かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

馬場あき子の外国詠 98 スペイン④

2024-09-20 21:27:40 | 短歌の鑑賞
2024年度版馬場あき子の外国詠11(2008年9月)
    【西班牙3オリーブ】『青い夜のことば』(1999年刊)P58~
     参加者:F・I、N・I、T・K、N・S、崎尾廣子、T・S、
       藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:渡部慧子 まとめ:鹿取未放


98 ほつといてくれとばかりに樹なければ煙突に巣づくれり鸛

      (レポート)
 かつて伝統的農法は野生動物とよいバランスを保っていたが、スペインでも近代化の為の自然破壊がすすんでいるようだ。ヨーロッパの伝説・童話によく登場する鸛だが樹木が少なくなったのか木のてっぺんに巣を作る習性から煙突を代用しているらしい。そこを「ほつといてくれとばかりに」と作者のユーモアと少々強気な部分がのぞく。
  (慧子)


      (まとめ)
 樹木がないのでやむなく煙突に巣を作っている鸛の哀れさを、初句の俗語が和らげている。その俗語の効果で明るい応援歌になった。(鹿取)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

馬場あき子の外国詠 97 スペイン④

2024-09-19 19:34:51 | 短歌の鑑賞
2024年度版馬場あき子の外国詠11(2008年9月)
    【西班牙3オリーブ】『青い夜のことば』(1999年刊)P58~
     参加者:F・I、N・I、T・K、N・S、崎尾廣子、T・S、
       藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:渡部慧子 まとめ:鹿取未放


97 突兀たる巍々(ぎぎ)たるそしてふくらなる山越えて群翔しくる鸛(こふのとり)

      (レポート)
 「突兀」は(岩、山などがつきでているさま)、「巍々」は(高く大きいさま)、「そしてふくらなる山」と写生されている大地。その大地にあるスペインは、ヨーロッパ・アフリカを往来する渡り鳥の通り道になっている為、鳥類がきわめて豊かである。「群翔しくる」と詠いながら、山河もろとも大きくとらえて、爽快な一首だ。(慧子)


     (まとめ)
 現代ではあまり使われない「突兀たる」「巍々たる」という漢文調の描写が、文字づらも厳めしく、険しい山の姿を読者にイメージさせてくれる。その上「ふくらなる」ときて、険しいだけではないやさしいなだらかな山容もあるところが楽しい。険しく厳しいばかりの山容では渡ってくる鸛の表情もけわしいものになるが、彼らは「ふくらなる」山の上をも飛んでくるのだ。そのあたりが馬場の鸛への優しさなのだろう。日本では日常見慣れない鸛が群れをなして飛翔してくるイメージが珍しくたのしい。(鹿取)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

馬場あき子の外国詠 96 スペイン④

2024-09-18 08:28:36 | 短歌の鑑賞
2024年度版 馬場あき子の外国詠11(2008年9月)
    【西班牙3オリーブ】『青い夜のことば』(1999年刊)P58~
    参加者:F・I、N・I、T・K、N・S、崎尾廣子、T・S、
       藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:渡部慧子 まとめ:鹿取未放


96 ユーカリの鬱たる汚れの辺に群れて葦は考へるちから捨てたり

      (レポート)
 アンダルシアなどスペイン南部大規模農園は非効率的農業の象徴であったが、近代農業へ移行されている。しかし保守的気質、資本投入不足、乾燥した荒々しい気候の影響などの諸条件で、その生産性はヨーロッパ基準からすれば低レベルである。そういう状態を「ユーカリの鬱たる汚れ」に託していよう。そして「辺に群れて葦は考へるちから捨てたり」と続くのだが、「葦」とはパスカルの言う人間だ。その人間へ前述の状況下で個人としての輝きを失い「群れて」「考へるちから捨てたり」と作者の見解を示している。しかし旅先の人々を「葦」に託し、寓言めいた表現をしているのは一旅行者としてあからさまな言挙げをつつしんだのであろう。(慧子)


        (当日発言)
★下の句は字義通りではないか。(崎尾)


