薔薇の香る庭園の中を西沢は玄関を目指して歩いた。
車寄せに乗り付ければ使用人が車を駐車場に運んでくれるが…昔のように…駐車場から続く見事に手入れされた庭園を眺めて歩いてみたかった。
冬というのに乱れ咲く薔薇の香りが…遠い思い出に向かって再び戻ってきた西沢を温かく迎えてくれるようでもある。
玄関のチャイムを鳴らすや否や扉が開かれ…顔見知りのメイドが懐かしげに微笑んだ。
変わらないな…まるで時間が止まっていたかのような気分になる。
時と共に多少は模様替えされたところがあっても…流れる空気は同じ…。
「紫苑ちゃん…お帰りなさい! 」
スミレの大きな声が響いた。嬉しそうに階段を駆け下りてくる。
西沢は笑いながらスミレに手土産を渡した。
「やだ…気い使わせちゃったわね…。
まあ…これお姉ちゃまのお好きな銘柄のワイン…覚えててくれたのねぇ…。
ひと昔近くにもなるのに…。 」
感激したスミレは大はしゃぎで西沢の腕を引っ張った。
お姉ちゃまが首を長くして待っていらっしゃるわ…。
スミレが連絡してきたのは夕べのことだった。
急で申し訳ないんだけれど…お姉ちゃまの都合がついたので明日来てくれない…?
そんな内容だった。
ばばさまの突然の呼び出しは今に始まったことではなく…あの頃も同じだった。
ばばさまは我儘を言っているわけではなく…こちらの都合が悪ければ断ればいいだけのこと…後から別の日を指定してくる。
仕事の切りもよく急ぎの予定もなかったから西沢はすぐに了解した。
この薔薇の洋館はプライベートな場所で、お告げ師の仕事をするのは別の場所にある本宅の方…。
仕事のない時はここでのんびりと過ごすのがばばさまの習慣だった。
その部屋はプライベート中のプライベート…家族でもばばさまの許可がなければ入れない場所…7~8年…いや9年ぶりか…。
扉の向こうで薔薇の君は艶然と微笑んでいた。
西沢の姿を見ると立ち上がって両腕を広げた。
「紫苑…ちょっと見ない内にずいぶんと磨きがかかったじゃないの…?
惜しいわ…モデル辞めちゃったんでしょう…? まだまだこれからなのに…。 」
相変わらず輝いてるね…麗香さん…眩しいくらいだ。
西沢の言葉に満更でもなさそうに満面の笑みを浮かべる。
長い間の空白などなかったかのようにふたりはキスを交わした。
「困った坊やだわ…ふらっと居なくなったりして…。
後悔してるのよ…ここで暮らしなさいなんて…言わなきゃよかった…。
あなたは…閉じ込められることに…心からうんざりしてたのよね…。 」
うんざりしながら…それでも僕は…今でも西沢の鳥籠の中だよ…。
もし…麗香さんの傍に居たとしても…鳥籠の種類が変わるだけ…他は何も変わらない…。
変わらなければ…あなたを恨んでしまう…。
恨むよりは…どうせなら…ずっと好きでいた方がいいじゃない…だから…さ。
「それだけじゃない…私のため…庭田のために身を引いてくれたわ…。 」
くすっと西沢は笑った。 そんな御大層なことじゃないよ。
あなたが僕に近付けば…得をするのは縁も所縁もない西沢家…それじゃぁ…名門庭田家としては周りに示しが付かないでしょ…。
今のあなたなら問題にもならないけど…あの頃はまだばばさまになったばかりだったからね…。
「どちらにしても…終わったこと…古い話さ…。 」
お姉ちゃま…お茶をお持ちしたわよ…。
扉の向こうからスミレの声がした。
使用人を近づけないようにしている…と西沢は察した。
よほど重要な話か…。
スミレが部屋の中へとワゴンを押してきた。
英国風に並べられたサンドウィッチやケーキ類…濃い目のミルクティ…。
「紫苑ちゃんは…コーヒーの方がよかったのよね。 」
そう言いながらスミレは小さめのポットからコーヒーを注いだ。
「スミレちゃんもよく覚えてるじゃない…。 」
当たり前でしょ…私がお給仕なんかするのは後にも先にも紫苑ちゃんだけなのよ。
誰が他の人にお茶淹れてあげるもんですか…。
「そりゃぁ光栄だ…。 僕…ちょっと幸せかも…。 」
あら~嬉しいこと言っちゃって…。
「スミレ…あなたもここへお掛けなさいな…。 」
まあ…お邪魔じゃなくて…?
