181023 第三者委のあり方 <障害者雇用 水増し問題 第三者委報告 不適切慣行>と<水増し「悪質だ」 進次郎部会長>などを読みながら
パラリンピックをはじめ障害者の置かれている厳しい状況の改善がわが国でも少しずつ注目されるようになりました。
そんな中、障害者雇用・国の水増し問題について毎日新聞は継続的に取り上げてきました。そして今朝は第三者検証委員会の報告を受けて、第一面から4面をほぼ全面で取り扱っています。障害者雇用を率先して進めないといけない国の行政機関のほとんどで、そのガイドラインを逸脱して水増ししていたことについて、検証結果の内容とその評価が追求されています。
第一面の<障害者雇用水増し問題 国が3700人 93%手帳・診断書なし 退職後も補充せず 第三者委報告>では、<不正計上は昨年6月時点で国の33の行政機関のうち28機関で計3700人(実数)に上った。このうち約93%に当たる3426人で、国のガイドラインで定めた障害者手帳や指定医による診断書を持っていなかった。>ことを明らかにしています。
障害者手帳も診断書もなく、どのようにして障害者性を客観的に判断できるのでしょう。
<報告書は「障害者の範囲や確認方法を恣意(しい)的に解釈していた。極めて由々しき事態」と批判した。>また<報告書は「前例踏襲で長期にわたり多くの行政機関で不適切な実務慣行が継続していた」と結論づけた。>ともされています。
第三者委員会は、恣意的な解釈とか、前例踏襲で不適切な実務慣行とか、はっきりいえばあいまいな結論にとどまっています。
この点、松井委員長の記者会見を取り上げた<障害者雇用 水増し問題 第三者委報告 不適切慣行、漫然と>では、同委員長の見解を引用しています。
<「法定雇用率を充足するため、恣意的な不適切計上が行われていた」と指摘したが、「故意ではなかったか」との質問に「主張を覆す裏付け証拠が出てくれば別だが、故意性、意図性を認定できない」と繰り返した。>と。
証拠がない以上、故意性を認定できないといのは、検事出身ですから、当然の発言です。こういった不正・不適切な事例について、第三者委員会が求められるのは、すでに不正なデータがある中で、不正に直接関係した人たちの認識について、捜査経験を生かしていかに適当な弁解を許さず客観的証拠を踏まえて追求するかということが求められるのではないかと思うのですが、本件の記者会見での質疑でそのような調査経緯が合理的に語られたかというと、疑問を感じます。
松井氏の所属する法律事務所ホームページにそのプロフィールが掲載されていますが、長い検事経験をされていて、ある時期までは現場で相当の経験をされてきたことがうかがえます。弁護士になってからは第三者委員会の経験も結構されていて、高い評判を得ているのでしょう、いろいろなところで推薦される方のようです。
ただ、記者の質問<意図性を断定する証拠がなかったということだが、約1カ月という検証期間が制約となったのか。>に対し、<1カ月あまりではあるが、濃密に調査・検証ができたと考えている。>と答えていますが、どうしてそういえるのでしょう?
さらに<(不適切計上と認定された)3700人について徹底的に検証することになれば、捜査に近いものになる。>と回答していますが、なぜ3700人の個々に調べることが捜査に近いものになるのでしょう。だいたい「徹底的に検証」といって弁解していますが、そのための第三者委員会ではないのでしょうか。適当な検証ならやらないほうがましでしょう。
<(不適切な慣行を)共有していたのは、地方の人事担当の人が多い。そういう人たち一人一人を呼んで聞くというのが、長期間かけて本当にできるのか。私の過去の経験からは疑問がある。>そうこの方は、こういう考えをお持ちですから、依頼に当たっても、個別に担当者に聞き取ることはせず、だれか各省の担当者が聞き取ったか整理した上で、その担当者の話を聞いて検証したというのでしょう。
次の回答からは、そもそも相当先入観を抱いていたうえで検証にあたったようにも見受けられます。
<今回の問題については、「考えた」というよりも、「考えずに行われた」という感が強い。前例踏襲で新たな障害者を雇う努力をせず、独自の不適切な実務慣行が漫然と行われていた。法に従う公務員の仕事としては、あぜんとする思いだ。>
このような松井氏の感じ方が、個別に担当者から聞き取った上で(仮に全員でなくても相当数に絞った上でも直接聞き取った)、このような考えに至ったのであれば、そのような具体的な担当者の言葉を引き合いに出せますが、どうもそのようには思えません。
