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なおしのお薦め本(100)『アナタの知らない裏ハローワーク』

 文演第1期生小川なおしさんから、お薦め本が届いています。100冊目です。 

アナタの知らない裏ハローワーク
 
                  青柳 直弥著

 あやしげなタイトル。オレンジの帯に〈裏仕事師たちの肉声を聞け!〉とあります。ただ、売れればいいというやっつけ仕事でないことだけは保証します。では〈まえがき〉からお読みください。

 〈子供を持つ多くの親は、皆自分の子供に向かってこう言う。
 
「もっと、ちゃんとした仕事に就きなさい」
 
ちゃんとした仕事ってなんだろう。
 
確かに、スポーツ新聞の三行広告に掲載されているような仕事は一般から見れば眉をひそめられる対象であり、底辺の仕事に映るのかもしれない。
 
しかし、そういった人たちは何をもってそう思うのか? 内情をよく知りもせずに、「真っ当な仕事じゃないから」なんていうのであれば、ちょっと待ったと言いたい。警官による不祥事、教師によるセクハラ、企業や役人の悪行三昧…もはや真っ当な仕事と、そうじゃない仕事のボーダーラインなんてものはあってないに等しい時代だ。一般求人誌に載らないから真っ当な仕事じゃないというのは時代錯誤な偏見である。
 
とはいえ、本書で紹介している職業の中にはヤミ金融業者や産廃業者など、言い訳の余地なく違法であり、糾弾されるべき対象のものもあるだろう。確かにそれらの仕事を決して肯定はできない。しかし、「勝ち組、負け組」にたとえれば、涙を流す人間の裏では、笑う人間がいるのが世の常。世の中には、「追う側と追われる側」、「売る側と買わされる側」、「騙す側と騙される側」、「頼む側と頼まれる側」、「見る側と見られる側」がいる、ということだけの話なのだ。
 
白でもなく黒でもない中間領域のことをグレーゾーンという。
 
ギリギリの、少しヤバい、表と裏の中間辺り、本書でスポットを当てたのはそういった仕事を生業とする人々である。ある者は腕で、ある者は頭で、ある者は言葉で…グレーゾーンを狡猾に生き抜く彼らの言葉から、これらの仕事のカラクリを知るとともに、「こんな生き方もあるんだ!」と知って頂ければ幸いである。〉

 では、物干し竿売りのお話をどうぞ。

 〈ある意味で撒き餌ともいえる「2本で1000円」の誘い文句に引っかかって、庭先に飛び出してきたお母さんたちに対して、いかに高く竿を売り付けるかが彼らの勝負。人によってそのやり方は異なるそうだが、例えば佐伯氏の場合はこうだ。
 
佐伯「基本的には『2本で1000円』って言うのを聞いて、『竿ください』って来るじゃない? 来たら、色々聞いてくるよね、『いくらなの?』とか。そういうのは全部、聞こえないフリ。シカトして、『お母さん、ベランダどこ、ベランダ?』って言いながら、とりあえずベランダに行くワケ。で、『どれが錆びてんの?』って聞く。その間も、基本的に質問には答えないんだよね。向こうも、どっちにしろダメになった竿があるから呼んでるわけじゃない? だから、まずその錆びてる竿を『ああ、コレもう使えないから、捨てるのに困るでしょ? じゃあ、持ってってあげるね』って言って、その場で折っちゃう。バキッて(笑)」
 
━━折っちゃうんですか!(笑)
 
佐伯「で、それをまず軽トラに載せちゃうの。他の竿も見て、錆びてそうなヤツがあれば、『コレももうすぐダメになっちゃうから、もう安いからまとめて替えちゃえば?』って言うのね。その場合は、お母さんもまだ2本で1000円ぐらいだと思ってるから、『ああ、そうね』って言っちゃうワケ。だから、その場でまたバキッて折って全部軽トラに入れちゃう。そうやって何も言わずに、アルミの一番高い竿を並べて、全部セッティングし終わった段階で、『いくら?』って聞かれたら、そこで『えーっと1本1万5000円だから、4本で…6万円だねー』とか言って(笑)」
 
━━詐欺ですね~。
 
佐伯「そうするとみんな、『え? 6万円もすんの? じゃあいらない、いらない』みたいなコト言うんですよ」
 
━━そりゃ、そうでしょう(笑)。
 
佐伯「そこで『これはアルミの竿だから錆びたりしないし、これ買っておけば一生大丈夫だから』って話をするんですよ。それでも向こうは、『高い』って言いますよね。そしたら、『だってコレ、ホームセンターでいくらで売ってるか知ってる? 東急ハンズで1万6800円で売ってんだよ』って」
 
━━ホントなんですか?
 
