積極防衛の基盤 日米同盟
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2012年04月09日(月)木下まこと 氏、ブログ転載
本土防衛とMD(ミサイル防衛)
現在に至るまでの専守防衛の概念は原則的に国内での防衛行動を
柱としたものであり、これはまさしくわが国領土が戦闘エリアと
なることを「前提」としているものだ。
もちろん、領海空域においての防衛力も文字通り最低限の構築が
なされてはいる。ただし、それは我われ国民が生活する街々のいわば
「目と鼻の先」での防衛体制である。大雑把な言い方をすれば、
敵の脅威が物理的に「目前」に迫って初めて実体的な対応がなされる
という至極限定的な防衛姿勢であるといえる。
その具体的な問題点の象徴的仮想事例が、弾道ミサイル等への
対応である。地上に配備された迎撃ミサイル(PAC3)にしろ
イージス艦の備える迎撃ミサイル(SM3)にしろ、相手国の
ミサイルが打ちあがって落下する間に限られた防衛システムである。
これがなぜ問題なのかといえば、まず第一に命中精度の問題である。
少なくとも100%ではない。とはいえ、必ずしも一発必中である
必要はない。敵のミサイルに対して、迎撃するミサイルの弾数や
迎撃頻度で精度補完することは可能だ。
ただし、そこにはPAC3システムのユニット数や弾数の問題も
あれば、カバーできる防空エリアの問題もある。今回の北朝鮮の
ミサイル実験は単発で、しかも事前に飛翔コースの通告を伴うもの
であるが、実戦配備されている弾道ミサイルの基数は200~
300基とも指摘されている。
こうしたことを踏まえたうえで、どこまで現実的なミサイル防衛
が可能であるかということを考えると、防衛上の懸念は払しょく
できない。
しかも、その弾頭によって迎撃の難易度は一様ではない。
たとえば核弾頭であればPAC3による低空域での対処では無意味
とは言わないまでも、現実には甚大な被害を被ることが予測される
ので別途の対応が必要となる。あるいは、囮弾や巡航ミサイルを併用
された場合の条件はさらに厳しくなる。
想定条件を並べていけば話は尽きないかもしれないが、たとえ
北朝鮮に対象を絞っても様々な懸念材料を抱えている。ちなみに、
中国を想定した場合のリスクはさらに格段に高い。配備の基数が
桁違いであるし、それを裏付ける戦略指針に「飽和攻撃」を掲げている。
これは簡単に言えば、相手国の迎撃処理能力を上回る兵力(弾数)
を徹底的に注ぎ込むという宣言であり、現実の態勢である。
「専守防衛」の限界
飽和攻撃という戦略指針は日本に対しては特に有効な戦術となりうる。
なぜなら専守防衛のわが国では攻撃的兵器を保持しておらず、ただ
一方的に撃ちこまれるミサイルを迎撃するのみであるから、中国は
矢玉尽きるまで無傷で撃ち放題ということにもなりうる。
こうした専守防衛態勢の落とし穴については今国会でも議論されている。
議論はされているが、その答弁は基本的に従前の政府解釈の域を超えない。
つまり、法理的には策源地(ミサイル基地等)に対する積極防衛は可能
とする見解を示しつつも、自衛隊の装備として憲法9条の解釈で禁じられる
ところの攻撃的兵器に該当する兵器は有していないというものだ。
たとえばわが国に向けたミサイルが発射されようとしているときに、
なんらかの手段で打ち上げの段階から、あるいは発射直後の段階で対象の
兵力を排除することは法解釈としては自衛の範囲内とされる。
しかしながら、これに対応し得る攻撃的兵器を有しないわが国は長射程
の弾道ミサイルはもちろん巡航ミサイルさえも保持していないという
ことである。
法解釈上許されるものを保有していないということは、安全保障上の
不備であるからにしてそれは法的整備とあわせて直ちに補うべきものと
考える。個人的には、現状の専守防衛の宣言政策を踏まえた日米安保の
枠組みや、外交的コスト、資金的コスト、有効性等を考慮した場合には
航空戦力に上乗せするという手順がもっとも妥当な選択ではないかと
考える。
政治的に専守防衛の解釈の範囲内で対外的インパクトのバランスポイント
を測れば、精密誘導が可能で長距離射程を有するトマホーク水準並みの
巡航ミサイル兵装を、航空戦力の特殊オプションとして保持するべき
ものと考える。
しかし、これにより弾道ミサイルの脅威を完全に除去できるかと言えば、
そうではない。総合的には、迎撃チャンスが高まることが期待されるが、
例えば大陸内部のミサイル基地や移動式の発射装置に対する条件難易度は
高く、別途の戦術要件を満たすことが求められる。
また、たとえこのような策源地攻撃の兵器を保有したとしても、
それだけでは他国からの攻撃を抑止するという効果としては不十分である。
そして、逆説的にはその不十分さゆえに日米同盟が成立しているともいえる。
盾の「専守防衛」と、盾矛一体の『専守防衛』
よくあるたとえ話で、日本の自衛システムが盾であり、米軍の存在
が矛(槍)として機能することでわが国の安全保障体制が構築されて
いると表現される。専守防衛の範囲における攻撃的(積極防衛)兵器の
保有それだけでは、盾の補強でしかない。加えて言及するならば、
日本の「盾」を十分に機能させるには、実は自衛隊の単独運用では
片手落ちであり、PAC3の運用一つとっても米軍の協力なしには
成り立たないのが現実である。
米軍が右手で矛を構え、さらにその左手でわが国が両手で抱えている
盾をも手助けしている姿こそ、この国の安全保障の実態である。
そしてそのような形態があって、戦後のわが国の平和と経済的発展が
支えられ続けてきたことを忘れてはならない。
米国の「矛」の機能こそが他国に対する抑止力を形成しているのである。
