リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

日本の「主権免除」を認めなかった韓国の慰安婦判決を批判する際の前提事項

2021-01-12 | 政治
旧日本軍の従軍慰安婦が日本政府に慰謝料を求めた韓国での裁判で、ソウル中央地裁が訴えを認める判決を出した。日本側は、国家には外国の裁判権は及ばないという国際法上の原則「主権免除」を理由に訴状を受け取らないなど裁判を拒んでいた。「韓国は非常識だ。国際常識や国際法が全く通用しないと自ら世界に発信しているようなものだ」(外務省幹部)との声に心情的には全く同感だ。だが今回の判決を批判する前提として、裁判でも焦点になった「主権免除」がどこまで常識なのか、もう少し詳しくふまえておく必要がある。(朝日新聞2021-1-9
判例として、第二次大戦末期にナチスドイツに捕らえられてドイツで強制労働させられたイタリア人がドイツに賠償を求めた訴訟が検討された。2004年にイタリア最高裁は「国際犯罪であれば主権免除は適用されない」としてドイツに賠償を命じた。だが国際司法裁判所(ICJ)は2012年に「当時のナチスドイツの行為は国際法上の犯罪だが、主権免除は剥奪されない」とした。
地裁はこのICJ判決を検討した上で、(1)慰安婦制度は国際法で絶対に守らなければならない反人道的な犯罪、(2)動員されたのは日本が不法占領する朝鮮半島だったなどの理由で、例外的に主権免除は認められずに、韓国が裁判権を行使できると判断したという。
水島朋則教授も、戦時行為などにおける賠償の問題は政府間で解決すべきだとの考えから主権免除の原則が国際法として広まり、主権免除を認めなかった判例は少ないという。ただ、まだ不変の原則とまではいえず、新しい判例が積み重なって変化していく可能性もあるという。
今回の地裁判決は「主権免除は国際法に違反して他国の個人に大きな損害を与えた国に賠償逃れの機会を与えるためのものではない」としている。だがそんなことをいったら慰安婦だけでなく、日本軍によって被害を受けた個人・遺族全員に賠償しなければならなくなる(ナチスドイツの場合はもっと大変だろう)。そういうのをひっくるめて解決したのが1965年の日韓請求権協定だったのではないのだろうか。(ただ、国内でも戦争で被害を受けた民間人が補償を求める動きがあると先日報道されていた(朝日新聞2020-12-27)。超党派の空襲被害者救済法案の提出は見送られたが、国内の個人に補償するとしたら、韓国の個人の賠償請求も請求権協定を盾に拒むのは難しくならないだろうか。)

追記:判決の「個人に大きな損害を与えた」云々のくだりは的外れではないか。「大きな損害」を含めて解決したのが日韓請求権協定で、慰安婦問題は「反人道的」だから主権免除が認められない、というロジックだったのではないか。

追記2:山田哲也教授の解説(朝日新聞2021-1-29)によれば、慰安婦問題は、基本的な価値の侵害などいかなる逸脱も許されない「強行規範」ととらえて主権免除を適用しなかったが、第二次大戦当時に強行規範の概念が成立していたかについて詳細に検討した形跡はなく、そもそも何が強行規範に当たるのかは条約法条約でも規定できていない、さらに、強行規範に違反する場合であっても主権免除は認められるという。(そもそも個人が裁判を受ける権利を認めたのも当時の日本が結んでいた条約などを根拠にしたというが、これについても、個人に直接の請求権を認めているのか詳細には検討していないという。)だが主権免除をめぐる認識には人権重視の変化があるとも述べており、「主権免除」を盾にすればそれですむとは言い切れないようだ。
今回は韓国の文在寅大統領は判決について「困惑している」と日本側への配慮を示している。基本的には韓国側が動くべきではあるのだが、日本側も「謝ったから、あるいは金を払ったからすべて終わりだ、というような安倍氏の不遜な態度」(同面の別の識者)を繰り返さないようにしなければならない。何度も言うように、加害の歴史を否定するような一部保守政治家の言動が問題解決を難しくしている。



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