goo

なおしのお薦め本(19)老人介護 常識の誤りb

 呆けに関して、その原因についても著者はこう考えます。

 「しかしどうして医療は呆けに対してかくも無力なのだろうか。それは、呆けもまた病気ではないからである。老人の物忘れもおもらしも、生理的退行=老化のせいであった。問題は老人自身と周りの私たちが老いとうまく付きあえないことにあった。

 しかし、専門家の書いた本にはいずれも、呆けの原因は脳の萎縮(小さくなること)であると書いてあるではないか、と思われる人もいるだろう。痴呆性老人が亡くなった後、解剖して脳を調べてみるとほぼ全例に脳萎縮が見られた、なんて新聞記事を読むと、呆けは脳が萎縮する病気だと思い込んでしまうかもしれない。

 しかし、……寝たきり老人を調べてみれば全例に筋肉の萎縮が見られるはずである」

 「筋肉の萎縮は寝たきりの結果であって、決してそれが原因ではない」

 「呆けもまた同じである。物忘れやおもらしをきっかけにしてプライドを失い、閉じこもったり、閉じこめられたりしたことでコミュニケーションの喪失状態が長く続いた結果、脳が萎縮したのである」

 著者は、病院に任せておけばなんとかなるだろう、という思い込みもバッサリ切り捨てます。

 「残念ながら、医療関係者はいまだに人間というものを『身体』としてしか見ないことが多い。『身体』が変わらないなら、その人はもうそれ以上良くなるはずはないと思っているから、『一生寝たきりのままです』なんて言うのだが、これを信じてはいけない」

 「身体はこれ以上治らなくても、生活が変われば人間を変えることはできるのだ。病院、それも急性期治療の病院は、もっとも生活的要素に乏しい場なのである。だとしたら、寝たきり脱出のためには、一日も早く病院を脱出すべきなのである」

 家に帰ってからすることは、「老人の生活習慣を大事にする」居場所づくりです。布団かベッドかの選択についても、人によって違うそうです。

 「床から立てる間は布団、立ちにくくなったらベッド、さらに、立てなくなったけどいざれるならもういちど布団で、それも難しくなり車椅子に介助して乗ってもらうためにベッド、というふうに、老人の機能の変化によっても変えていかねばならないということになる」

 これこそ、現場を知っている人だけが書ける知恵の言葉だと思います。

 ベッドの場合は、高さ(足が床に届くかどうか、立つのが楽かどうか)、幅(マット幅100センチ以上)に気をつける必要があるとのこと。ベッドの柵は、自立的な動きのじゃまになるので不要だそうです。

  このほかにも、トイレ、入浴、手すりについても、写真や絵を用いて、無理のない使い方が紹介されています。それらは割愛しますが、最後に「人間の生理的パターン」に即した動き方を二つ紹介します。これは、知っておくと役に立ちます。

  まず、床ずれ予防のための、寝返りの仕方について。

 「まず上を向いて寝て、両膝をいっぱいに立てる。踵がお尻につくくらいだ。次に両手を天井に向かっていっぱいに挙上する。さらに頭と肩を起こしてみる。

 この状態で横を向いてみてほしい。力を入れる必要もないくらい自然に向けることが判るだろう」

 

 次に、寝たきり予防のための、起きあがり(寝ている姿勢から座位になること)の仕方について。

 「まず十分横を向き、肘で床を押して片肘立位になる。次に肘を伸ばして坐る。ポイントは頭を前へ前へ出してバランスをとること」

 

 これは、下になった腕を大きく開く(体に対して九〇度近く)と楽にできるそうです。やってみましたが、これなら片手でも起きあがれます。ただこの動作は、狭いベッドで柵まであったら絶対にできませんね。あらためて、著者が病院脱出を勧めるのは当然と思った次第です。   なおし

 

             ※クリエイト速読スクールHP

コメント ( 7 ) | Trackback ( 0 )
« 通教受講生U... なおしのお薦... »
 
コメント
 
 
 
祖母は・・・ (A)
2007-05-09 23:49:04
すでに亡くなった祖母の話です。
縁側から落ちて歩行困難になってしまったのを機に、
老人ホームに入所したんです。
歩けないため、重度の要介護者とされました。

あまり近くもなかったんで、半年に一度、会いに行くくらいでしたが、
頭はしゃんとしていたのに、みるみるうちにボケていく姿を見るのは切なかったです
同部屋の方は、一日中寝ているような重度の要介護の方ばかりだったんですよね・・・

なおしさんのお薦め本の紹介を読んでいて、
久しぶりに思い出してしまいました・・・

やっぱり、頭は使わないとダメですね。
話し相手も必要かな
 
 
 
引用に不備がありました (小川なおし)
2007-05-10 00:51:32
ただいま読み返したところ、わかりにくい箇所がありました。3行目の「老人の物忘れも……」という引用部分です。この文の前に「しかしどうして医療は呆けに対してかくも無力なのだろうか。それは、呆けもまた病気ではないからである。」とあり、ここから引用した方が理解しやすいと思われます。
なんど読んでもわからないなあと思われた方、どうもすいませんでした。
 
 
 
歩く (m)
2007-05-11 23:22:57
Aさん、こんばんは。
Aさんはまだ若いですから分からないでしょうが、
トシをとってきたことを一番感じるのは
股関節がカタクなってくることです。

50越えて思うのは、80のときにスッキリ歩けて、
自分の歯で好きな煎餅をバキバキと食べていられたら
もういいかなと(80までは生きたいものです)。

きょうは珍しく(年に1回程度)、帰り池袋からでなく、2駅歩いてから電車に乗りました。あっという間に自分ちの駅に着いた気がしました。

なおしさんのお薦め本から離れてしまいましたが、コメントコーナーはなんでもありということで。
お赦しください。 
 
 
 
濃濃紺 ()
2007-05-11 23:44:50
なおしさん、こんばんは。
追加部分、分からないでしょうが黒に近い濃い紺色にしてみました。分かりませんよね

5月1日の石田衣良のとき思いつき、使ったんですが。

コメント載せなくても、
と思われたかもしれませんが
表現にこだわるなおしさんが出ていて
面白いなと思いました。

 
 
 
濃濃紺ですか (小川なおし)
2007-05-12 01:05:44
いやあ、分かりませんでした。拡大してみても分かりませんでした。分かる人はいるのかもしれませんけど。
  
 
 
 
会社のパソコン (m)
2007-05-12 01:19:43
会社のパソコンで、1台だけ見分けつくものがあり、
面白いと遊びました。
深い意図はありません。遊びです
 
 
 
介護。 (古い生徒3。)
2009-11-02 04:38:52
 あ、どうも。こんばんは。介護については最近
いろいろ考えさせられることがあります。

 古い生徒3。の記事にありますが、自分はもう
40。当然親は老人です。幸いにも?70歳にしては
若い感じで今のところ特に問題はないのですが、
いつどうなることやら。自分は独身なので、余計に
気になるところです。本人に面と向かっては
言えませんが、まぁ元気に長生きしていただきたい
ところです。もっとも、お墓探しにも余念は
ありませんが…。

 介護現場の話も聞きます。友人の古い生徒2。が
介護職なので。やはりかなり厳しいようです。

 それにしても、小川さんのお薦め本には興味を
覚えるものが多いです。やはりたくさんの本を
読んでいらっしゃるのでしょうね。見習わないと!
と思います。

 
 
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。