…………………………(挨拶廻り 1)……………
日常の挨拶にもいろいろあるが、一風変わった挨拶の話をしよう。
現場ゲートの前の道路に黒塗りの高級(外車)が横付けに止まって、中に二人いる。
いつもと違う空気が感じられて嫌な予感がした。
支店役付き関係者の来現ならばガードマンに一声の挨拶があって、現場の中に堂々と入ってくる筈なのだが、路上に止めたままで誰もドアから出て来ない。
(やややっ・・・ついにオデマシかい?)
誰あろう、怖いお兄さんが『挨拶』に来たのである。
こちらも腹を決めて、事務所に入って来るのを受けて待つ準備をする。
何を売りつけられるのか分からないが、2万円と数千円を財布に入れ替えて、万一の時には領収書を書かせてお引取り願おう、と気合を入れて待つのである。
かつて、黒塗りの高級車が現場に来たのを見ただけで、
「所長はいない、いつ帰るか分からんと言うてくれ」
と車が現場から姿を消すまで事務所から飛び出す所長もいた。
逃げても後日、挨拶にやって来るのだから、いつかは話をせねばならないのに…だ。
下請けの社長も格の違いを見せる為か、見栄なのか昔から黒塗りの高級車に乗って来る。
しかも、日焼けして恰幅が良すぎるのであるから、その道のお方と肩を並べても、どちらが本職なのか見間違ったという事も、冗談抜きの話である。
「所長さんは…いらっしゃいますか?」
この一声からは仕事の用件ではなく、ガラにもない優しい声が総てを語っている。
協力業者の社長さんが私と初対面である場合の登場ならば、
「◎☆会社の△□ですが、福本所長さんですか?」
と御互いの名前を口に出して、名刺交換の挨拶から話が始まるものだが今回は違う。
(自分の名前を名乗らずに、俺様を指名しやがって!)
と、眼に力を入れてから察しの付いた態度で、
「どちら様ですか?」
「ちょっと…所長さんに…」
「では、こちらでうかがいましょう」
と二人に応接ソファを指差すが膝は震えている。
「実は、私たちは…」
と名刺代わりに金バッチをチラリと見せて、
(わかってるよな)
と徐々に…交互にガンを飛ばして来る。
昔から、こんな事をやっている連中は、どうしようもないヤツらだ…と思っているが、この《挨拶廻り》別名《地廻り》とやらもその筋では立派な任務であるのだから、建設業界の裏街道から無くなる事はないだろう、いつかは来るだろうと予想はしていた。
《続く》
日常の挨拶にもいろいろあるが、一風変わった挨拶の話をしよう。
現場ゲートの前の道路に黒塗りの高級(外車)が横付けに止まって、中に二人いる。
いつもと違う空気が感じられて嫌な予感がした。
支店役付き関係者の来現ならばガードマンに一声の挨拶があって、現場の中に堂々と入ってくる筈なのだが、路上に止めたままで誰もドアから出て来ない。
(やややっ・・・ついにオデマシかい?)
誰あろう、怖いお兄さんが『挨拶』に来たのである。
こちらも腹を決めて、事務所に入って来るのを受けて待つ準備をする。
何を売りつけられるのか分からないが、2万円と数千円を財布に入れ替えて、万一の時には領収書を書かせてお引取り願おう、と気合を入れて待つのである。
かつて、黒塗りの高級車が現場に来たのを見ただけで、
「所長はいない、いつ帰るか分からんと言うてくれ」
と車が現場から姿を消すまで事務所から飛び出す所長もいた。
逃げても後日、挨拶にやって来るのだから、いつかは話をせねばならないのに…だ。
下請けの社長も格の違いを見せる為か、見栄なのか昔から黒塗りの高級車に乗って来る。
しかも、日焼けして恰幅が良すぎるのであるから、その道のお方と肩を並べても、どちらが本職なのか見間違ったという事も、冗談抜きの話である。
「所長さんは…いらっしゃいますか?」
この一声からは仕事の用件ではなく、ガラにもない優しい声が総てを語っている。
協力業者の社長さんが私と初対面である場合の登場ならば、
「◎☆会社の△□ですが、福本所長さんですか?」
と御互いの名前を口に出して、名刺交換の挨拶から話が始まるものだが今回は違う。
(自分の名前を名乗らずに、俺様を指名しやがって!)
と、眼に力を入れてから察しの付いた態度で、
「どちら様ですか?」
「ちょっと…所長さんに…」
「では、こちらでうかがいましょう」
と二人に応接ソファを指差すが膝は震えている。
「実は、私たちは…」
と名刺代わりに金バッチをチラリと見せて、
(わかってるよな)
と徐々に…交互にガンを飛ばして来る。
昔から、こんな事をやっている連中は、どうしようもないヤツらだ…と思っているが、この《挨拶廻り》別名《地廻り》とやらもその筋では立派な任務であるのだから、建設業界の裏街道から無くなる事はないだろう、いつかは来るだろうと予想はしていた。
《続く》
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