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2020-06-20 08:55:55 | 日記

拡大を続ける西之島        その3000万年の成長史

 2013年11月に小笠原諸島の西之島(にしのしま)の東南東500mに出現した火山島は、その後幾度かの休止期を挟みながらも噴火が続き、すっかり旧島を飲み込んだ。これら一連の活動で噴出したマグマの総量は、日本史上最大規模と言われる富士山貞観及び宝永噴火、桜島大正噴火をはるかに凌ぐようだ。

2020年噴火

 西之島で昨年末から火山活動が活発化していることはニュースなどで報じられていたようだ。しかし、新型コロナウィルスの蔓延や緊急事態宣言などで、多くの人たちは、このはるか南の島の出来事に関心を寄せている場合ではなかった。実は私もそうだった。

 しかし、国土地理院が6月5日に地球観測衛星「だいち2号」(ALOS-2)に搭載された合成開口レーダー(SAR)のデータを解析して、HPにアップした画像を見て驚いた。この半年間で、主に北方向へと流れた溶岩流が海岸線をさらに500mほど後退させて、島は拡大を続けているのだ(図1)。2013年の噴火開始時に破顔一笑「領海が広がればいいな」とコメントした菅官房長官のように、国土が広がることは国民にとって喜ばしいことである。

図1 今も続く西之島の拡大。(国土地理院の地理空間情報:https://www.gsi.go.jp/BOUSAI/R1_nishinoshima.html に基づいて巽作成)
図1 今も続く西之島の拡大。(国土地理院の地理空間情報:https://www.gsi.go.jp/BOUSAI/R1_nishinoshima.html に基づいて巽作成)

 さらに海上保安庁の海域火山データベースを調べると、6月7日の西之島の画像も見つかった(タイトル画像)。SARの画像と合わせると、火砕丘から噴き上げたマグマが溶岩流となって北側の海へ流れ込んで島を大きくしているように見える。

 西之島はその最高点が200mにも届かず、面積も3平方kmにも満たない小島である。しかしこの火山は、海面下に直径約30km 高さ4000mにも及ぶ巨大な山体を潜ませている日本有数の巨大火山なのだ(西之島再噴火:日本は大きくなるか?)。そして西之島を含む「伊豆・小笠原・マリアナ列島(IBM: Izu-Bonin-Mariana)」には、このような巨大海底火山が林立して富士火山帯とも呼ばれる。この「弧状列島」で活発な火山活動を起こしているのは、伊豆・小笠原・マリアナ海溝から地球内部へ沈み込む太平洋プレートだ(図2a)。そしてこの火山帯に巨大火山が成長する原因は、この列島がまだ若くて十分に成熟していないことにある(富士山はなぜ日本一高いのか:巨大火山が並ぶ富士火山帯)。同じ太平洋プレートのせいで火山が密集する東北地方の地盤は、アジア大陸と同じく数億年より古いものであるのに対して、IBMは「たった」3000万年前から出来始めた「若い」地盤なのだ。このような場所では、地下で発生したマグマが地盤の中で留まって冷え固まることなく、一気に地表(海底)に噴き出すために火山が大きくなる。

図2 西之島が活動する伊豆・小笠原・マリアナ諸島の、過去3000万年の進化史。(巽原図)
図2 西之島が活動する伊豆・小笠原・マリアナ諸島の、過去3000万年の進化史。(巽原図)

IBMの成長史

 将来IBMへと成長する「古IBM」が、現在よりはるか南方の海で誕生したのは3000万年前。当時、日本列島はまだアジア大陸の一部で、日本海は影も形もなかった(図2d)。

 そして今から約2500万年前、地球史上でも稀な大事件がほぼ同時に勃発した。アジア大陸の東縁と古IBMの大地が裂け始めたのだ(図2c)。この大事件を引き起こした原因は、おそらく、沈み込んでいた太平洋プレートの一部が巨大な上昇流を誘発したのだと考えられている。

 そして大陸から分裂した日本列島は太平洋側へ移動し、その結果大陸との隙間が拡大してできた窪地に海が浸入した。これが日本海である(図2b)。一方、分裂した古IBMの一部は、現在の九州・パラオ海嶺を置き去りにして東へ1000km以上も移動し、フィリピン海プレートの北進と相まって、今から約1500万年前には、アジア大陸から分離・移動してきた日本列島の近くまで達した(図2b)。そしてこの大移動の結果造られたのが、四国海盆と呼ばれる海底だ。

