12月2日(日)、新橋演舞場へ十二月大歌舞伎夜の部を観に出掛けた。今月の夜の部の出し物は
一・籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいさめ)
二・奴道成寺
「籠釣瓶」の筋は世にありがちで、分かりやすい。上州佐野の絹商人・佐野次郎佐衛門(尾上菊五郎)は、下男治六(尾上松録)と桜咲き誇る吉原見物にやって来て、花魁八ツ橋(尾上菊之助)一行に出会い、八ツ橋ににっこり微笑み掛けられ、身も心を奪われてしまう。それからは、お大尽の次郎佐衛門、金にまかせて、八ツ橋の元へ通い詰めるようになり、身請けする寸前までになります。
これを知らされた八ツ橋の間夫繁山栄之丞(坂東三津五郎)は、八ツ橋に「俺と別れるか」とばかりに次郎佐衛門との縁切りを迫ります。惚れた栄之丞と別れられない八ツ橋は、満座の中で 次郎佐衛門に愛想づかしをします。うちひしがれて佐野に戻った次郎佐衛門は、四ヶ月後再び吉原に現れ、凶行に及ぶのです。(写真:貼りだされたポスター)
見せ場が幾つも用意されていました。吉原仲之町の華やかな世界とそこを闊歩する花魁一行。八ツ橋を一目見て身も心も奪われて、金縛りとなってしまう次郎佐衛門。彼との縁切りを迫られ苦悩する八ツ橋。そして、再び現れた吉原で、上客として遇され、八ツ橋と一献交わす穏やかな次郎佐衛門が、突然刃を抜く瞬間。心理劇的要素がふんだんに盛り込まれています。
前回この芝居を観た時は前から2番目の席で、次郎佐衛門演じる吉右衛門の表情の変化がはっきりと見られました。今回は座席は劇場真ん中あたりでの観劇で、細かい表情の変化までは読み取れません。その辺を鑑賞する為に家人は小型双眼鏡を用意していました。今後は私もこれに倣おうと思ったものでした。 「吉原百人斬り」をもとに三世河竹新七が脚色した世話物。今回は斬られるのは八ツ橋一人。その倒れゆく姿が見事。荒川静香のイナバウアーを更に進化させた様に背面に反り、弓なりになって肩から直接畳に落ちていきました。菊之助の、母親譲りの美麗とこの演技、私にはここが一番の見どころでした。(写真:八ツ橋演じる菊之助)
借りたイヤホンガイドが幕間に多くの事を教えてくれます。花街のしきたり、花魁と枕を共にするまでの長い道のり。演目の「籠釣瓶」とは、抜けば人の血を求めずにはいられない妖刀である事等々。