かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 104

2020-10-04 18:04:22 | 短歌の鑑賞
    渡辺松男研究12【愁嘆声】(14年2月)まとめ
       『寒気氾濫』(1997年)44頁~
       参加者:渡部慧子、鹿取未放、鈴木良明(紙上参加)
        レポーター:渡部慧子 司会と記録:鹿取 未放
       

104  三十五万回「狂」という字を思いみよ入院者三十五万人の「狂」

        (レポート)
 いきなりの「三十五万」にとまどったが、これはおそらく行政単位の人口のように思う。「三十五万『狂』という字を思いみよ」とは、そのことごとくの精神や暮らしぶりを思い、寄り添ってみよというのであろう。「思いみよ」となげかけたものを、「入院者三十五万人の『狂』」と下の句では作者のふところに回収しているように思う。入院患者とはせず患を省いているのは、時数の都合ではなかろう。正と狂の境は何であろうか。(慧子)

        (意見)
 数は大きくとも小さくとも、その数値自体はなかなか実感しにくい。そこで現実に存在するものとの比較でその大きさを実感する方法が用いられる。たとえば、あるものの大きさを実感するために、その隣に「たばこの箱」を置いてみるなどである。本歌では、入院者三十五万人の「狂」を実感するために、「狂という字」を思ってみよ、というのである。「狂」という字を三十五万回も。ただただ、圧倒されるが、そもそもこの数字は何なのだろう。最近の障害者白書(平成23年版)によれば、全国で精神疾患患者数約三二三万人、そのうちの10.3%が入院者数とのことであるから、本歌の数に近い。(鈴木)

       (発言)
★私はわりとこの歌は分かりやすかったです。どこかで精神疾患による入院患者数の統計を
 見ましたが、毎年34万から35万の数で推移しているんですね。そして鈴木さんも書い
 ているように35万という数だけ言っても実感できないので、ひとりひとりの病んでいる
 人の顔は見えないんだけど、苦しんでいる人がいるんだよと、35万回「狂」という字を
 思い浮かべてみてください、って言っているのよね。そうしてもまあ届かないんだけどね。
  (鹿取)
★「思いみよ」と命令形で言っていますけど、別に他人に命令している訳ではなく、自戒かもし
 れないですね。あんまり実生活に照らし合わせて考えたくないですが、公表されている作者の
 年譜によると25歳で精神病院に通い始めたとあるし、そういう病院関係の仕事もされていた
 ようなので、精神を病んで苦しんでいる人を見ての実感なんだと思います。私も身近に心を病
 む人がいるので、その苦しみが分からないもどかしさをいつも感じていて、この歌はわりとす
 っと心に入ってきます。(鹿取)
★そういうことなのですか。やっと分かりました。(慧子)

コメント
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