解体工事(2)
1週間もあれば壊せる工事は過去、何度かあったものの、大型の建物を壊すに
は事前計画が必要であり、工事期間中に起こりうる問題や近隣対策等について
は、解体業者の意見を聞いて情報収集し、安全対策を重視した工事計画書を
先ず作った。
屋上に解体重機を吊り上げるには80㌧レッカー車をどこに設置するかと言えば、車道を使うしかない。
警察から道路使用許可は降りるだろうが、夜間・早朝の交通量の少ない時間を
指定されてもやむを得ないし、深夜便の運転手さんに通行止めをさせないように、迂回路の交差点ごとにガードマンで誘導する気遣いも忘れなかった。
解体建物の周囲は足場を建物よりも3㍍は高い所まで設置し、少しでも埃の飛散防止になるようにして、養生シートも二重に取り付ける事にした。
屋上の床に4㍍角程度の穴を空けて、8階の床面に重機を降ろしてから屋上面を壊しながら順次下の階へと降りていくのである。
重機で解体する状態は恐竜が建物を噛み付いては吐き出すような仕草であり、埃は舞い上がり、時には恐竜の鳴き声らしき音も出て振動も相当ある。
柱の根元を鋏で切ったようにして引き倒して、倒した柱をコンクリートと鉄部に
分けるのだが、昔の建物であるからコンクリートは現在のように堅くないと思って
いたのは甘かった。
部材の細い鉄骨がしつこいほど入っていて、コンクリートにヒビが入っても人間
の頭より大きな塊のままで鉄骨から切り離せられなくて、一向に破砕作業は進ま
ない。
噛み砕き専用に二廻り小さな重機を搬入して、場内は倒れた柱と壁を壊したコンクリートガラが8階に山積みになって来たが、もう屋上の床はなくて8階は全て炎天下にさらされている。
屋上の床面を壊したガラと重機の重さでこの8階の床は何㌧まで耐えられるか
計算すれば、
「完全にアウト」
の答えが出ると言って、作業計画の変更を伝えに構造計算の担当者が来た。
「冗談じゃない!」
「古い建物でありコンクリートも強度が低いハズだし、構造計算では・・・」
「計算式の判定基準が違うのでは?」
計算書を開くまでもなく、私はきっぱりとはねつけた。
合衆国の貿易センタービル倒壊のように、上階が崩れた荷重で順次下の階が
崩れて行く事を眼にしているが、解体困難な建物を今、苦労して壊しているのに、
簡単に倒壊する訳がない。 続く・・・
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます