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ことばといのち

 2月21日木曜日、毎日新聞朝刊に全面12ページの企画特集なる別刷り新聞が入っていました。

 新聞に折り込まれた広告物のたぐいは、いつからか、まったく見ないようになっていましたが、その日のは、別刷りの表紙がドデカイ顔をした大沢在昌だったのでつい開いてしまいました。

 「毎日新聞社は21日に創刊136年を迎えた。これまで、この記念日にあたり「次世代へのメッセージ」をさまざまな角度からお届けしてきたが、今回は「ことばといのち」をテーマに、言葉の大切さを読者に伝えたい。パートナーとして、設立60周年を迎えた日本推理作家協会(大沢在昌理事長)の協力を仰いだ。日本を代表するベストセラー作家10人にインタビューをお願いし、「次世代へのメッセージ」をテーマに「大切にしている言葉」を聞かせていただいた。それぞれの作家の人生が凝縮された、含蓄に富む言葉の数々を紹介する

 として、1面の大沢在昌から順に、石田衣良逢坂剛北方謙三、 小池真理子楡周平東野圭吾福井晴敏宮部みゆき唯川恵がインタビューされていました。

 その中で、こちらがとくにおもしろく読んだ石田衣良と北方謙三の2人の発言を残します。  


 

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 みんなと違っていることは怖くない 

                      石田 衣良 

 〈誰かが自分を捨てて心から話す言葉には力があるのだとぼくは理解した〉

 石田さんの直木賞の受賞作『4TEEN』の一節。親友の言葉が1人の少女の心を動かした瞬間、中学2年生の「ぼく」はそう実感する。

 「言葉は身を飾るためにも使えるけど、裸になるためにも使える。使い方次第で何にでもなるんです。その多様さが言葉のすごいところだと思います」と石田さんは言う。

 白を基調としたスタイリッシュな仕事場。本棚の一角に無造作に置かれたノートにはみずから選び抜いた言葉が並ぶ。若いころに読んだ本の一節、選集の中から俳句を筆ペンで書き写したものなど数十冊に上る。

 その中でも座右の銘とするようなひときわ大切な言葉があるのだろうか。その問いには、「何かひとつの言葉を大事に持って生きるのって、なんかよくないんじゃないかなあ」と意外な答えが。「ひとつの方向に偏ってしまう気がするんです。それよりも、一滴の水がたくさんしたたると石に穴が開くように、いい言葉に常に打たれている状態が理想だと思う。そうすればずっと心がさびつかずにいられる」

 言葉へのこだわりゆえに、現在の日本で言葉を取り巻く状況には強い危機感を持つ。とりわけ、昨年流行語にもなった「KY(空気を読めない)」ことを極度に嫌う風潮を危惧している。言葉を積み上げて議論し共感を得るのではなく、人物や状況をひと言でまとめて表現し、その感覚を共有しあう現代。「『それやばくない?』とか『イケてないよね?』というように、その場の空気だけを伝えることが多くなったように感じます。就職活動などでコミュニケーション能力や場を読む力ばかりが強調されている。その半面、経験や思想に基づいた、芯になる言葉は弱くなっているのではないでしょうか」。そこに、ほんのささいな空気の変化が一気に嵐になるような恐怖を感じるという。

 他人に自分の考えや思いを伝えるコミュニケーションの道具としての言葉。しかしそれ以外の機能を活用することが、石田さんを成長させ、その表現に磨きをかけてきた。それが「自分自身を見つめ、知るための言葉」だ。頻繁に職場を変えていた20代のころ、将来への不安や葛藤をつづっていたという。ノートを埋めていく言葉によって、それまでぼんやりしとしてあいまいだった感情が整理されたり、自覚していなかった問題点に気づかされたりすることもある。

 「言葉にはものすごく強力な分析能力があるから、うまく使えば武器になる。空気を読んで周りに合わせるのではなく、本を読んだり自分で考えたりする時間を大切にしてほしい。1人でいること、みんなと違っていることは怖くなんてないんですから」【手塚さや香】



 

 耐えていれば見えてくるものがある 

                       北方 謙三 

 ハードボイルド小説や「楊令伝」などの大作が人気の北方さん。実質的なエンターテインメント・デビュー作「弔鐘はるかなり」(81年)が注目されるまで、10年間作品がボツになり続けた経験がある。大切にしているのは、「男は10年、同じ場所でじっと辛抱」という父の言葉だ。

 「父から『男は10年』と聞いた時は、その言葉にどんなリアリティーも感じられませんでした。大学を出て、書く世界に飛び込もうとする私にみんな『やめろ』といいましたから。父が一番『やめろ』と言いそうだったのに。ところが10年耐えてみて、そういうことなのか、本当だったなとしみじみ感じた。挫折すればするほど何か獲得するものがある。耐えていれば、見えてくるもの、開けてくるものがある

 挫折の10年をへて、作家としてやっていける手応えをつかむ。「もうこのまま立ったまま、絶対に座り込むのはやめよう」と自分に言い聞かせたという。怒濤のような執筆が始まる。ハードボイルド小説の第一人者になったとたん、歴史小説に進出。近年は「水滸伝」など中国の古典に材をとった大作を次々に生み出している。

 「大家」の椅子に安住することなく新境地を目指す北方さんの原動力は、やはり父の言葉「道を選ぶ時は、厳しそうな道をゆけ」である。

 「立ち止まると見える風景が同じなんです。歩け、歩け、どっちでもいいから、とりあえず歩け、道が二つあったら険しい道を選べ、ということです。いまでも僕はそうしている。歴史小説をちゃんと書けるようになったら、今度は中国史の小説を書く。難しいが喜びも大きい」

 歴史小説を書き始めた北方さんにとって「司馬遼太郎は巨大な山だった」という。説明や解説を作中に導入する司馬一流の手法が読者に広く受け入れられていた。北方さんら後進の作家は司馬以外の方法でいかに書くかという難問に直面したのだ。

 北方さんがつくりだしたのは、説明や解釈を一切書かずに描写でつないでいく方法である。例えば、底を丸く削っている船を書く。水に対する抵抗が少ないことがわかり、ひいては、船の速度を増す必要のあった当時の政治状況までも浮き彫りにする。「納得のいく方法を見つけることができた」と振り返る。

 「挫折はした方がいい」と北方さんはいう。「挫折の深さはいろいろだろうけど、若い時の挫折はいくらでも立ち上がることができる。夢を目指す過程でどれくらい一生懸命になったかということが一番大切だと思います」【米本浩二】

 

 

 

コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
感動。 (古い生徒3。)
2010-01-22 23:53:32
 あ、どうも。この記事は胸に迫るものが
ありました。ちょっと感動しました。

 座右の銘と言われると、無意識にいいものと
思いがちです。でもそうとは言い切れないんですね。
いつもいい言葉に打たれていたいなんて、今まで
考えたこともなかったです。身の周りのいい言葉を
逃さないよう、常にアンテナを張っていたいです。

 本を読む・自分で考えるということ、大事に
したいです。1人でいることや人と違うことを、
いいんだよ、それでも、と思っていただけるだけでも
勇気が湧くものです。

 耐えること・辛抱、これもなかなか簡単なことでは
ありません。口で言うのは簡単ですけど。

 逃げずに前へ。忘れてはいけませんね。自分は
まだまだです。がんばるぞ!

 おやすみなさい。
 
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