リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

「つくる会」系の教科書採択は、教育委員会の人事だけでなく、「環境づくり」の成果だった!

2020-07-27 | 政治
教育委員会の人事を通じて右派が「つくる会」系の教科書採択を進めることを懸念していた(過去ブログ)が、横浜市など神奈川での「成果」が、教育委員の人選に留まらない、細かな制度変更を入念に積み重ねてきた結果であったことを知った(朝日新聞横浜版2020-7-25)。
「新しい歴史教科書をつくる会」ができたのは1997年。神奈川県では2000年ごろから県や市町村の教育委員会や議会への請願・陳情や、首長への要望といった活動を始めたという。
当時は教育委員会が各学校の希望を集約し、事実上学校数の多数決で決まっていたので、教育委員会を右派で固めればすむという状況ではなかった。そこでまず、そうした学校票を廃止させ、教育委員会に決定権をもたせるようにした。2001年の横浜市をはじめ、各自治体がほぼ同時期に学校票を廃止したという。
現場の教員やその上の審議会が採択候補となる教科書を限定する「絞り込み」も問題にされた。たとえば2005年の採択の際、検定を通った歴史教科書は8社あったうち、横浜市では事前に2社に絞り込まれていたという。「つくる会」系の扶桑社版はもちろんはいっていなかったので、当時の教育委員を通じて抗議したという。
さらに、教育委員個人に対する批判をかわすために、無記名投票を導入させた(鎌倉市は2005年、横浜市は2009年)。
また、教科書ごとの違った特色を評価するという方式をやめて、同一基準に基づいて各教科書を評価することにさせた。同一基準というと聞こえがいいが、2006年の教育基本法の改正で掲げられた「我が国と郷土を愛する」「伝統と文化を尊重」「豊かな情操と道徳心を培う」といった点を基準として各教科書を評価するよう要望したという。これも「つくる会」系の採択には好都合だ。
さらに、教科書の見本が、学校教員や一般向け展示会に優先して割り振られていたのを改め、を教育委員の自宅に届けるように求めたという。
これらの要望の実現は一様ではないものの、「おおむねよく受け入れられた」という。
その後、よく知られる採択地区の一本化が実現した。横浜市では2010年度から区ごとの採択をやめて一括にすることになった。「一括」なら、「つくる会系」を不採択にするのも一括なので公平かと思ってしまうが、採択地区が細かいとどうしても地域事情に詳しい学校に任せがちになる。要は現場から決定権を取り上げるのが広域採択の意義だったのだ。

私は教科書問題には関心を寄せていたつもりだが、「広域採択」は知っていたものの、他の制度変更は全く知らなかった。推進側が「環境を整えることに関しては、ほぼやり尽くしました」と言っているように、我々が知らないうちに枠組み作りで完敗していたようだ。一連の動きの中で、学校票の廃止が大きかったと思うのだが、誰がどのように決定したことなのだろう。教科書選択を現場の先生の手に取り戻すことはできないのだろうか。

追記:7月31日、神奈川県藤沢市の教育委員会が私立中学校用の教科書採択を行なったところ、2012年から使われていた育鵬社版を採択しなかった(朝日新聞2020-8-1横浜版)。記事を読んだ印象では、育鵬社版を選んだ2011年、2015年とは教育委員が全員入れ替わっていた影響が大きいとの印象を受けた(各時期の教育委員を選んだ市長がどんな人だったのか、調べてみる必要がある)。私立中全19校の教員による調査書では、4つの観点で「優れている」とされる「〇」をつけられたのが、東京書籍版が60、帝国書院版が55に対し、育鵬社版は最下位の2だった。おそらくこの評価は長年大きくは変わっていないのではないか。また、藤沢市以外でも傾向としては同じなのではないか。そうだとすれば、今回の教育委員ではなく、2011年、2015年に育鵬社版を選んだ教育委員が特定の意図をもって異常な選択をしたというべきだろう。今回の採択結果について、教育長は調査書などは参考にはしたが、それに従ったというわけではないという。「学校票」はなかったということだ。だが、重みをどの程度にするかはともかく、何らかの形で現場教員の声が反映される仕組みはやはり必要ではないか。

追記:気になっていた横浜市は、4日、育鵬社版を採択しなかった(朝日新聞2020-8-5)。まずはほっとしたが、この間の「つくる会」系を推進する人々による批判のため、他の教科書でも「自虐的」とされた記述は減って差が縮まっていたというから複雑な心境だ。なお、今回も無記名投票だったといい、無記名投票自体は悪くはないと思う。

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