7月17日(日)、家人と「シネマサンシャイン池袋」で「小川の辺」を観て来ました。困難な、苦悩を帯びた人生を生きた人々の姿を描いた物語りにも拘らず、映画を観終わって、爽やかな感じを抱きました。
試写会の抽選には外れ、酒田・鶴岡旅行中は"山形では先行上映”のキャッチフレーズに何度もお目にかかった「小川の辺」、漸くのご対面が叶いました。原作(6月9日のブログに登場した藤沢周平の作品)の流れと同じような流れでドラマは進みます。
海坂藩々士佐久間森衛は、農政の手直しを批判した上書により、謹慎処分を受けた後、脱藩します。本物語の主人公戌井朔之助の妹田鶴は森衛の妻です。
藩は、その討手を直心流の一流の使い手朔之助に命じます。主命であるぞと言われ、朔之助は已む無くこの命に従います。親友でもある義理の弟を討てとの主命です。
この命を受けて朔之助が帰宅した戌井家の困惑・混乱。特に朔之助の母以瀬の一番の心配は、勝気で、やはり直心流の使い手田鶴が夫を助ける為、朔之助に向かって斬りかかって行くのではないかと言う懸念。そうなれば自分の子の二人が斬り合うこととなります。この話を聞いていた戌井家の若党新蔵がお伴を願い出ます。
朔之助と新蔵は上意討ちに出立つします。道行く二人の前に立ち現れる風景。春から初夏へと巡る季節。山中を歩き、峠を越え、船で川を下り、山里を進みます。”新日本紀行”的美しい風景が続きます。海坂藩から行徳への長い道中。その間に過去が振り返られます。
痛切に藩政を批判する森衛。新蔵とは仲がよい半面、兄には反抗的な田鶴。朔之助と森衛の御前試合。ここは原作にはなかった場面です。一本目は朔之助の胴が決まります。二本目は森衛の面が。互角の場面で豪雨となり、勝負はそこまで。洪水で決壊しそうな護岸の修復作業で、雨中必死に助け合う二人。親友との関係が暗示されます。嫁に行く前日、新蔵に思いを告げる田鶴。
戦わねばならぬ時は巡ってきて、遂に森衛は倒れます。森衛が斬られた後に帰ってきた田鶴は、当然に兄に斬りかかります・・・。
朔之助を演じる東山紀之と、森衛を演じる片岡愛之助の決闘場面がこの映画の一番の見どころです。見事な立ち回りです。田鶴への新蔵の思いよりも、こちらの場面で思わず身を乗り出しました。
朔之助と森衛からは、親友同士が戦わねばならぬ苦悩の様子は、微かにしか窺えません。武士としての建前上、それは裡に仕舞い込んだのでしょう。しかし、両者を取り巻く家族たちからは本音の、苦悩が、肉声が語られます。
短編の原作の行間を良く読みこんでの、心に残る作品に仕上がっていました。