いつも通る路地の角に、木造の小さな古い家がある。
元々、バックパッカーたちの休憩所のような、簡易宿泊所のような使われ方をしていて、軒先に、古いモノクロの絵葉書やレコードが、何十円かの値札をつけられて雨ざらしになっていたりする、ちょっと荒れた不思議な家だ。
そこには痩せた白髪の老婆が犬と暮らしているのだが、その犬がまた、老いさらばえた狐のような顔をした雌犬で、いつも尻尾を垂れているのだ。
時々、飯粒が家の脇に撒かれていて、それを目当てにスズメ達がやってくる。
よく見ると、野良猫保護運動のポスターなんかも貼られていて、動物好きな老婆であろうことは間違いない。
一度、犬に話しかけようとしたことがあったのだが、その老婆に怖い形相で睨まれて、それ以来は、犬に小さく手を振る程度であった・・・犬からはガン無視されていたけれど。
コロナのせいか、この店とも何ともつかない場所は、ここのところずっと閉まっていた。
今朝、不思議な小さな張り紙が貼られていることに気づく。
『うめさん連絡ください』
薄墨で書かれた張り紙は、「うめ」の文字のみ朱書きなのだ。
誰かがうめさんを探しているのは確かだろうが、家の軒下に貼られているって、どういうことだろう。
家主が誰かを捜しているのか、それとも、誰かがこの家の主を捜しているのか。
普通に考えると、後者だな。
そういえば、この頃、スズメも犬も、老婆も見かけない。
考えれば考えるほど、不安と興味が交錯する。
夢の中に、尻尾を垂らした犬が出てきそうな気がする。
それもこれも、深夜にミステリーを観たからかしらん。
尻尾のハゲた猫。ww