【橋川文三の文学精神】 第1回 内容目次@本文リンク
一 文学精神とは何か
この評論は、昭和期を「独学者」として生きた橋川文三(一九二二~一九八三)の、時代に対峙する「文学精神」に注目し、その解明の糸口を見い出さんと試みるものである。「文学精神」という言葉の意味については、ここでは岡山麻子が『竹内好の文学精神』で定義したそのままを踏まえて使うこととする。
「本書(=『竹内好の文学精神』、引用者注)は、竹内が生涯に取り組んだテーマの多様さにも拘らず、その基底には、時代を規定する根源的な価値を転倒させるという、時代との関わり方をめぐる発想が、思想的核心として貫徹していると考える立場に立っている。そして、竹内の思想的核心である時代との関わり方を『文学精神』 と呼び、その形成から成立・展開に至る過程を解明することを課題とし、そのために竹内の文章の論理を内在的に読み解く方法を取ろうとするものである。」
この書の「はじめに」で文学精神をこのように定義した岡山麻子は、「あとがき」ではさらに文学精神の概念の定義を拡張して、次のように述べている。
「竹内が生涯の様々の場面で求めた『文学』――北京で求めた文学者としての矜持、戦時下の主著で求めた文学者魯迅の像、戦後提起した国民文学――はいずれも、詩や小説といった『作品』のかたちで実現すると限るものではない。それは作品のかたちをとるか否かを問わず、最も根源的な価値の次元から言葉を積み直すことによって、自らの目に映る世界を表現しようとする精神態度の問題なのである。従って、それは、教義の文学の枠組を超えている。つまり、文学を作品という実体において考えるのではなく、根源的な価値に触れようとする精神態度として捉え直すことが必要となる。」
文学の意義をこのような観点において捉え直すとき、橋川文三が竹内好から継承し発展させたものが、岡山麻子が云うところの「文学精神」であったことを明白な事実として証明しようとするのが、この小論の目指す着地点である。
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■著者より
●「橋川文三の文学精神」は本日6月14日より28日まで連載。15回で完結します。
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●資料;岡山麻子「 竹内好の文学精神と思考方法」⇒PDFをダウンロードする
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