建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

挨拶廻り(1)

2009-05-07 09:17:06 | Weblog
     …………………………(挨拶廻り 1)……………

 日常の挨拶にもいろいろあるが、一風変わった挨拶の話をしよう。
 
 現場ゲートの前の道路に黒塗りの高級(外車)が横付けに止まって、中に二人いる。
 いつもと違う空気が感じられて嫌な予感がした。

 支店役付き関係者の来現ならばガードマンに一声の挨拶があって、現場の中に堂々と入ってくる筈なのだが、路上に止めたままで誰もドアから出て来ない。
(やややっ・・・ついにオデマシかい?)
 誰あろう、怖いお兄さんが『挨拶』に来たのである。

 こちらも腹を決めて、事務所に入って来るのを受けて待つ準備をする。
 何を売りつけられるのか分からないが、2万円と数千円を財布に入れ替えて、万一の時には領収書を書かせてお引取り願おう、と気合を入れて待つのである。
 
 かつて、黒塗りの高級車が現場に来たのを見ただけで、
「所長はいない、いつ帰るか分からんと言うてくれ」
 と車が現場から姿を消すまで事務所から飛び出す所長もいた。
 逃げても後日、挨拶にやって来るのだから、いつかは話をせねばならないのに…だ。
 下請けの社長も格の違いを見せる為か、見栄なのか昔から黒塗りの高級車に乗って来る。
 しかも、日焼けして恰幅が良すぎるのであるから、その道のお方と肩を並べても、どちらが本職なのか見間違ったという事も、冗談抜きの話である。
 
「所長さんは…いらっしゃいますか?」
 この一声からは仕事の用件ではなく、ガラにもない優しい声が総てを語っている。
 協力業者の社長さんが私と初対面である場合の登場ならば、
「◎☆会社の△□ですが、福本所長さんですか?」
 と御互いの名前を口に出して、名刺交換の挨拶から話が始まるものだが今回は違う。

(自分の名前を名乗らずに、俺様を指名しやがって!)
 と、眼に力を入れてから察しの付いた態度で、
「どちら様ですか?」
「ちょっと…所長さんに…」         
「では、こちらでうかがいましょう」        
 と二人に応接ソファを指差すが膝は震えている。 
「実は、私たちは…」              
 と名刺代わりに金バッチをチラリと見せて、   
(わかってるよな)               
 と徐々に…交互にガンを飛ばして来る。

 昔から、こんな事をやっている連中は、どうしようもないヤツらだ…と思っているが、この《挨拶廻り》別名《地廻り》とやらもその筋では立派な任務であるのだから、建設業界の裏街道から無くなる事はないだろう、いつかは来るだろうと予想はしていた。


                  《続く》
     

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