「大事な話なのよ…しばらくは…智明に戻りなさいね…。 」
はい…心得ました。
スミレ…智明は言われたとおりソファに腰を下ろした。
何から話すべきか…迷うところだけれど…最近世界的に異常な現象が起きていることは周知の通り…。
預言者の中にはこれをフォトン・ベルト(光子の帯)のせいと言って憚らない人たちもいる。
彼等は…2012年に太陽系がこのフォトン・ベルトの中にすっぽり入ってしまう為にアトランティス大陸やムー大陸が沈んだのと同じくらいの大災害が起きると考えているわ。
書店へ足を運んで御覧なさい…いっぱい本が並んでるから。
どなたかの予言だとか…お告げだとか…。
科学的には何の根拠もないことだし、フォトン・ベルトなどというものの存在さえ否定されている。
けれども…フォトンがどうのこうのという以前に、過去から現代に至る幾人もの預言者が、近いうちに世界的にとんでもない大災害が起きるということを予知していることだけは確かなの。
お告げ師である天爵ばばとしてではなく…私的見解を述べておくと、なんだかんだ言っても…すべては人間が引き起こしたことよ。
後に起こることは、破壊し尽くされた天地の怒りと考えた方が当たってるわ。
予知・予言の類から宗教的な部分をすべて取り除いたとしても…人間は遣り過ぎた…そういうこと。
できる限り被害を防ぐために世界中が眼を向けなければならないのは、大災害が起こる前に少しでもこの星の病気を回復させておくことだったのに、今の状況では病気はますますひどくなっていくばかりだわ。
あらゆる場所で火種が熾っている。 あらゆる場所で破壊が続いている。
それを防ぐという目的で…火をつけようとする連中を抑えこむためにHISTORIANが世界中を監視している。
あの手紙から察するにそういうことが言いたかったのよね…。
だから…この国の力ある者は手を貸してくれと…。
でも…彼等のやり方は納得できない。
私から見れば…もともと他国から来た連中が、この国の中枢部の人間を操って、世界を護ることを建前に、自分たちと意見の異なる者たちを潰していってるように思えて仕方ないの…。
彼等が三宅にしたことを見たでしょう?
世界平和大義名分の下に恋人の死を尊い犠牲として正当化させたのよ…。
おまけに自分たちがその発症のきっかけを作ったくせに、発症者たちを見捨てて助けようとさえしなかった。
あなたみたいな…ちょい抜けのお人好しが居なかったら、事態は悪化、大混乱が起きていたかもしれないわ。
HISTORIANの失敗の後始末にいいように利用されたってわけね…紫苑。
この国を護ってやるだなんて綺麗ごとを述べても…彼等は自分たちの考えを押し付けて好きなように動かそうっていうだけのことよ。
その上…結果的に何が起きても彼等は責任を取らないわ…。
こういう世の中だから…これが悪だなんて言い切ることは難しいけれど…悪は悪の顔を持っているとは限らない。
いい顔している連中は疑ってかかった方がいいのよ。
彼等だけに任せておいてはいけないわ…。
この国に危機が訪れているなら…私たち自身が動かなければ…。
これまで我国の能力者はほとんどがそれぞれ独自に行動してきたわ。
最近になって裁きの一族がやっと重い腰を上げたけれど…統率者として動くならもっとはっきり主張すべきだわね。
「裁きの一族は…統率者ではない…。
あくまで…裁定人の分を超えてはならない…それが宗主の考え方だ。
裁定人と統率者が同じであることの危険性を思えば…当然のこと。 」
それまで黙って麗香の話を聞いていた西沢が突然口を開いた。
これまで聞いたことのない厳しい口調に麗香も智明きも少なからず驚いた。
「私的見解とあなたは言った。
ならば…僕も私的立場として答えることにする。
僕はHISTORIANに助力も協力もした覚えはない。
彼等とは会って話もした。 確かに…助力してくれとは頼まれた。
事の成り行きで僕の身内が彼等を助けたこともある。
けれども、この騒ぎの原因をつきとめて解決を図ろうとしたのは、彼等の依頼を受けたからではない。
僕の命を救ってくれた大勢の人々…自分がいつどうなるか分からないような状況に置かれている人々のためだ…。
もし…彼等の依頼がなくても僕はその人たちのために動いただろう。
結果的にHISTORIANの思惑通りになったからと言って、彼等のために尽力したと思われるのは心外だ。 」
まるで…別人…。 ふたりは瞬時…呆然と西沢の顔を見つめた。
「やだ…紫苑ちゃん…そんなにマジにならないでちょうだいな…。
お姉ちゃまは裁きの一族や紫苑ちゃんの悪口を言ったんじゃないのよ…。 」
智明…言葉!
あ…はい…気をつけます…。
「怒ってるわけじゃないよ…。 麗香さんが言いたいことも分かるんだ。
誰かが主になって国内の特殊能力者たちをまとめ、外来の勢力に対抗していかないと、いざという時に自分たちが本当に護りたいものを護れなくなってしまうということだろう…? 」
そうよ…だって御覧なさい…。
あいつらのお蔭でこの国では人々がワクチンとオリジナルに分かれて戦う羽目に陥るとこだったのよ。
お互い協力すべき時に…分裂させるだなんて…とんでもない行為よ。
「それには僕も同感だ…。 」
だからね…紫苑…私はこの国の特殊能力者をまとめて、この国のことはこの国の者で護ると言えるくらいの強力な組織を結成しようと思うの…。
それには裁きの一族の協力が必要なのよ。
彼等がうんと言わなければ…能力者は誰も賛同しないわ。
それにもうひとり…すべての能力者たちから絶大な信頼を得ている特殊能力者…その人の支持も重要なの…。
あなたも…協力してくれない…?