また<意図的な計上はなかったという認識か。>との質問に対する答えが<意図的だというケースは認められなかった。架空の人を計上するとか、障害の実態をまったく考えないででっち上げるといったものはなかった。>ということですが、<障害の実態をまったく考えないとしていますが、そういえるのか疑問です。
<水増し問題 検証委員会の報告書 詳報>によると< ・視覚障害について、矯正視力ではなく裸眼視力で測定すると誤解。>としていますが、裸眼視力で障害を認定することは常識的にありうるのでしょうか。私も障害認定されそうです。悪質な民間企業ならそういった弁解もありうるでしょうけど、国家機関の人事担当がそのような認識であったとみるほうが不自然ではないでしょうか。
また<人事記録の自己申告や同僚職員らの供述、担当者の主観で判断。>といったことは、担当者はすくなくとも当該「障害」と認定した人を認識していて、根拠なく判断したというのですが、その人を知っていれば障害の実態をまったく考えないででっち上げたのに等しいのではないでしょうか。当該人物について、障害の種類・程度が明らかにされていないので、でっちあげかどうかさえ、これだけでは判断できません。個人のプライバシー保護の必要性を考慮しつつ、報告書の内容には詳細な言及がされていることを期待したいと思います。
さらにいえば<過去の計上例を参考に漫然と当てはめた。>と概括していますが、上記を含めこのような弁解が通るのであればわざわざ検証した意味がないと感じるのは私だけではないように思います。
個別の検討をすれば、それぞれ事情が異なるのですから、個々の担当者からの聞き取りをすれば、もっと具体的な事情が判明するでしょう。すでに省庁間で連絡して調整済みかもしれませんが。一ヶ月程度で調査を終える見通しであったのであれば、最初から結論ありきだった可能性も疑いたくなります。
これだけの内容をいったい実働何人でどのくらいの時間をかけてやったのでしょう。そのくらいは報告の中に入っているのでしょうかね。
ただ、調査方法については
<(1)厚生労働省
身体障害者雇用促進法が制定された1960年から現在までの関連資料の提供を求め、2回にわたるヒアリングを実施。
(2)国の行政機関
33の国の行政機関を対象に、書面調査とヒアリングを実施。>
ということですから、この程度のヒアリングではあまり成果をあげられないと思うのです。いや松井氏は辣腕検事だから大丈夫とおっしゃられるのかもしれませんが、現実味に乏しいと思うのです。まあ第三者が(これも同じ名称ですね)勝手な口出しをしても糠に釘かもしれませんが、たまには岡目八目ということもありますから、世論の声はしっかり聞いてもらいたいとも思うのです。
<障害者雇用水増し問題 故意性否定に憤慨 障害者「検証は表層的」>では、
<日本障害者協議会代表の藤井克徳氏は「なぜ長期間にわたり、これだけ大規模に水増しが行われてきたのか。検証委は障害者雇用に対する関心の低さや、法の理念に対する意識の低さという表現をしているが、なぜ関心が薄かったのか、その疑問に答えていない。検証は表層的だ」と指摘する。
さらに、藤井氏は「根本には障害者を職場に入れたくないという障害者排除の考え方があったのではないか。真相をえぐってほしかった」と嘆き、・・・
また「・・・当事者を入れて、障害者の労働や雇用制度について根本から議論すべきだ」と語った。【山田麻未】
当然の怒りでしょう。
最後に小泉進次郎氏の意見を採り上げておきます。
<障害者雇用水増し「悪質だ」 進次郎部会長、初日からビシバシ>では、
<自民党の厚生労働部会長になった小泉進次郎衆院議員が・・・、中央省庁などの障害者雇用数水増し問題について「法律を破ることはあり得ない」と早速苦言を呈した。
・・小泉氏は障害者手帳を持たないうつ病の職員や裸眼で視力の悪い職員を障害者に算入した違反事例を挙げ「悪質だ」と指摘した。【原田啓之】>
違反事例としていますね、切れがいいです。安倍政権ではどうも表面だけを装って内容がないことが多いように思うのですが、どうでしょう。松井氏は自分は捜査のプロだから、裏付けがない以上、意図性を認めないという立場は理解できますが、でもほんとにこれで検証としていいのでしょうか、それが毎日がこれだけ大きく取り上げた背景ではないでしょうか。わたしもその疑問を共有しています。
今日はこのへんでおしまい。また明日。