4月20日(土)、脱原発派の論客として著名な後藤政志氏の、「新安全基準は妥当か?」と題する講演が、都高教・都高教退職者会共催のもと行われた。それに先立って、退職者会幹事会が開かれ、「何方か今日の写真を撮って下さい」と言われ、何時もカメラを持参している私が名乗りを上げると、「ついでに、今日の記録も取って下さい」と依頼されてしまった。耳に難点のある私は、生の講演だけでは、聴き漏らすことも多く、講演後CDに焼いたものを送って貰い、それをも参考にし、文を起こし、感想を添えたものが以下のレポートで、「都高教退職者会」のHPに掲載されたものであるが、そちらを目にしない方にも読んで頂こうと、やや長文のレポートを載せる。
『後藤政志氏講演を聞いて
冒頭、後藤氏は自己を紹介し、且つ、脱原発に舵を切っていった経過に触れて次の様に語った。
「私は1989年東芝に入社以来10数年間にわたり、原子炉格納容器(以下格納容器と略)の強度設計に携わってきたが、格納容器の安全性は技術で担保しきれないのではとの疑念を抱くようになった。すなわち、格納容器とは、放射能を外には出さない“最後の砦”なのだが、シビアアクシデントを起こさない様にするために、ベントと称する“外へのガス抜き”をしなければならず、放射能と言う危険物を外へ逃がす事という矛盾の上に成り立っていることに気がついてしまった。
特に『設計の3倍の圧力に耐えられる様に設計を強化出来ないか』と問われた時に、これは決定的にだめだ、技術者として黙ってはいられないとの思いに至り、別名で原子力反対の論陣を張って来た。3・11大震災以降は本名で論文を発表するなど原発反対運動に係わるようになった」と。
氏は情熱を込めて、原子力開発に伴う問題点を多方面にわたって語ったが、紙面の都合上、「福島の現状」と「福島の事故は何であったか」に焦点を絞ってまとめておく。特に下記②は最近露呈して来た、緊急の対策を要する大問題である。 「福島の現状」に関して。
①3月11日の東京新聞には“原発関連死は789名とある。・・・死者は0名だなどと語る原発推進派がいるがとんでもないことだ。直接被爆しての死は無かったが、根拠ある推定では1000名を超える方が、原発関連死(原発事故に端を発する諸原因に因る死)で亡くなるというとんでもない事態が、現在進行形で起こっている。癌の為に亡くなるという将来的問題が起こる可能性も高い。
②果てしなく続く、福島第一原発汚染水処理。・・・現在地下には、1号機~4号機合計で78000トンの放射能汚染水がたまっているが、毎日400トンもの地下水が流れ込み、その量は増え続けている。地下水は流入するだけでなく流出し、放射能物質を含んで海に至る可能性もある。更には、汚染水を貯めておく貯水タンクがいずれ足りなくなるのを見越して、東電が建設した地下貯水槽からは汚染水が漏れ出すという事態が発生した。その汚染水が地下水を通して海に達し、放射性物質が海を汚す恐れもある。絶対にあってはならないことが起ころうとしている。東電はひどいが、一東電の問題を超えて、私たちは、原発で事故が発生すれば必然的に起こる問題と捉えておかねばならない。(5月4日の東京新聞は、水漏れ監視用の竪穴で微量の放射性物質が検出されたと報道)
③危うい仮設電源、冷却システム等。・・・完全な安全設計ではない仮設の電源などでは事故が起こりやすくなっている。ネズミが原因で冷却システムの電源が切れたと言っているが本当の原因は解明されず、又、夏草が伸びて送水管に穴が開くなどの事態が起こっている。これはガサネタではない。
「福島の事故は何であったか」では
事故原因および事故進展のプロセスが未だ解明できていない。東電は、想定を超える津波が主原因であるとしているが、地震そのものによる配管破断の可能性が高い。国会事故調(田中三彦委員長)が1号機原子炉建屋の調査を東電に申し入れたところ、「暗くて入れない」との説明があったが、これは虚偽であることが判明した。結果的に、東電の妨害により建屋に入れず、事故原因が特定出来ていない。
航空機事故が起こったとき、当事者ではなく委員会が全権限を持って事故解明に当たるのと比較すると、この事態はあまりに異常であると思いながら、私は聞いた。
「安全基準を考える上での基本」としては、福島事故の再発防止は、継続的な事故の原因究明と抜本的な対策が必要にも拘わらず、従来から、我が国では今回の様な大事故を経ても対処療法的な対策でお茶を濁してきている、そこが大問題である、と力説された。
後藤さんが用意された資料には、「パワーポイント」で72もの画面が印刷されていた。その全てを語る必要を感じているのだろうが、時間の制約(今回は90分)でせいぜい30ポイント位しか語れなかっただろう。今回の事故、将来の安全の問題等、後藤さんは語るべき必然性を感じる事柄について、格納容器の基本構造に触れる技術面の話も交えて、情熱を込めて語ってくれた。時に東電の事実隠蔽・虚偽態度に触れる時には、抑えきれずに怒りを露わにしての講演であった。
地震大国の我が国では、予想を遥かに超えて起こる巨大地震や大津波。それらに起因するシビアアクシデント。一度起これば私たちの生活は根こそぎ、一挙に破壊されてしまう。日々の生活と原発とは共存出来ないことを再認識した学習会であった。深く学び真実を知ることこそが行動へと繋がっていく。この学習会の成果を行動で示すべきときは今をおいてはないと強く感じる講演会であった。』