佐伯「いや、嘘なんだけど(笑)でも、それ自体は売ってないよね、同じ竿は。大体、ホームセンターで売ってるのって、持って帰れないから、伸び縮みするような竿しか売ってないんですよ。一本物は売ってないワケ。伸び縮みするヤツは安くは売ってるんだけど、あそこから水が入ってすぐダメになるし」
 
━━ホントは、そんなコトないんでしょ?
 
佐伯「いや、それは結構ホントなんですよ。だからその辺りを引き合いに出して攻めるんだけど、それでも高いから、いらないって言うじゃない? 『じゃあ、分かった』と。『もし、4本まとめて買ってくれるんだったら、1本、1万2800円にしてあげるよ』みたいなカンジで持ってくワケ」 〉

 このように、驚くべき話が本人の口から語られます。あまりにとんでもない話なのですが、私が知人から聞いた話と似ています。聞えないフリをしてサッサと竿を運び、値段を聞いて断ったらすごまれた、ということです。
 
さて、それでも「二本で1000円」の誘い文句がまるっきり嘘かと言うと、そうでもないようです。続きをどうぞ。 

 〈佐伯「……で、『2本で1000円って言ってたじゃない? その竿ないの?』って言うじゃない? 『いや、あるけどさ~』って言って、軽トラのとこ行ってビューって出すと、2本で1000円の竿って1本しか積んでないんだけど、こんな細いんだよね(小指を立てながら)。なんか、あさがおとか巻くような、ああいうヤツ。それの長いヤツ。
 
━━物干せないじゃん(笑)。
 
〈佐伯「『2本で1000円でいいけど、コレだよ。しかも、さっき売れちゃってもう1本しかないし、セットじゃないと売れないから、売れない』って。もちろん最初っから1本しか入ってないんだけど」
 
━━ひどい話だ(笑)。〉

 ここで思い出したのが、つい最近まで同居していた山崎さんの話です。
 
私が「物干し竿売りの「2本で1000円」ってインチキらしいよ」と言ったところ、「私も買ったことがあるよ。ちゃんとした竿だったよ。軽くていいんだ。普通の竿は太くて重いからイヤだね」と答えていました。
 
確かに、外の物干し台には、細い物干し竿が一本かかっています。それも、みょうに長くて、少したわんでいます。このおばちゃんにかかっては、物干し竿売りもバカ負けだったようです。というか、普通の商売をさせられてしまった、ということですね。
 
そういう諸々の話を総合すると、この本の内容は信憑性が高いと言えます。おすすめです。

コメント ( 10 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
差し替え (小川)
2010-03-11 00:59:32
松田さん、こんばんは。

記事が差し替えになっていますね。驚きました。

前に送ったコメントは抗議ではありません。あのままでも良かったですよ。せっかく新たな人のコメントもついていたことだし。

それから、気づかなかったのですが、ちょうど100冊目でしたか。記念の100冊目にこんな奇天烈な本とは、いやはやなんとも。一ヶ月もかかって、やっと見つけた本なんですけどねえ。

ではまた。
 
 
 
百眼 (m)
2010-03-11 01:43:44
小川さん、こんばんは。

ちょっと早合点がありまして、
1時間ほどごちょごちょしてしまいました。

基本的に「抗議」は受けつけないのですが、
その分、つねにこちら側で、注意して書かねばとは考えています。

山崎さんには、リンクする余裕がなく文字の色だけ変更しました。というか、変更できました。

100冊目! おめでとうございます! 
小川さんの眼の多様性というか、複眼ならぬ百眼という感じでナイス(古いか―)です。
小川さんの目を通せば、なんでもアリの気持ちでいます。これからもよろしくお願いします。
 
 
 
おめでとうございます! (空猫)
2010-03-12 05:36:50
祝、100冊目!! おめでとうございます!