         (まとめ)
 葦は当然パスカルの「考える葦」なのだけれど、葦を人間ととると、土地の農民たちが、収穫も思うようにならない汚れたユーカリの木の辺りに無気力に群れているということか。作者独特の「ちから」の語を用いているが、ここではそれが発揮できない状況で、為す術もない人々をうたっているのだろうか。この解釈はなんだか土地の人を蔑しているようで、あまりしっくりしない。また、こういう解釈をすると直前の歌〈アンダルシアのユーカリは汚れし手を垂れて泣けてくるやうなやさしさにじます〉のやさしさ、3首前の歌〈乾大地赫ければ半裸かがやかせオリーブ植うる南へ南へ〉の逞しさなど一連の中で見るとき、どうもこの歌だけが異質な感じになる。だから、ここは植物の葦を人間に例えているととることにする。葦はふつう湿地に生えるものなので乾燥地のユーカリの木の周りに生えていたかどうか気になるところだが、ユーカリの周りに群生している葦たちも弱り切って考える力も失い、萎れきっているというのだろう。
  (鹿取)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

馬場あき子の外国詠 95 スペイン④

2024-09-17 08:37:45 | 短歌の鑑賞
2024年度版馬場あき子の外国詠11(2008年9月)
    【西班牙3オリーブ】『青い夜のことば』(1999年刊)P58~
    参加者:F・I、N・I、T・K、N・S、崎尾廣子、T・S、
       藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:渡部慧子 まとめ:鹿取未放


95 アンダルシアのユーカリは汚れし手を垂れて泣けてくるやうなやさしさにじます

    (レポート)(慧子)
 サハラ砂漠から季節風が吹き、雨量の少ない地であるから「ユーカリは汚れし」は想像できる。「泣けてくるやうなやさしさにじます」と詠っているのは、対象に距離を置かない作者の心の表白であろう。


      (当日発言)
★馬場は動物にも植物にも人間のようなシンパシーを持つ人なので、この歌もユーカリ
 に対して人間のようにゆかしさを感じているのでしょう。(鹿取)


    (まとめ)
 ユーカリの木は六年で成木になるそうだ。1メートルの成木もあるが、高いものでは100メートルにも育つという。多くの種類があるが、ここでは柳の葉に似た細長い葉を垂れる種類なのだろう。乾燥地にあって水分不足で葉が垂れているのかもしれないし、土埃で汚れているのであろう。
 下の句は八・八とたっぷりにうたわれて、こちらの情を誘い込むようだ。「やさしさにじます」の主語はユーカリの木であろう。(鹿取)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

馬場あき子の外国詠 94 スペイン④

2024-09-16 15:20:26 | 短歌の鑑賞
※スペイン詠草 続きは白USBの馬場の歌にあり 


2024年度版馬場あき子の外国詠11(2008年9月)
    【西班牙3オリーブ】『青い夜のことば』(1999年刊)P58~
    参加者:F・I、N・I、T・K、N・S、崎尾廣子、T・S、
       藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:渡部慧子 まとめ:鹿取未放



94 万の起伏の変化に沿ひてオリーブの畑うねり出すアンダルシアより

      (レポート)
 アンダルシアはスペイン南端部の地方で、アメリア、カディス、コルトバ、グラナダ、ハヘン、ウエルバ、セビリヤ、マラガの八県からなる。農業、商業、文化いずれも発展し、高度な都市文化を築いた。その遺産としてグラナダ、コルドバ、アルハンブラ宮殿などよく知られている。(慧子)


     (当日発言)
★「うねり出す」がこの歌の力(崎尾)
★結句の倒置が活きている(藤本)


    (まとめ)
 整然とオリーブの木が植えられている情景の写真をよく目にするが、日本の茶畑のような単純な丘ではなく、起伏に富んだダイナミックな地形なのだ。その地形に沿って植えられた見渡す限りのオリーブの木、「うねり出す」という表現でみごとに情景がとらえられている。ゴッホの樹木等のダイナミックなうねりをイメージさせられる。(鹿取)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする