拡大を続ける西之島 その3000万年の成長史
2013年11月に小笠原諸島の西之島(にしのしま)の東南東500mに出現した火山島は、その後幾度かの休止期を挟みながらも噴火が続き、すっかり旧島を飲み込んだ。これら一連の活動で噴出したマグマの総量は、日本史上最大規模と言われる富士山貞観及び宝永噴火、桜島大正噴火をはるかに凌ぐようだ。
2020年噴火
西之島で昨年末から火山活動が活発化していることはニュースなどで報じられていたようだ。しかし、新型コロナウィルスの蔓延や緊急事態宣言などで、多くの人たちは、このはるか南の島の出来事に関心を寄せている場合ではなかった。実は私もそうだった。
しかし、国土地理院が6月5日に地球観測衛星「だいち2号」(ALOS-2)に搭載された合成開口レーダー(SAR)のデータを解析して、HPにアップした画像を見て驚いた。この半年間で、主に北方向へと流れた溶岩流が海岸線をさらに500mほど後退させて、島は拡大を続けているのだ(図1)。2013年の噴火開始時に破顔一笑「領海が広がればいいな」とコメントした菅官房長官のように、国土が広がることは国民にとって喜ばしいことである。
さらに海上保安庁の海域火山データベースを調べると、6月7日の西之島の画像も見つかった(タイトル画像)。SARの画像と合わせると、火砕丘から噴き上げたマグマが溶岩流となって北側の海へ流れ込んで島を大きくしているように見える。
西之島はその最高点が200mにも届かず、面積も3平方kmにも満たない小島である。しかしこの火山は、海面下に直径約30km 高さ4000mにも及ぶ巨大な山体を潜ませている日本有数の巨大火山なのだ(西之島再噴火:日本は大きくなるか?)。そして西之島を含む「伊豆・小笠原・マリアナ列島(IBM: Izu-Bonin-Mariana)」には、このような巨大海底火山が林立して富士火山帯とも呼ばれる。この「弧状列島」で活発な火山活動を起こしているのは、伊豆・小笠原・マリアナ海溝から地球内部へ沈み込む太平洋プレートだ(図2a)。そしてこの火山帯に巨大火山が成長する原因は、この列島がまだ若くて十分に成熟していないことにある(富士山はなぜ日本一高いのか:巨大火山が並ぶ富士火山帯)。同じ太平洋プレートのせいで火山が密集する東北地方の地盤は、アジア大陸と同じく数億年より古いものであるのに対して、IBMは「たった」3000万年前から出来始めた「若い」地盤なのだ。このような場所では、地下で発生したマグマが地盤の中で留まって冷え固まることなく、一気に地表(海底)に噴き出すために火山が大きくなる。
IBMの成長史
将来IBMへと成長する「古IBM」が、現在よりはるか南方の海で誕生したのは3000万年前。当時、日本列島はまだアジア大陸の一部で、日本海は影も形もなかった(図2d)。
そして今から約2500万年前、地球史上でも稀な大事件がほぼ同時に勃発した。アジア大陸の東縁と古IBMの大地が裂け始めたのだ(図2c)。この大事件を引き起こした原因は、おそらく、沈み込んでいた太平洋プレートの一部が巨大な上昇流を誘発したのだと考えられている。
そして大陸から分裂した日本列島は太平洋側へ移動し、その結果大陸との隙間が拡大してできた窪地に海が浸入した。これが日本海である(図2b)。一方、分裂した古IBMの一部は、現在の九州・パラオ海嶺を置き去りにして東へ1000km以上も移動し、フィリピン海プレートの北進と相まって、今から約1500万年前には、アジア大陸から分離・移動してきた日本列島の近くまで達した(図2b)。そしてこの大移動の結果造られたのが、四国海盆と呼ばれる海底だ。
その後、日本列島やIBMの移動(日本海や四国海盆の拡大)は収まったのだが、日本列島ではさらなる大変動が起きた。大衝突事件だ。フィリピン海プレートの北進によってIBMが突き刺さるように日本列島に衝突し、伊豆半島は本州と結合したのだ。伊豆半島の北側、丹沢山地の山奥で、はるか南の海でできたサンゴの化石が発見されるのは、まさにIBMが北上して本州に衝突した結果である。なお、この衝突は現在も進行中で、あと数千万年もすれば西之島も本州の一部になると予想される。それこそ、日本列島は大きくなるのだ。
何かと息苦しい昨今であるが、はるか南の西之島で起きている活発な火山活動、言い換えれば大地誕生のドラマに目をやりながら、数千万年にも及ぶ地球の営みに触れるのも一興ではないだろうか。