物干し竿売りの話、文句なしでおもしろかったです。
以前、「なぜ竿竹屋はつぶれないのか」という本もありましたね(私は読んでないのですが)。それとはちょっと違うみたい。

前編通じてこの調子なら、読み応えありそうですね。
これは読む価値ありそうです。

それにしても、まえがきの胡散臭さというか、支離滅裂さというか、滅茶苦茶な感じ……(と感じたのは私だけなのでしょうか)
最初っから「真面目に読んじゃいけませんよ」とでも言われているかのような。それはそれで巧みですが、わざと真面目っぽく書く意味、グレーゾーンに生きる人々を面白くご紹介路線じゃいけなかった理由が多少気になります(笑)

それにも増して小川さんの実話が面白かった!
山崎さんすてきですね~
 
 
 
余計な話なんですが。 (空猫)
2010-03-12 05:43:37
今日は傘のマークないんですね。

もう数日で終わりなので書かせていただこうと思いますが、私の中の小川なおしさんのイメージって、本を小脇に抱えた袴姿の書生さんなんです。
普段は立ち姿なんですが、たまに青いこうもり傘さして、アジサイと会話してたりします。
(花押のイメージが強いんですねきっと……)

ご本人が聞いたらズッコケちゃうようなイメージなんですが(すみません)、こんなやめてくれと懇願されても払拭できないイメージがある一方で、毎回努力しているイメージ記憶のスコアが下がっていくのはなぜかなと悲しくなる今日この頃です……
 
 
 
ここでサイン (m)
2010-03-12 13:44:41
空猫さん、こんにちは。

今回は、文字数が多く「花押(サイン)」さえ打てなかったのであります。赤文にも。著者にリンクも……。

「たまに青いこうもり傘さして、アジサイと会話してたりします」はイメージ記憶の極意です。笑えますもん。

「毎回努力しているイメージ記憶のスコアが下がっていくのはなぜか」は、↑な奇妙奇天烈なイメージできるわけですから、イメージ能力に問題はなく、「イメージ記憶」に飽きているんだと思います。集中して取り組めないキモチがあるのではないでしょうか。
55回終了してから、半年後にでも、「本」とかで遊び半分にでもトライしてみるといいですよ。あら不思議、よくデキルじゃない私、となっているはずです。

なおしさんもこんなよき理解者を得てよかったよかったという思いです。  なおし
 
 
 
アジサイと会話 (小川)
2010-03-13 01:42:47
松田さん、こんばんは。さむいですね。

空猫さんのイメージとは違い、アジサイと会話はしていないのですけれど、植物と会話できるような人間にはなりたいです。

私の部屋には、山崎さんの置き土産の幸福の木があるのですが、主がいなくなってから枯れ始めました。部屋の温度のせいなのか、はたまた気のせいなのか。
山崎さんは幸福の木に挨拶をしていました。「言葉をかけてやると元気になるんだよ。おもしろいもんだね」と言っていたのを思い出しました。
いま、茶色くなった葉先をハサミで切り取りながら、なんとか持ちこたえてくれないものかと思っています。

ではまた。
 
 
 
申し訳ないです。 (空猫)
2010-03-13 07:52:44
小川さん、勝手にイメージしてすみません。
松田さん、傘マーク沢山ありがとうございました。

ところで、松田さんのアドバイスを考え考え、今朝も地道にトレーニングしてみたのですが、なんと、落ち込む前のスコアに戻りました!
うっそー!!

飽きているというほどではない、というか、ある時から書き出しが虫食いだらけで思い出せないという状態に陥り、そこからイメージ記憶苦手意識が増幅していたんですね。それは認めます。

それにしても、こんなに簡単にあっさり解決できるものなんだーとびっくりです。(次も今日のようにできるかはわかりませんが)
愚痴を聞いてくださってありがとうございました。

小川さん、山崎さんって不思議な方ですね。
そしてとっても素敵な方ですね!
みなさんが愛情をこめて山崎さんの話をなさる気持ちが、だんだんわかってきました。
植物に話しかけると元気になる話はよく聞きますが、この間テレビで、水も好意的な言葉をかけてやると腐るのが遅いそうで、驚きました。
森羅万象が自らの肯定を求めているんですね。
 
 
 
錯覚 (m)
2010-03-13 08:04:00
空猫さん、おはようございます。

3/12の「おめでとうございます! (空猫)」は、錯覚でアップするのを忘れていました。
スミマセンーー絵文字も使ってスミマセンーー。

錯覚とは何ぞや!? とは問い詰めないでくださいませ。

イメージ記憶、まだまだいけそうですね
 
 
 
わざわざすみません (空猫)
2010-03-15 04:46:38
今日やったら、またダメでした。
(今日は他も全部スコア下がってましたが)
あまり気にしすぎるのもよくないみたいです。
忘れた頃に期待をかけます~(笑)
 
 
 
削除。 (古い生徒3。)
2010-11-12 00:14:48
 あ、どうも。たくさんのコメントでいい感じのところ
申し訳ございません。

 30~31行目「本書でスポットと当てたのは」は
「スポットを」となるのだと思います。

 毎度つまらないことですみません。このコメントは
適当に削除してください。

 今夜はこのへんで。おやすみなさい。
 
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