建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

受水槽のクレーム発生

2023-03-14 07:56:32 | 建設現場 安全

六月 十六日(金) 雨 

 昨夜、1月末日に竣工したAマンションのオーナーから電話が入った。

受水槽の中からドンドンドンと時々音が出ているので・・・」
夜の10時を廻っていた。

「多分水圧の関係でしょうから入水印のバルブを閉めてて下さい、朝6時迄には私が行って点検
します。入水を止めた状態からタンクが空になる前に間に合わせますから……」 

電話を切って少し不安になった。 
何だろう受水槽の中で音だとは?―――。
   (ザーザーならまだしもドンドンドンと太鼓を叩く様な音だと言われたのは………
            ボールタップ(満水になると止まる装置)が故障でストップが効かなくなって
           暴れている のだろう・・・多分)―――と推定してみた。

 現在はタンクが満水状態でストップしようとしている筈の音だ、逆にタンクが空に近くなっ
ているとしたら減水警報ブザーが鳴る筈だ、と第一段階を納得した。

 第二段階は減水警報ブザーが鳴る迄、今からマンションの人が水を使い切るかどうかの問題
だ。
 今23時。9割は夕食が終っているだろうし、半分の家庭は風呂が済んでいると仮定すれば、
朝までタンク内の水量でまかなえる。
朝6時には私が現地へ着いて直接バルブを開ければ、朝食の準備支度に『断水中』という不便
をかける事はないだろう。 

でも―――何となくどこかで私のこの計算が違っていたらどうなるのだ?とも思える。
ガスではないので危険性がないから少しは落ち着けるけれど、何となく不安を覚えた。

 そして今朝は久し振りのAマンションへ行った。
と言っても竣工後は月に一度はアフターケアーに伺ってはいたけれど、別に何もなかったの
で、昔話しに花を咲かせていたのだが、今朝の様に目的を持って来たのは初めての事だ。

早速受水槽のタンクを覗(のぞ)いてみた。
水は3分の2残っていて、夜間に不便をかけた形跡はなく入水バルブを開いてしばらく待った。
(どんな音なンだ!、何故なンだ・・・?)
と期待と不安でボールタップを見つめていた。

6時45分を廻った頃に音が出始めた。
やっぱり張本人はボールタップだった。
水が入ってくる流量力によりボールタップが浮いてタンクの壁を叩いているのだ。
これを手で引っ張る(動きを止める)と当然音はしなかった。
フロート(浮きの調整)が甘くて中に微々たる何かが邪魔してピタッとストップしない様だ。

1月末に竣工して今6月だから壊れるには早過ぎる。
とにかく設備業者へ電話をいれた。

「早いねえ所長、一体何ですか?」
「目を覚まして上げるよ、野村君。Aマンション・・・そう一月に出来たAマンションに今いる
んだヨ、受水槽が壊れたので水浸しだ」
「またまた冗談を・・・」
「冗談で朝っぱらから雨の中こんな恰好(かっこう)してないよ!」

と言っても相手には見えないけれども、カッパもなしの『濡れ鼠(ねずみ)でタンクの上へ登っ
たり降りたりして、携帯電話片手に持ちながら話ているのだった。

「ボールタップを取替えれば済むと思うけれど、とにかく調子が悪いンだ。ストップが効かなく
て、満水近くでタンク天井を叩きドンドンドンと太鼓の様な音が出るんだ」
「すぐに行きます・・・所長何時に会います?」
「職人が来て直して帰るまではここにいるよ、風邪ひきそうだから早く来てヨ」
「OK、とにかく私が今から行きます。40分位で着きます」

一応手直し工事の段取りは出来た。
ポンプ室で作業服を着替えて、なじみの喫茶店へ飛び込んだ。
Aマンション工事中は人呼んで隠れた『第二打ち合わせ室』だった所だ。

「久し振りネ、どうしたの?Aマンション何かあったの?」
「別にィ、近くに立ち寄ったので、時間調整だよ、ママの顔を(娘さんの顔かな)見たかった
しネ、ほんと」
「またまた冗談を」
「本当に冗談だな」
と準備中の喫茶店で、掃除中の椅子を右へ左へ移動させながら、気兼ねなしに待った。

やがて、設備工事の担当だった野村君が喫茶店にやって来た。
「どんな状態だったんですか?」
「まあコーヒー飲んで行こう、今の所は音も水も大丈夫だから―――まあ色々とね」

一部始終を話して、手直し方法は《とにかく取り替えて》様子を見て見ようという事になった。
同一のボールタップがないので、今持って来た物を取り敢えず付けておく事にした。

『メーカーにも手配して2~3日の内には取り替えておきます』と言うことで一件落着だ。

昼過ぎにはKビルに戻った。
何だか空気が違う。勝手に現場を留守にしてたからか?

「何?何かあったの?」
と心配顔のN子に訊(きい)て見れば、
「支店から『Aマンションの件を報告しなさい!』と叱られた……」との事だった。

(昨夜の事は支店にも電話が入っていたのか)
私が第一声を聞いたのかと思っていたけれど―――それで夜も遅くに電話が・・・。

支店の工事課と設備課へは内容及び結果報告をしておいた。
『大騒ぎするに足らず・・・』だ。

夕方雷と共に大雨が降った。
現場仮設事務所の周辺は、床上浸水寸前迄水が溜まった。
(わず)か1時間にも満たない間にだ。
排水先のU字溝が一様に逆流していたのでポンプは使えず、雨水は溜まる一方だった。

本当に今日は水と雨に一日を振り廻されてしまった。

『水を治める者は天下をも治める』 
       ―――といった先達の言葉が思い出された一日だった。

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