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クリエイト速読スクールブログ
なおしのお薦め本(83)『いわずにおれない』
『いわずにおれない』
まど・みちお著(インタビュー・文/細貝さやか)
童謡「ぞうさん」でお馴染みの詩人へインタビューを数回し、それを元に書き起こした本です。ところどころでインタビュアーの説明や情景描写があるため、まどさんの人となりがよくわかるようになっています。
まずは、「ミミズ」という詩について、引用します。
「私はね、作品にリアリティを出したいっちゅう気持ちが強いんですよ。声やにおいからリアリティを追求する方法もあるけれど、私の場合は視覚的イメージによることが多い。『ミミズ』という詩もそうでした。
どんな生きものも、その生きものらしく生きているわけですが、特にミミズっちゅうのは手も足もなんにもないだけに、ボディ全体であらゆることをやっとるように見える。まるで体が、心そのものみたいに……。ミミズを詠むとしたら、まずどうしたってそのことを言わないとならんという感じがあって、ああいう詩になったんです。」
その詩が、これです。
「 ミミズ
ひとりで
もつれることが できます
ひとりで
もつれてくることが あります
ひとりで
もつれてみることが あります
あんまり
かんたんな ものですから
じぶんが……
で ちきゅうまでが…… 」
「ミミズの場合、自分が非常にシンプルだから、自分をおらしてくれている地球までが簡単なものだと信じてる……と私には思えたわけです。
実際に、ものが存在するっていうことはシンプルなことなんだと思います。ミミズはそれを、身をもっておしえてくれてるみたいなところがありますね。ミミズ自身にそのつもりはないでしょうけど、ありがたいことです(笑)。」
まどさんは、自分の詩についてこう語っています。
「どれもこれも、いまいちなんだよなぁ。私のかいたもので、本当に感動するものがあるかと言ったら、まるきりだと思います。だから、自分の詩集を開くたび、印刷された詩に『あなたのおかげでこんな恥ずかしい思いをしています』と、うらめしげな目で見られているような気がしてね。」
それを謙虚さと受け取ったインタビュアーに対し、まどさんは言います。
「謙虚なんかじゃないですよ。ほんとにダメだからダメだと言ってるだけなんです。
だいたい私はね、いのちの尊さをずっと詩にしていながら、第二次大戦中に二編も戦争協力詩を書いとるんです。しかも、ある方に指摘されるまで、そのことを戦後はすっかり忘れておった。今となっては、当時の子どもたちにお詫びも何もできないから、とにかく人に知らせて罵倒していただこう、糾弾していただこうと、全詩集に戦争詩を載せたんですね。ああいう時代にああいう作品を書いたってことは、私っちゅう人間はいつまたどんなことをするかもわからん。ですから、自分がぐうたらなインチキで時流に流されやすい弱い人間だということを、自戒し続けなくちゃならんのです。
それに、私はすごく謙虚なようなこと言っていても、実際は見せびらかしたり偉ぶったりするのが好きな人間でね。そういう自分を毛嫌いしているにも関わらず、無意識のうちに自分をよく見せようとする。気をつけてないと、きれいごとや偉そうなことを言いかねないんですよ。
『なんでもない』って詩にも書きましたが、なんでもないことを本当になんでもなく書けたらと思います。自分という殻を脱ぎ捨てて、雑念や不純物をいっさい排除し、心ひとつになって……。なんでもなく書いた作品から、心の深ぁいところで思っていることが、やむにやまれずにじみ出るように出たとすれば、どんなにうれしいことか。」
こういう人を罵倒したり糾弾したりできる人が、どこにいるのでしょう。
まどさんにも、インタビュアーにも、脱帽するしかありません。 なおし
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