遅ればせながら、今年もよろしくお願いいたします。
もう、今日は11日。歳をとると1日のたつのが早いこと、早いこと。
正月も「あっ」と言う間に過ぎ去り、今のコロナ禍のご時勢、辰水神社へ娘たちと行って「丑」の写真だけは撮ってきましたが、出かけることはあまりせず、もっぱら読書にはまっていました。
中でも「阿川佐和子と檀ふみ」にはまり、図書館で借りて片っ端から読んでいます。お陰で退屈だと言わずに、読みながら時には笑いながら平穏なわが家での正月を過ごすことができました。
私もお二方に触発されて今年は〝エッセイスト〟ならぬ〝エッセイババ〟になろうかと、思った次第。
昨年、書いた迷文を年の初めに掲載いたします。
「消えた金魚」
満月が住宅の建て込んでいる路地の入り口を明るく照らしています。二匹のアライグマの姉妹は、寝座にしている農具入れの小屋から、餌を探して人家の建て込んでいる路地へトコトコと入ってきました。どこの家も寝静まって静かです。
「お姉ちゃん、お腹がすいたな。今夜は何か食べ物にありつけるかしらん」
「昨日は何も食べるものなかったし、今日こそは、何か見つけなきゃ」
連れ立って夜更けの路地を歩いていると、どこからか魚の匂いがします。
匂いに釣られて行くと大きな家の裏口に、プラスチック製の大きな容器が置いてあり、金網で蓋がしてあります。
「お姉ちゃん! ここから匂いがするよ」
「どれどれ? あれっ、網の下に大きな金魚がいるわ。美味しそうー」
「網の上に重しが置いてあるけど、両方から持ったらいくらでも蓋を開けられるし、お姉ちゃん、よかったなぁ」
「あんた、そっちを持って! あたしはこっちを持つから」
二匹で蓋の両側を持ち、「よいしょ」と上げて、蓋を五十センチ程ずらして中をじっくり覗くと、十五センチはある大きな金魚がたくさんいます。
二匹のアライグマは我先にと手を入れて、逃げる回る金魚を掴んで食べ始めました。
最後まで逃げ回っていた和金も、追い回されて、とうとう捕まってしまい、頭から食べられてしまいました。
「あぁー、美味しかった。久しぶりにご馳走を食べたわ」
「よかったなぁ、お姉ちゃん。お腹いっぱいになったし、今日はもう帰ろうか」
アライグマの姉妹は、金魚がたっぷり入ったお腹を抱えて、満月に照らされた道をルンルン気分で帰って行きました。
二日後、月の明かりに照らされて、餌を探しに来たアライグマの姉妹は、何やら立ち止まって相談をしています。
「お姉ちゃん、今日はどこへ行く?」
「最近は畑の美味しい落花生も、全部網がかけてあって食べられないし、困ったなぁ、どうしょう?」
「こないだ食べた金魚、美味しかったし、あそこへ行ったら、何か美味しいものがあるかもー」
「もう一度、行こうか」
アライグマ達は、金魚を獲った家へ向かって歩いて行きました。
「金魚のいた入れ物が置いてあるよ。まだいるか覗いてみるわ」
「あれっ、横にから揚げがあるよ」
「あっ、本当だ」
二匹は我先にと、から揚げに向かって突進しました。
〝ガシャ〟入り口の金網の蓋が下りました。罠だったのです。
あくる朝、怯えて団子の様に固まっている二匹のアライグマの目に、この家のお父さんとお母さんの姿が映りました。
「私の大事な金魚を食べたのは、このアライグマやったんや。六年間、大事に飼ってきたのに、六匹、全部食べられてしまうなんてー。金魚の赤いウロコが落ちてるのを見て、怖かったやろうにと、涙が出てきたわ」
「金魚は可哀そうやったけど、食べられたものは仕方ないし、役場へ電話してアライグマを引き取りにきてもらわな」
「そうやなぁ、でも、このアライグマもよく見ると、可愛い顔してるわ。金魚を食べられて腹は立つけど、殺されるのは、可哀そうやなぁ。でも、飼う訳にはいかんしー」
そう言いながら、お母さんは役場へ引き取り依頼の電話をしました。
「引き取りは月曜日になるそうだから、今日と明日は飼ってあげるわ」
から揚げをアライグマにやりながら、お母さんの胸の中は、殺すのは可哀そう、でも仕方ないと二律背反の思いでいっぱいでした。
ーおしまいー