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『ヘッドライト』旅の友・シネマ編 (13) 

2018-08-11 16:36:30 | 旅の友・シネマ編



『ヘッドライト』 Des Gens Sans Importance (仏)
1956年制作、1956年公開 配給:新外映 モノクロ
監督 アンリ・ヴェルヌイユ
脚本 アンリ・ヴェルヌイユ、フランソワ・ボワイエ
撮影 ルイ・パージュ
原作 セルジュ・グルッサール 「重要でない人たち」
音楽 ジョゼフ・コスマ
主演 ジャン・ヴィアール … ジャン・ギャバン
    クロチルド … フランソワーズ・アルヌール
    ソランジュ・ヴィアール … イベット・エティエベント
    ジャクリーヌ・ヴィアール … ダニー・カレル
主題歌 『ヘッドライト』 ( Des Gens Sans Importance ) 演奏・サウンドトラック盤



初老のしがない定期便トラックの運転手のジャンは長距離運転の途中、ボルドーの国道沿いにある“キャラバン”という常宿で
休憩しながら二年前の夜を思い出していた。
ジャンは二年前のクリスマスの夜にこの常宿で新顔で可憐な二十歳の給仕クロチルドと出会った。家庭の妻娘との関係は既に
冷え切っていたこともありジャンは孤独で薄幸なクロと恋に落ちてしまう。ジャンは妻子と別れてクロとの生活を考えた矢先に
雇い主と諍いを起こして失業し、定期的に立ち寄っていた常宿にも行けなくなりクロとの連絡もできなくなってしまった。
身重になっていたクロは心配のあまり手紙で知らせようとしたがジャンからの返事はなく、望みを失ったクロはヤミ医者により
危険な堕胎手術を受けてしまう。そんなときジャンに長距離の家畜輸送の仕事が見つかりジャンはその夜のうちにパリを出発、
そして安宿からクロを連れ出してトラックに乗せた。二人は新しい生活に旅立とうと決心して、濃霧が立ち込め風雨の強まる
夜道をひた走るが、堕胎手術後のクロの容態が次第に悪化してきた。しかし走れども走れども目的地はまだ遠く、クロは次第に
弱り果てていく。もうこれ以上トラックに同乗させるのは無理と思ったジャンはやむなく救急車を呼んでクロを病院に急がせた。
しかし、国道でジャンを待っていたのは先を急いでいたはずの救急車であった。そしてクロの命が霧の中に消え去ったことを悟る。
そんな思い出を噛みしめながら休息していたジャンは宿の店主に起こされた。再びジャンの淡々とした日常が始まる。



セルジュ・グルッサールの『重要でない人たち』は殺人事件がらみの悲劇なのですが、これをヴェルヌイユが大幅にアレンジし
情感溢れるタッチで描きあげ珠玉の映像美に仕立て上げました。
何の変哲もない無意味な時間に流される日常のなか、「運転手の俺たちには道路をえらべないからな」というジャンの台詞が
しがない人生を象徴、社会の片隅で薄幸の日々を送る男女にヘッドライトのように人生の暗闇を照らす一瞬の光が差し込んだ
ものの、再び社会の片隅の日々へと立ち戻ってしまう。その人生の虚しさが重く心に響きわたります。



また、ヴェルヌイユは随所にフランス独特の詩的リアリズムを取り入れながらも哀感と詩情による映像美を貫き通しました。
冒頭の砂埃が吹き抜ける片田舎の国道沿いの風景、パリの裏路地、雨に濡れた石畳み、そして霧に煙る深夜の国道などの
描写に緻密な人物像を重ね合わせ、情緒に甘さを含めたペシミズムにより、観る者を【侘び・寂び】の境地に迷い込ませて
究極の寂寞感をもたらしてくれます。



ヴェルヌイユによるこの『ヘッドライト』は『過去をもつ愛情』『幸福への招待』と共に彼を代表する三部作となりました。
いずれも人々の心底を揺さぶる情感あふれた作品群であったのですが、その数年後には『冬の猿』『地下室のメロディー』
などの活劇映画へ転身、時代の流れ(ニーズ)に翻弄されてしまったようでとても残念です。




映画主題歌の『ヘッドライト』はジョセフ・コズマが作曲した哀調を帯びた楽曲で、もの悲しい詩情映像との
相乗効果で見る人の心に強く沁み渡りました。
この楽曲は、映画の構成上なくてはならない映画の一部となっており、いわゆる『映画に融和した音楽』の
代表格的な存在となっています。

『ヘッドライト』サウンドトラック 【YOUTUBE】より



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このブログの『外国映画公開史』において私が☆印を付した映画史上の最高峰と位置付けるトップ13にまで辿り着きました。
引き続いて順次紹介するつもりではありますが、今のペースだと100作品並べるのに二年近くかかりそうです。
これまではビデオやDVDで繰り返して作品を見直してから記事にしてきたのですが、体力・気力がいつまでもつかが
気がかりなので、記事化のピッチを上げるために作品の見直しを省略し、時には記憶に頼りながら綴っていこうと
思っています。
従いまして、内容が少し荒っぽくなるかもしれませんかご容赦のほどをお願いいたします。