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クリエイト速読スクールブログ
なおしのお薦め本(8)五体不満足a
小川なおしさんから、お薦め本が届いています。
1998年に出版されたベストセラーなのですが、今まで読んでいませんでした。吉田豪氏と著者の対談文をつい最近読んで、やっと読む気になりました。
これから、どうしてもこれだけは読んでいただきたい、という三つの話を引用します。
まず、大学時代の講演活動でのひとコマ。
「東京都・西多摩郡の中学校。子どもたちからの質問が予想以上に多く、時間内では全員の質問を聞くことがむずかしくなってきた。そこで、先生は『そろそろ時間になってしまいました。そこで、乙武さんに、どうしてもこれだけは聞いておきたいということがあったら、最後に聞いてみましょう』とまとめた。
グルッと会場を見まわすと、ひとりの男の子が手を挙げている。
『ハイ、じゃあ岩崎君』
『……あのー』
『どうしたの? 岩崎君のどうしても聞いておきたい質問を、乙武さんにしてごらん』
『ドリフターズでいちばん好きなのは誰ですか』
先生のマイクを持つ手は震えていた」
こんな小ネタが入っているとは。恐れ入りましたとしか言いようがありません。
次に、予備校時代の話。少し長いのですが、要約しない方が空気感が伝わるのではないかと思います。
「ボクの通っていた予備校は、新宿区・大久保にあった。大久保といえば、多国籍の街。自習室で勉強して帰りが遅くなると、街の様子は一変する。日本語が聞こえてこなくなり、代わりにアジア系男性のケンカのように聞こえる会話が耳に飛び込んでくる。その一方、片言の日本語で、男性を甘い誘惑に陥れる人々がいる。外国人女性たちだ。出身地は、アジア、南米などさまざまらしい。そして、彼女たちは、ある時間帯を過ぎると通りにたむろし始めるのだ。
ある冬の日のことだった。小雨の降りしきるなか、ボクは自習室での勉強を終え、家に向かっていた。傘を差すのは面倒くさいので、雨に濡れたまま車椅子を走らせる。しかし、その途中、寒くて仕方がなくなり、あたたかいコーヒーでも飲もうかと、自動販売機の前に車椅子を停めた。しかし、その後のことまで考えていなかった。ボクひとりでは、財布からお金を出すことも、商品を取り出すこともできないのだ。さて、困った。
そこへ、熱心に仕事(男性に声を掛ける)に励んでいた外国人女性のひとりが、ボクに近付いてきた。
『◇※☆¥◎▽※&♯△』
話しかけられたのだが、何を言っているのだか分からない。どうやら英語ではないようだ。ボクは、試しに『とても寒いので、このコーヒーが飲みたい』旨を英語で伝えてみたが、やはり通じないようだった。
しかし、彼女はボクの視線と、止まらない震えによって意図を理解してくれた。おもむろにジーンズのポケットから小銭を取り出すと、『どれが飲みたいの?』といったふうに自動販売機を指差した。ボクは、『ノー、ノー』と首を横に振った。お金は自分で持っているので、何も彼女のお金で買ってもらうつもりはなかったのだ。彼女は、怪訝な顔をして、こちらを見つめている。
しかし、英語の分からない彼女に『ボクのズボンのポケットからお財布を出して、代わりに買ってくれ』と伝えることは不可能だ。この場は仕方なく、ご馳走になることにした。
『ゴロゴロ、ガッシャン』
勢いのいい音を立て、待ちに待ったコーヒーが落ちてきた。
『プシッ』
彼女はプルタブを引き抜き、ボクに渡してくれた。気配りのできる、親切な女性だ。何か話さなければ、とも思ったが、お互いの分かる言語がない。ふたりは、無言のままコーヒーを飲み続けた。だが、彼女は、その間も絶えず笑顔のままだった。『ロン毛』の車椅子と外国人女性。不思議なふたりだっただろう。
その後も、予備校からの帰りが遅くなると、何度か彼女と遭遇した。会うたびに、彼女は日本語が上手になっており、自分はミレーナだと名乗った。また、何度目かに会ったある日、10ケタの数字が乱雑に書かれている紙切れを渡された。そして、自分の携帯電話を取り出し、盛んに指差している。どうやら、いつでも電話しろということらしい。だが、ほどなくして、彼女の姿を見かけることはなくなった。
大久保の外国人女性との接点は、ミレーナだけではなかった。ある日、予備校へ向かう途中、アジア系の女性に呼び止められた。何だろうと思って振り返ると、彼女は自分のバッグを漁っている。そして、そのなかから数千円を取り出すと、ボクに差し出すではないか。ボクは、『ノー、ノー』と首を横に振ったが、彼女はボクのポケットにお札をねじ込むと、そのまま走っていってしまった。あっという間の出来事だった。
このような形で日本に働きに来ている外国人女性の多くは、自国に病気や障害を持った子を抱えているケースが少なくなく、その子の治療費を稼ぐために日本へやって来ていると聞いたことがある。そのため、ボクのような障害者を見ると放っておけないのかもしれない」
自分の知識や想像力の及ばないことが、たくさん世の中にはあるのだと思いました。人にはそれぞれ事情があるのでしょうけれども、それを声高に語る人なんてまずいないですから。
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