対戦前にはα碁への敵意を露わにしていた、囲碁最強棋士イ・セドルの完敗後の表情は晴れやかだった。記者会見で「α碁との対戦は心の先から楽しかった。α碁の手を見てこれまでの知識が正しかったかどうか疑問を抱きました。囲碁の世界をもっと極めたいと思います」と爽やかに語っていた。謙虚で、囲碁に向かう真摯な姿勢を感じて私は感動した。
羽生曰く「将棋の世界でも過去の定跡が人工知能によって否定されています。でもそれは、終わりではなく新たな時代の始まりではないか。今回の取材で強く感じました」と語っていた。(写真:ハムサビに囲碁盤を贈呈するイ・セドル)
(第5局を戦うイ・セドル) 昨年から将棋のタイトル戦に「叡王戦」が加わった。一昨年まで、プロ棋士側5人とコンピュターソフトが対戦した団体戦の電王戦。それが発展し、叡王戦の優勝者と人工知能搭載の将棋ソフトとの対戦と、電王戦は変化した。
第一回の叡王戦の優勝者山崎隆之八段は、電王戦でコンピュター側の優勝ソフト「ポナンザ」と戦い0勝2敗と完敗した。これ以外のタイトル戦は全棋士の参加が義務付けられているが、叡王戦のみはエントリー制で、参加希望棋士のみの参加。それでも大方の棋士は参加しているが、3冠保持者羽生も、竜王渡辺も、名人佐藤天彦も昨年はエントリーしなかった。それが今年のタイトル戦には羽生が参戦を宣言し、将棋界の大きな話題となっていた。 優勝すれば人工知能と対戦する可能性のある叡王戦。羽生は人工知能との対戦を辞さない決断をしたのだ。大川慎太郎著『不屈の棋士』では、羽生は昨年不出場だった理由を「タイトル戦のスケジュールが詰まっていたので、今回はいいか、という感じでした」と述べていた。それが一番大きな理由にしろ、棋界の最高位に位置するものとして、多くに考え巡らせたうえでの決断だったろう。今年は、その羽生が叡王戦のトーナメント戦を勝ち上がっている。(写真:対局中の羽生)
羽生対ポナンザの頂上決戦が実現するかもしれない。私は羽生の英断に大きな拍手を送りたい。避けて通れない人工知能との戦いに自ら進んで出て行った背景には、人工知能の現場を見て来たことがあるような気がしてならない。イ・セドルの上記発言をも前向きに捉えたのではないだろうか。兎も角、羽生の叡王戦での戦いをじっくりと見続けたい。
(本当は今日から北信濃の旅に出るはずだったが、台風の影響を避け、出発を一日延ばした。旅先でのブログ更新が可能かどうか不明だが、更新なきときはその環境に無かったと理解して下さい。26日帰京予定です)