琵琶の琥珀姫、こと、玄米姫、こと、げんちゃんのいるお茶屋さんの前を、朝にとおりかかった。
あれ?
なんだか、げんちゃん、元気がないな。
お昼頃に、もう一度通った時には、げんちゃんは玄関にはいなかった。
夕方、さらにもう一度通りかかると、げんちゃんは、お店の奥さんにブラシをかけてもらっていたのだけれど、やっぱり全然元気がない。
思わず声をかけた。
こんにちは。
げんちゃん、なんだか元気がないですね。
そうなんです。
もう4日ほどになるかな。
脂肪腫のある右の後ろ足をぐねったみたいで、それから全然ご飯を食べないんです。
お水もあんまり飲まないし。
けれどね、この子ももう歳だから、絶対に体にメスを入れたり、痛い思いをさせたりするのは嫌なんです。
だから、獣医さんに連れて行きたくなくてね。
若い家族たちとは意見がちがうんだけれど。
奥さんのおっしゃることは、とてもよく分かる。
昔、それはそれは大切にしていた黒猫が腎臓病になった時、自宅で100回以上点滴をした。
なんとかご飯を食べさせようと、色々なものを試して、口に入れてみた。
無理やり口を開けさせて、薬を飲ませた。
結局、やせ細って、わたしの腕の中で息を引き取った。
自宅点滴をしていた頃は、「この子のために、なんでもする!」と思っていた。
けれど、それは、わたしのエゴではなかったのかと、何年か経って思うようになった。
無理やりつらい治療を受けさせて、命を引き延ばしたことが、この子にとって本当に幸せなことだったのかと。
死んでほしくなかった、どうしても生きていて欲しかったのだと、思う。
そんなことを思い出しながら、奥さんのお話を聞いていたら、不覚にも落涙する。
慌てて、その場を立ち去った。
げんちゃん、なんとか元気になってね。