[HRPニュースファイル363]転載
2012年8月12日
「日本がギリシャになる——」
菅直人首相(当時)の、とんでもない勘違いから始まった、公約無視の
「民主党消費税増税プロジェクト」は、野田政権で一応の完成を見ました。
「自分が使ったお金は、誰かの給料になる」という資本主義の法則から
見て、消費全体を萎縮させる今回のような不況期における消費増税は、
国家全体を貧しくします。
デフレで苦しむ日本経済を窒息させ、リストラや倒産で路頭に迷ったり、
自殺を選ぶ人を増やしてしまう点、消費税増税は「日本経済殺人事件」
と呼ぶべき暴挙です。
世界の経済状況を見ても、不況覚悟の消費増税は、まさに不可解です。
「政府の借金を返すために消費税を上げないといけない」という主張が
ありますが、それならばなぜ、予算削減や増税であれだけ身を削っても、
いまだにギリシャの財政危機は解決しないのでしょうか。
「不況期に増税を行えば、税収はむしろ減ってしまう」という事実は、
わが党がこれまで粘り強く主張してきた通りです。
また、「各国の経済が思わしくない中で、日本が不況に突入して本当に
いいのか」という論点があります。
米経済はまだ力強さを取り戻しておらず、11月の大統領選挙で
どちらの候補が勝とうとも、大きな変化は望めません。
11日には、共和党候補のミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事が、
ポール・ライアン下院議員を副大統領候補に指名しました。
ライアン氏は保守派やティーパーティー(茶会運動)からの支持が厚く
下院の予算委員長でもあるため、ロムニー氏は保守派の票固めと
「争点を経済に絞り込む」戦略を狙ったのでしょう。
しかし、ライアン氏の政策は、景気回復に逆効果となる危険性もあります。
ライアン氏は、政府が市場に介入するのにほぼ常に反対の立場で、
徹底的に「小さな政府」を主張しています。
同時に、財政問題の専門家で「歳出削減による財政再建」に
強いこだわりを持っており、財政政策が厳しく縛られる恐れがあります。
米経済の回復はまだ脆さを含んでおり、ユーロ危機が拡大した際には、
不況に再突入する恐れすらあります。
民間のお金が動かない不況においては、インフラ整備などの
公共投資で政府が率先してお金を使う道も残しておく必要があります。
なお、わが党もライアン氏と同じく「小さな政府」を目指しており、
政府の無駄(浪費)やバラマキを削減して参りますが、
未来に向けた公共投資を否定
するものではありません。縮小均衡ではなく、
経済成長を目指しているからです。
逆に、オバマ大統領が再選された場合はどうでしょうか。
オバマ氏の政策は、日本の民主党政権と同じく、福祉重視の大型予算と増税
という特徴があり、景気の拡大効果はあまり望めません。
オバマ政権は健康保険改革を最大の成果と位置づけますが、増税により
人件費が上がるため、8%台の失業率の先行きが懸念されます。
加えて、再選の心配のない2期目のオバマ氏がさらに福祉重視を強めれば、
財政問題がさらに拡大する懸念もあります。
また、米経済が視界不良の中、ユーロ圏も危機脱出の出口が見えません。
ユーロの問題は、金利や貨幣の量を調節する金融政策を統一したものの、
税制などの財政政策は各国でバラバラであるということです。
そのため、各国は景気を調整する二つの手のうち、
一つ(金融政策の自由)を縛られている状態なのです。
本来ならギリシャなどのユーロ圏離脱を含めた根本策を議論すべきですが、
時間稼ぎをしている間に、スペインでの危機が本格化してしまいました。
ユーロ危機が一向に収束しない中、欧州を最大の貿易相手としてきた中国も
煽りを受け始めています。
7月の中国の輸出の伸びは、前年比で1%と伸び悩みが顕著です。
輸出で儲けてきた中国経済にとって、貿易黒字の減少は問題と言えるでしょう。
経済の不調は、財政出動や金融緩和が検討されるところまできており、
中国経済に世界経済の牽引車役を期待するわけにはいきません。
このように、世界が必要としているのは「不況に突入するもう一つの先進国」
ではなく、力強く成長して世界経済を引っ張る国なのです。
そしてそれができるのは、今のところ日本しかないのです。
まずは、デフレから脱出するべく、金融緩和によって
十分なお金を経済に流通させ、積極的な未来産業投資などによって
景気の爆発的な回復を図るべきです。
「そんなこと、財政危機の日本にはできない」という人もいるでしょうが、
日本国債の利率は依然として超安全圏で、景気を刺激するために
使う資金を、日本政府は低コストで調達することができます。
景気を回復させられる条件が揃っているのは、
日本をおいて他にありません。
景気が拡大し、国民が楽に税金を納められるようになれば、
税収は上がり、政府の借金も返せます。
それによって日本の輸入が増え、各国の経済をも潤すというのが、
日本が進むべき王道なのです。
野田首相や安住財務相は、サミットに出かけるたびに
「日本をギリシャにしない」と増税を約束して帰ってきました。
しかし、世界経済の状況からすれば、日本政府の約束は
トンチンカンで、本来なら「日本が世界経済を牽引する」と約束すべきでした。
増税で「政治生命」を果たした野田首相の次の政権は、
増税の実施を凍結して景気回復を目指すべきです。
増税と福祉ばかりの民主党政権の路線こそ、財政赤字を積み上げて
「日本をギリシャにする」亡国の道なのです。
(文責・呉亮錫)
執筆者:呉 亮錫 (4)
政務調査会 研究員