かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 408

2025-02-25 09:25:03 | 短歌の鑑賞

  2025年度版 渡辺松男研究49(2017年5月実施)
     『寒気氾濫』(1997年)【睫はうごく】P164~
      参加者:泉真帆、T・S、曽我亮子、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
        レポーター:泉 真帆               司会と記録:鹿取未放 
 

408 地球から遠ざかりゆく月の面君のおでこのようにかがやく 
    
       (レポート)
 この歌集もいよいよ巻末にきた。そこで今一度、あとがきの冒頭にある作者の「こころ」に思いをよせて鑑賞してみたい。               
 「言葉はそれだけで自律した世界にあるが、同時に言葉を生みだしているのはこころである。言葉がなければこころはないのかもしれないが、こころがなければ言葉なはい。そして私はすこしだけこころの方に重点をおいている。そういう素朴な位置に立っているのだ。」(『寒気氾濫』あとがきp.168より引用)
 額にみえるのだから上弦の月だろうか。宵に現れた月も日没頃には空の真上にのぼり深夜には見えなくなる。地球から遠ざかってゆく月を寂びしみながらも、作者は愛しいひとを思い浮かべたのだろう。「君のおでこのようにかががやく」とユーモアたっぷりに言いながら輝いているのは君に恋する作者の心なのだろう。月の引力にひっぱられて海が膨らむように、なんだか君のおでこも膨らみをおびて輝いているようだ。「君のおでこ」が抜群に効いている一首だ。     (真帆)
 

         (当日発言)
★君のおでこに例えているのが近づいてくる月ではなく遠ざかっていく月であるところがいいなあと思いました。    (慧子)

★そうですね、近づいてくるのだとあまりにモロですが、遠ざかっていく月に微妙なニュアンスが出ていますよね。また遠ざかるのが「山の端」等で無く地球であるところが甘さを抑えて即物的にしているし、おでこのおかしみも小さいところに落とさない効果があると思います。(鹿取)

コメント
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