それまでにパンデミックが(五輪開催で再発の恐れがないほど)収束していればいいのだが、そうでない場合どうすればいいか。希望的観測だけではなく、中止・延期の場合に各方面の混乱を最小限にする「プランB」も用意しておくべきだ。「想定外」や唐突な決定で社会に混乱をもたらすのはやめてほしい。
たとえばもし今だったら。ヨーロッパやアメリカで感染が急拡大していて、世界中で入国制限を設けあっている段階で、そもそもオリンピックが成立するのか。観客については対象国の人には我慢してもらうとしても、選手も入国できない場合に、それでも開催する意義があるのか。また、全国の学校に休校が要請されてイベントが次々に無観客や中止になっている状況で、たとえば無観客のオリンピックというのが可能なのかどうか。
もちろん感染拡大のペースが落ちて移動制限が緩和された場合は開催の機運も高まるのかもしれないが、東京に世界中の人が集まることによって、却って世界中に新たに拡散の火種をまくことにならないか。
それに日本と海外とで事情が違うかもしれない。日本での感染拡大はイタリアなどよりペースがゆるやかなようだ。だから感染が一巡して海外では免疫を備えた人が増える一方、日本では免疫未獲得の人が大半という状況で世界中からウイルスが持ち込まれた場合、日本人に集中して感染が増えたりすることはないのか。
政治判断などではなく、専門的な知見に基づいた判断をしてほしい(安倍首相も、小池都知事も、IOCも)。そして専門家も、政治的な思惑に惑わされずに、客観的な見解を発表し続けてほしい。
(個人的には東京オリンピックは中止にしてほしい。中止すると莫大な経済的損失が出るとか、スポンサー収入が途絶えてIOCの財政が破綻するとかいった話もあるようだが、そもそもお金のための五輪という考えがいただけないし、開催によって感染拡大を加速させた場合の損失とどちらが重要か、よくよく考えてほしい。)
追記:
IOC会長が「WHOの助言に従う」と言ったが、ある意味WHOに下駄を預けたようにも聞こえる。だがWHOは「どんな種類の行事であれ、中止するかどうか決めるのはWHOの役割ではない」と述べている(朝日新聞2020-3-14)。だとするとIOCが「WHOから中止を助言されなかった」というだけの理由でオリンピックを強行することにならないか。少なくとも、中止・延期の判断を誰がどういう手順で決定するのかをあらかじめ確認しておくべきだ。
追記2:G7電話首脳会議での緊急協議の後、安倍首相は記者団に「人類がコロナウイルスに打ち勝つ証として、東京オリンピックパラリンピックを完全な形で実現するということについて支持を得た。このコロナウイルスとの戦い、大変手強い相手ではあるが、G7でしっかり結束して、国際社会で共に戦っていけば必ず打ち勝つことができるという認識で一致した」と述べた(BLOGOS)。ウイルス収束の見通しもないことから開催を断言したことで、朝日新聞2020-3-17夕刊・素粒子は、(ウイルスの現状についての)科学的知見を軽んじ、気合や功名心で政治決断をするのではないかと危惧している。何かにつけ「結論ありき」で突っ走る安倍政権を見ているとそんな危惧も理解できるが、ネットでは逆に、この発言は延期への布石ではないかという観測が流れている。というのも、記者団から開催時期について協議したかを問われたが、「完全な形で実施するということでG7で一致したところであります」と述べて明確に答えなかったという(朝日新聞2020-3-17、産経新聞)。いずれにせよ、決めるのは政府なのか、そのあたりがどうもはっきりしないのでは困る。
追記3:「あまりにも不平等なIOCと東京都の「開催都市契約」 」(サインのリ・デザイン)によれば、オリンピックの中止や契約解除を決められるのはIOCのみだという。また、「締結日に予測できなかった不当な困難」による変更として延期を組織委員会が要求することはできるが、決定権はIOCにあるという。だとすると、安倍首相も組織委を通じて間接的に「要請」はできるものの、決定には全く関与できないということになる。カナダが2020年夏には選手を派遣しないと発表するなど(朝日新聞2020-3-23夕刊)、延期に向けて世界が動きつつあるが、IOCには日本や世界の状況をきちんと把握して責任ある決断をしてほしい。
…と書いてから、契約にある、組織委は「合理的な変更を考慮するようにIOCに要求できる」という文言がひっかかった。組織委が延期を要求でき、IOCが決定するというのは確かだが、組織委は延期する時期まで含めて要求し、IOCはそれにイエス/ノーで答えるのか、それとも組織委は漠然と「合理的な変更を考慮してくれ」と要求できるだけで、変更の具体的な内容はIOCが決めるのか。たぶん前者だとは思うが、だとしたらやはりJOCが都知事や首相(そして国民!)の意見を聞いてIOCに要求を出すのが先ということになる。IOCは4週間以内に結論を出すと発表しているが(朝日新聞2020-3-23夕刊)、それまでにJOCは適当な要求をIOCに出すべきではないだろうか。
追記4:「「東京2020チケット購入・利用規約」が想定していなかった「無観客」開催 」(サインのリ・デザイン)を読んでいて(同記事の趣旨とは関係ないかもしれないが)、東京オリンピックは予定通りの日程で無観客で実行するのが最も実害が少ないように思えてきた。中止は首相・都知事はじめ考慮の対象外とされているようだし、日本にとって経済的ダメージが大きいという。延期となると、そもそも会場を確保できるのかなど、社会にとって多大な負担となる。カナダなど選手を派遣しなかったり派遣できなかったりする国もあるかもしれないが、無観客で済ませるのが最もダメージが少ないのではないか。オリンピックの収入の柱は放映権料だというから、それでも成り立つのではないか。盛り上がりに欠ければ放映権料が減ることもあるのかもしれないが、IOCが満額の収益を上げるために日本だけが負担をかぶるというのはやめてもらいたい。
追記5:結局オリンピックは延期になった。時期はあと3週間で決めるという。延期も含めて4週間以内に決めるといってからすぐ方針が決まったのはよかったのだが、延期決定までのプロセスとしてはモヤモヤが残ることを朝日新聞2020-3-28を読んで改めて思った。契約上はIOCが決定権を持っているのとは裏腹に、坂上康博教授によると、五輪熱が冷める近年、IOCは開催を後押ししてもらうために開催国の政治リーダーにこびを売るようになっているという。延期を決めたIOC会長との電話会談の相手も、東京都知事でも大会組織委でもなく安倍首相だった。IOCのほうからもっと早く言い出さなかったのは、金づるのテレビ局やスポンサーに大きな損害を与えるのをはばかったことと、開催地に負担を強いているという印象を避けたかったことが理由だという。
ライターの武田砂鉄氏も、安倍首相の「人類がコロナウイルス感染症に打ち勝った証として、完全な形で東京オリンピック・パラリンピックを開催する」という発言や、延期の流れができる前に延期を口にしたJOC理事に対して山下泰裕会長が「みんなで力を尽くしていこうというときに、そういう発言をするのは極めて残念」と批判したことを挙げて、具体策や理由に基づく反論ではなく、「気持ち」や精神論がはびこっていることを指摘し、五輪が理性的な評価抜きに「成功」が決まっているイベントと化していることに疑問を呈している。、
坂上教授はいう。「新型コロナウイルスの問題が世界的に深刻化してもなお、延期に追い込まれるギリギリまで開催に固執し続けたところに、五輪のひずみが現れていました。」