リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

権力の源泉:最高裁判事全員が安倍内閣の任命となる日

2018-05-04 | 政治
朝日新聞2018-5-3「憲法を考える」の編集委員の言葉「政治も裁判官人事に介入しない伝統があったが,安倍政権は慣例を破り,官邸側から注文をつけて最高裁判事人事を行った」とのくだりが気になった.長期政権が人事権を行使していくことで三権分立を骨抜きにして政府が全権を握ることに近づいていくのがこわい.

「最高裁人事」「安倍首相」をキーワードに検索してみるといろいろな記事がみつかる.多すぎて消化しきれていないが,「……最高裁判事に加計学園元監事を異例の抜擢…安倍首相は司法も私物化!」(LITERA, 2017-10-13)などによれば,たしかに安倍首相寄りの人物の人選が行なわれているらしい.最高裁判所の判事を指名するのは内閣なので,安倍首相が3選となれば2019年3月までに最高裁裁判官15人全員を安倍内閣が任命することになるという(赤かぶ「最高裁の15人全てを「安倍内閣が任命」へ」).

最高裁判所の裁判官を内閣が指名することは,もちろん憲法で決められていることなので「合憲」なのだが,猪野亨「安倍内閣が最高裁人事に介入か 山口厚最高裁判事」(BLOGOS, 2017-1-27)によれば,安倍首相の人事は最高裁判所の裁判官の出身別の構成の慣例を破るものだという.倉持麟太郎の"Rin"sanity(ゴー宣道場,2017-10-17)でも同様に安倍内閣での「慣例の破壊」を批判している.(「ゴー宣」といえば安倍首相に近いと思っていたが,そういえば小林よしのり氏が朝日新聞紙上で安倍政権を批判していたこともあったような気がする.)

テレビ局の「停波」発言もそうなのだが,権力を握る側が「法律で認められていることは何でもやる」というスタンスでは,独裁国家にまっしぐらになってしまうのではないか.

猪野氏の上記記事によれば,1969年以降にも「司法の反動」と言われていた時期があったが,東西冷戦の終結以来,最高裁の反動化に歯止めがかかって,それが最高裁判決にも反映されたという.安倍内閣による第二の「反動の司法」に歯止めをかけるには,世界情勢の変転以外に手はないのだろうか.

(ちなみに,冒頭で挙げた朝日記事が引用箇所の直前で「最高裁は長く,政治的多数派の見解と異なる判断を出すことに消極的で,政治との対立を避けてきた.」と述べているのには違和感をもった.最高裁が政治判断を避けたときには新聞はよく裁判所を批判していたのではなかったか.「司法も行政を批判しなかったから行政も司法に介入するな」ではなく,「司法は行政のチェック役なのだから司法の独立性を尊重せよ」のほうが論旨がすっきりしたのではないか.)

関連記事:
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追記:アメリカでもトランプ大統領が指名した判事が増えている.すでに約40人承認され,さらに約90が承認を待っているが,極端な保守思想をもった人や白人男性が多いという.最高裁でもすでに一人はトランプ大統領の任命で保守派4人,リベラル派4人,中間派一人となっているが,その中間派のケネディー氏が引退を表明し,トランプ大統領が後任探しを始めた.11月の中間選挙を前に,与党が上院で過半数をもっている今のうちに後任選びをしたいとのトランプ大統領や共和党の思惑が辞任の背景にあったとの観測もある.(朝日新聞2018-6-29

追記2:
朝日新聞2018-11-9はトランプ大統領による保守派ガバノー氏の最高裁判事任命が上院で承認されたこととの関連で、どんなひどい大統領でも任期は最長8年だが、終身の最高裁判事は影響する期間が長い(特に影響力を長く保つため若い判事の任命が増えている)ことを指摘している。
その関連で日本の最高裁判事について、国会の承認手続きがないため政治的にならないと述べているのにおやっと思った。
「15人の裁判官は現在、裁判官や検察官、弁護士など出身母体ごとに人数が固定化され、長官は裁判官出身者が就く。退官すると後任も同じ母体から選ばれ、60代半ばでの任命がほとんどだ。政権交代があっても判事の選び方は変わっておらず、日本の最高裁で「党派色」が問題になることは少ない。」
「出身母体が固定化、見えぬ選考 日本」という小見出しも併せて見ると、出身母体の固定化が悪いかのような印象を与える。だとしたら上記で紹介した安倍政権による「出身別の構成の慣例を破る」という批判は当たらないのだろうか?

追記3:判事の出身枠が決められているのはウィキペディアでは「多様な立場の法律専門家の見解を反映するため」という。一方、時々の政権による恣意的な任命を防ぐため、という説明も少し前に読んだ。やはり慣例を破るのだとしたら、それなりの説明をすべきではないか。追記2の朝日記事は、選考過程が不透明であることは指摘しているものの、出身枠の意義を見失っているように思えてきた。

追記4:朝鮮学校を高校の授業料無償化の対象から除外したのは違法との訴えを最高裁が退けた(朝日新聞2019-8-29)。
アメリカではメキシコ国境沿いの壁建設の費用を議会承認なしに捻出するために国家非常事態を宣言して国防費などの予算から転用したが、アメリカの連邦最高裁は転用を認める判決を下した(Wall Street Journal 2019-7-27)。
どちらもニュースとしては私の守備範囲外なのだが、最高裁に自分色に染めた安倍・トランプの意向に沿う判決が今後も続くのかと思うと憂鬱になる。

追記5:「検事長定年延長に波紋 首相・法相、詳細語らず 野党は批判」(朝日新聞2020-2-4)によれば、定年間際の検事長について数か月という中途半端な定年延長が決まった。検事長は安倍首相や菅義偉官房長官に近い人物。違法の疑いまである定年延長をしたのは、現職の検事総長の任期切れまで在任させることで検事総長に取り立てるという政治的意図があるのではと野党は批判している。最高裁も検事総長も安倍首相の言いなりとなれば、もはや首相はこわいものなしだ。

追記6:「米最高裁に保守層不満 トランプ氏納税記録「捜査に提出」、政権に厳しい判決次々」(朝日新聞2020-7-11)によれば、保守派が過半数となった米最高裁でもトランプ大統領の都合の悪い判決が次々に出ており、保守派からは批判されつつも、「最高裁は政治的分断を乗り越えようと努力している」形跡がある。

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