観終わって、清々しい思いに満たされ、気力が湧いてくる映画だった。
5月18日(土)、家人と両国にあるシアターX(カイ)に出掛け、池谷薫監督作品「先祖になる」を観てきた。2011年3月11日の大震災で壊滅的打撃を受けた陸前高田市気仙町荒町地区。主人公は佐藤直志さん(当時77歳)。消防団員の長男を大津波に奪われ、自宅は2階まで水につかり、自身は生き残った。佐藤さんのその後の生き方に密着して撮影したヒューマンドキュメンタリー。
カメラは、主として佐藤さんに語らせ、時として彼をサポートし続けて来た菅野剛さんにも登場を願う。次第に明らかにされることは・・・。
震災からひと月後、妻や嫁を初めとして、ほとんどの住民が避難所暮らしを送るなか、きこりを生業とする彼は、ひとり自宅に住み続けた。立ち退きを要請する市職員とは「息子と先祖の霊を守るため絶対にここを動かない」と激しい口論を交わし、避難要請を拒否。
かくして、彼は5月には田植えをし、そばの種をまいた。住民総会では、町を再生する礎となるため、元の場所に家を建て直すと宣言し、森に入りチェーンソーで木を切り倒す。(直志さんの熟達さが見事な映像として表現された場面)。
夏には、若者達と山に入り、900年続くと言われる「けんか七夕」の山車の骨組みの藤ヅルを切りだす。仮設住宅完成後も、電気・水道のない自宅でひとり暮らしを続け、遂には自力で家を完成させてしまう。新築の自宅で気持ち良さそうにお茶を飲む直志さん。映画はそこで終わる。
長男を失い、家を破壊され、裡に秘めた悲しさは深いものがあっただろうに、ユーモアを忘れず、常に明るく行動しインタビューに応える直志さん。そんな直志さんを黙々と手伝う菅野さん(当時62歳)。大地に根を張って生きる人の強さが伝わって来る。 題名が謎かけのような「先祖になる」。謎が少し解けた様に思える。
大津波に遭遇した後には高台移住しかないと考え、ブログにも書いたことがあった。その浅はかさを思い知らされる映画だった。
映画終了後、池谷監督が司会となり佐藤さん・菅野さんへの生インタビュー。佐藤さんはオシャレで、明るく、達筆でもある事も知った。右は、買ったハンフレットの裏面へサインをして貰ったもの。
本作品はベルリン国際映画祭でエキュメニカル賞特別賞を受賞し、香港国際映画祭ではグランプリを受賞した。