リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

教科書を政治問題化しないでほしい

2017-08-19 | 政治
私立名門の灘中学校の歴史教科書採択に関して,自民党の県会議員や衆議院議員から「なぜあの教科書を採択したのか」という問い合わせを受けたり,同じ文面が印刷された葉書が200枚以上届いたなどとして,「政治的圧力だと感じざるを得ない」と記した校長の約1年前の文書「謂れのない圧力の中で」が波紋を広げているという記事を朝刊で見た(朝日新聞).
その教科書は2016年度用からの新規参入の出版社「学び舎」によるもので,従軍慰安婦問題についての記述が10年ぶりに復活して話題になったものだという.もともとは京大文学部の同級生らによる同人誌のものなのだが,今年7月末に民法のドキュメンタリーで取り上げられて拡散したという.文書で名を挙げられたジャーナリストの水間政憲氏は昨年3月のブログで,学び舎の教科書を採択した学校に対して「理事長や校長,そして『地歴公民科主任殿』宛に『OB』が抗議をすると有効です」などと書いて葉書の送付などを呼びかけ,さらにこのたびの拡散を受け,今月7日には再掲載したという.学び舎の教科書は「河野談話」を掲載する一方,政府見解も注記しているものだが,同氏は「イデオロギーで作られた危険な教書ではないか」との見解だという.
過去に似た話題を取り上げたことがあるが(2017-06-24).その時と違って今回は組織的な呼びかけがなされたことは明白だが,一方,明らかに脅迫と言えるような事例は見当たらない.
記事で紹介されている識者コメントによれば,どの検定済み教科書を選ぶかは私学の場合,学校の自由なのに,政権側の政治家が採択を問題していると受け取られる発言をするのは教育基本法が禁じる「不当な支配」に当たる可能性があるという.だが,文書で「政府筋からの問い合わせなのだが」と断った上で問い合わせをしたとされた自民党の衆議院議員は,問い合わせをしたことは認めたものの,取材に対し,「政府筋からの問い合わせなのだが」と言ったかどうかは覚えていないと話しているという.
一方,識者コメントは何者かが同じ文面の葉書を大量に送ることも「不当な支配」に当たる可能性があるという.衆議院議員が「なぜだ」と問い合わせるのに比べ,こちらは慎重に考える必要がある.たしかに特定の「何者か」がそうした行為をすれば,受け取った側としては薄気味悪さを抱くはずで,「不当な支配」というのもわからなくはない.一方,記事でははっきりしないが,同じ文面の「200枚以上」の葉書がみな異なる同校OBによって送られたものであるなら,それは仮に特定のブログの呼びかけに応えたものであったとしても,言論の自由の範囲内だろう.
この手の話で主張をするときは,問題になっている教科書が正反対の性格のものであったとしても,同じ主張ができるかどうかを考えなければならない.自分と同じ立場の教科書かどうかで態度を変えるダブルスタンダードは民主主義とは相いれない.現に産経新聞は同じ問題を「新しい歴史教科書をつくる会」系の教科書に対する「激しい不採択運動」とからめて論じている.
どのような教科書であれ,個々人が採択に対して抗議したり不採択を主張したりすることは(たとえ特定の呼びかけに応えるものであったとしても)自由であるべきだ.問題なのは,議員や政府の権威をかさに着て威圧したりすることだ.

――ここまではまず当然のこと.
それにしても気の毒なのは,仲間内の同人誌で胸の内を明かしただけのつもりだったのが1年近くたって思いがけず大きな反響を呼んでしまった校長だ.朝日新聞の取材に対し,「議員からは問い合わせがあっただけで,関係は良好だ.現在ははがきでの抗議も沈静化している.静観してほしい」と話しているという.こうしてブログで取り上げてしまったことも「静観」には反するのかもしれないが,私がまさに訴えたいことがこの「静観」なので許してほしい.
そもそもなぜこれほどまでに教科書の検定や採択で大騒ぎするのだろう.特に今回のような私学の場合,学校が採択を決めることができる.OBが…というのならわからないでもないが,それこそ「静観」して問題視しないようにできなかったのだろうか.公立の場合,採択は自治体の教育委員会が決めるというが,これもそれぞれの学校が好きに決めていいようにすれば,問題は小さくなるのではないだろうか.


関連リンク:「歴史教科書、揺れる選定」(朝日新聞2017年10月15日)
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