 その後、日本列島やIBMの移動(日本海や四国海盆の拡大)は収まったのだが、日本列島ではさらなる大変動が起きた。大衝突事件だ。フィリピン海プレートの北進によってIBMが突き刺さるように日本列島に衝突し、伊豆半島は本州と結合したのだ。伊豆半島の北側、丹沢山地の山奥で、はるか南の海でできたサンゴの化石が発見されるのは、まさにIBMが北上して本州に衝突した結果である。なお、この衝突は現在も進行中で、あと数千万年もすれば西之島も本州の一部になると予想される。それこそ、日本列島は大きくなるのだ。

 何かと息苦しい昨今であるが、はるか南の西之島で起きている活発な火山活動、言い換えれば大地誕生のドラマに目をやりながら、数千万年にも及ぶ地球の営みに触れるのも一興ではないだろうか。


夏至の日食

2020-06-20 08:45:21 | 日記

372年ぶり夏至の日食、予報は曇り時々晴れ

2020年6月21日と聞いてザワザワする方、そう、たぶん「日食病」にかかっています。この日、東京を含め日本から東南アジア、アフリカにかけて広範囲に部分日食と一部で金環日食が見られます。

 日食には「部分」「金環」「皆既」の三種類があります。作家の故・赤瀬川原平氏は「金環日食が10万円だとすると皆既日食は100万円ぐらい」と述べていますが私自身は、金環日食は部分日食と同じカテゴリーで、価値は皆既日食の足元にも及ばないと思っています。(もちろん天文学的な意味では無く、個人の趣味としての感想です)

日食は地球と月の距離で決まる

 皆既日食も金環日食も、太陽が月によって隠されるのは共通していますが、地球と月との距離が遠いと金環日食になります。

 地球と月の平均距離はおよそ38万キロ。±2~3万キロほど変化します。前回(2019年7月)南米で起きた皆既日食では、月と地球の距離は36万キロ。そして今回は39万キロと月が遠いところにあるので、東南アジアなどでは金環日食、そしてその端にあたる日本列島では部分日食となるわけです。残念ながら、今回は皆既になるところはありません。

300年以上無い 夏至の日食

 日本で部分日食が見られることは、それほど珍しいことではありません。国立天文台のデータによると、東京に限っても過去100年間で40回ほどあったので、およそ2~3年に1回の頻度、昨年にいたっては1年に2回もありました。しかも部分日食だと太陽がほとんど「隠れた感」が無く、天気が悪いと関心も持たれにくい。そうしたことから、日食に対しての世間の反応はそれほど高くありません。

 

 しかし実は、日食というのは太陽と月が微妙な位置関係にあって、この広大な宇宙の中で点と点が重なってその影を地球で見ることが出来ると考えると、奇跡のような天文現象だと言えます。さらに現在の月は1年に3.8センチほど遠ざかっているので、およそ6億年後には皆既日食は見られなくなるわけです。まぁ、人間の時間軸とは違いますが。

 そして今回は、夏至の日に見られる部分日食です。北半球では太陽高度が一番高く(東京・約78度)、日本全国で見られます。国立天文台やNASAのデータを調べた限りでは、1648年(慶安元年 徳川家光が将軍の頃)以降、日本で夏至の日に日食が起こったことはありません。

 意味のある事かと言われると困りますが、今回は日食病の人にとってはたまらない現象なのです。

日食の見え方と観測の注意

国立天文台HPより
国立天文台HPより

 太陽の欠ける割合は南ほど大きく、東京では約3分の1が欠けます。日食の開始は16時頃からで、最も欠ける時間帯は17時頃の予想です。

また、観測時には、以下のことに注意してください。

・日食専用のグラスや遮光板を使う

・ピンホールを利用する

・専用の道具をつけた望遠鏡で観察する

絶対に肉眼や下敷き・サングラスなどで見てはいけません。

当日の天気 東京でも晴れ間が出るか

 これまで述べてきて身も蓋もない話ですが、一番重要なのは当日の天気です。

 

 6月下旬の晴天率は梅雨のない北海道や梅雨明け後の沖縄で6割、関東から西では2割弱ですが、18日時点での予報では、梅雨前線が沖縄あたりまで南下する予想で、九州から北では晴れ間がでる見込みです。東京も午後には日差しが出て、日食が見られる可能性があります。

次は約800年後に・・?

 もし、今回天気が悪くて見られなかったら、次に広範囲で見られるのは10年後の2030年になります。さらに夏至の日食でいうと、2802年なんてデータも。その頃には地球はどうなっているのか。そう考えると今回の日食がますます貴重に思えてなりません。

 ちなみに、その5年後2035年は約150年ぶりに本州で皆既日食が見られるチャンスです。

今後の日食予定 

2023年4月20日 部分日食(九州南部、紀伊半島など)

2030年6月1日 金環日食(北海道)部分日食(全国)

2035年9月2日 皆既日食(北陸から北関東)