これは、わが国の安全保障を考える上で極めて重要なポイントである。
本来軍事的には成立し得ない「専守防衛」の概念の下でわが国の
安全保障体制が維持されているという事の裏を返せば、他国から見て
日米同盟を携える日本の安全保障体系は少なくとも、
「専守防衛ではないのではないか」という疑問を抱かれているということ
を明確に認識すべきである。そして、その疑問こそが「抑止力」として
の効果を発揮していることを知らなければならない。
しかし、他国が抱くその疑問はやがて「検証してみたい」という欲求へ
と移行している向きが強い。わが国周辺で軍事的勢力を拡張したい国
から見れば、二種類の専守防衛が見えて仕方がないだろう。
一つはいわば亀型の盾である「専守防衛」、もう一つはいわば
トリケラトプス型の盾である『専守防衛』、いずれの形容であるかを
検証したくもあり、また、できれば亀型に誘導したいと考えている。
言うまでもなくわが国としては、米軍の「矛」の機能を十分に引き出した
トリケラトプス型の「抑止力」を有した盾のあり方を目指すべきである。
防衛概念の線引きとしては、決して領土ラインで線引きされるものでは
なく、「国民の安全」というラインで線引きがなされるべきものである。
つまり、他国からの武力攻撃に如何に対応すべきか、というよりも、
如何に攻撃をさせないかという点に重きを置いた『専守防衛』戦略を
重ねて構築し続けることが連続的な課題となる。それは、日米同盟の
効果を最大限引き出し、わが国の「盾」機能と米国の「矛」機能とが、
より一体化していく道程でもある。
無論、現段においても日米同盟に基づいた安全保障機能は相当程度
の有効性を現に発揮しているものと認識している。しかし、たとえば
偶発的に発生した有事への対応や、紛争初期レベルにおける「矛」機能
がいかなる段階で、どの程度発揮されるか等の点において惰弱性の
懸念もある。その惰弱性の穴を一つ一つ埋めていく内政及び外交努力
が、翻って抑止力の強化に直結するものとなるのである。
「盾」を磨いて「矛」を生む
わが国に対する武力攻撃がなされた場合の日米双方の基本スタンス
として、米国はあくまでも日本の作戦行動を「支援」する立場であり、
自衛隊に代わって米軍の部隊が単独的に展開する性質のものではない。
日米防衛協力のための指針(ガイドライン)では、弾道ミサイル攻撃
への対応について以下のように取り決めを行っている。
「自衛隊及び米軍は、弾道ミサイル攻撃に対応するために密接に
協力し調整する。米軍は、日本に対し必要な情報を提供するとともに、
必要な打撃力を有する部隊の使用を考慮する。」
上記の文章からも分かるように、わが国に対して弾道ミサイルの
攻撃があった場合、米軍が直ちにその武力をもってして(合法的)
報復的措置を行う、あるいは主体的に対応を検討するという内容では
ない。これはある意味で当然のところであり、主権国家として譲れない
ところでもあるのだが、多くの国民が「いざとなったら米軍が勝手に
なんとかしてくれるのでは」という誤った認識を抱いている感が
あるので付記しておく。
ただし、有事の際の同盟国の対応として「必要な打撃力を有する
部隊の使用を“考慮する”」という表現では力不足の印象がある。
「必要な打撃力を有する部隊の“展開を速やかに検討し、これを
実施する”」というレベルの表記が求められる。
こうした記述表現ひとつをとっても、まだまだ日米同盟に深化の余地が
あるということを痛感する。
一方で、自国の有事に対しては、わが国自衛隊が主体的に防衛作戦を
展開するというスタンスがあってはじめて、米軍の「矛」機能が
共同運用されるというロジックを忘れてはならない。
これは日米双方にとって非常に重要な意味を持つ原則でもある。
わが国の有事に対して米国は「日本の防衛に必要なあらゆる支援」
を提供することを日米同盟合意文書で記している。
その実際の支援内容は国際情勢等の変化により質、量、ともに変化
するものと受け止めるべきである。
いずれにしても、その「支援」を受けるにあたっては、わが国の
主体的防衛行動が必要条件となる。特に弾道ミサイルの脅威に対する
積極防衛については、他国の領土に打撃を与えるという点で「支援」
のハードルは高くなる。日米両国は対象国をはじめとする国際社会に
対し、積極防衛における正当性とともに〈主体−支援〉関係について
説明責任を果たせるだけの軍事的実態が必要となる。
その「実態」を得るためには、先に示したように自衛隊に積極防衛兵装
としての長距離巡航ミサイルを備えることが有意であると考える。
それは「専守防衛」のための防衛兵器でありながら、同時に抑止力と
しての米軍の「矛」の機能を引き出す鍵となるはずだ。その鍵で、
日米同盟の深化に向けた扉を開くことが、わが国の『防衛力』を
新たな高みへと導くものとなるのである。
私は、将来的には日本の自衛隊が自国とその国民を独自に護れる
ような防衛力の構築が必要であると考えている。もし、対応できるだけ
の予算があればそうした提言も可能であるのかもしれない。
しかし、様々な政治的現実を見据えた時、現段階においては、日米同盟
のより一層の深化を第一に模索することが現実的で効果的な選択である
と考える。わが国の「盾」が亀型からトリケラトプス型へと変化を
遂げることで、東アジア全体の平和と新たな発展を導くことを願い
つつ本稿を終える。
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転載、させていただいた記事です
http://ameblo.jp/kinoshita-makoto/entry-11218861363.html