英雄さん…。
次回へ
車寄せに乗り付ければ使用人が車を駐車場に運んでくれるが…昔のように…駐車場から続く見事に手入れされた庭園を眺めて歩いてみたかった。
冬というのに乱れ咲く薔薇の香りが…遠い思い出に向かって再び戻ってきた西沢を温かく迎えてくれるようでもある。
玄関のチャイムを鳴らすや否や扉が開かれ…顔見知りのメイドが懐かしげに微笑んだ。
変わらないな…まるで時間が止まっていたかのような気分になる。
時と共に多少は模様替えされたところがあっても…流れる空気は同じ…。
「紫苑ちゃん…お帰りなさい! 」
スミレの大きな声が響いた。嬉しそうに階段を駆け下りてくる。
西沢は笑いながらスミレに手土産を渡した。
「やだ…気い使わせちゃったわね…。
まあ…これお姉ちゃまのお好きな銘柄のワイン…覚えててくれたのねぇ…。
ひと昔近くにもなるのに…。 」
感激したスミレは大はしゃぎで西沢の腕を引っ張った。
お姉ちゃまが首を長くして待っていらっしゃるわ…。
スミレが連絡してきたのは夕べのことだった。
急で申し訳ないんだけれど…お姉ちゃまの都合がついたので明日来てくれない…?
そんな内容だった。
ばばさまの突然の呼び出しは今に始まったことではなく…あの頃も同じだった。
ばばさまは我儘を言っているわけではなく…こちらの都合が悪ければ断ればいいだけのこと…後から別の日を指定してくる。
仕事の切りもよく急ぎの予定もなかったから西沢はすぐに了解した。
この薔薇の洋館はプライベートな場所で、お告げ師の仕事をするのは別の場所にある本宅の方…。
仕事のない時はここでのんびりと過ごすのがばばさまの習慣だった。
その部屋はプライベート中のプライベート…家族でもばばさまの許可がなければ入れない場所…7~8年…いや9年ぶりか…。
扉の向こうで薔薇の君は艶然と微笑んでいた。
西沢の姿を見ると立ち上がって両腕を広げた。
「紫苑…ちょっと見ない内にずいぶんと磨きがかかったじゃないの…?
惜しいわ…モデル辞めちゃったんでしょう…? まだまだこれからなのに…。 」
相変わらず輝いてるね…麗香さん…眩しいくらいだ。
西沢の言葉に満更でもなさそうに満面の笑みを浮かべる。
長い間の空白などなかったかのようにふたりはキスを交わした。
「困った坊やだわ…ふらっと居なくなったりして…。
後悔してるのよ…ここで暮らしなさいなんて…言わなきゃよかった…。
あなたは…閉じ込められることに…心からうんざりしてたのよね…。 」
うんざりしながら…それでも僕は…今でも西沢の鳥籠の中だよ…。
もし…麗香さんの傍に居たとしても…鳥籠の種類が変わるだけ…他は何も変わらない…。
変わらなければ…あなたを恨んでしまう…。
恨むよりは…どうせなら…ずっと好きでいた方がいいじゃない…だから…さ。
「それだけじゃない…私のため…庭田のために身を引いてくれたわ…。 」
くすっと西沢は笑った。 そんな御大層なことじゃないよ。
あなたが僕に近付けば…得をするのは縁も所縁もない西沢家…それじゃぁ…名門庭田家としては周りに示しが付かないでしょ…。
今のあなたなら問題にもならないけど…あの頃はまだばばさまになったばかりだったからね…。
「どちらにしても…終わったこと…古い話さ…。 」
お姉ちゃま…お茶をお持ちしたわよ…。
扉の向こうからスミレの声がした。
使用人を近づけないようにしている…と西沢は察した。
よほど重要な話か…。
スミレが部屋の中へとワゴンを押してきた。
英国風に並べられたサンドウィッチやケーキ類…濃い目のミルクティ…。
「紫苑ちゃんは…コーヒーの方がよかったのよね。 」
そう言いながらスミレは小さめのポットからコーヒーを注いだ。
「スミレちゃんもよく覚えてるじゃない…。 」
当たり前でしょ…私がお給仕なんかするのは後にも先にも紫苑ちゃんだけなのよ。
誰が他の人にお茶淹れてあげるもんですか…。
「そりゃぁ光栄だ…。 僕…ちょっと幸せかも…。 」
あら~嬉しいこと言っちゃって…。
「スミレ…あなたもここへお掛けなさいな…。 」
まあ…お邪魔じゃなくて…?
「大事な話なのよ…しばらくは…智明に戻りなさいね…。 」
はい…心得ました。
スミレ…智明は言われたとおりソファに腰を下ろした。
何から話すべきか…迷うところだけれど…最近世界的に異常な現象が起きていることは周知の通り…。
預言者の中にはこれをフォトン・ベルト(光子の帯)のせいと言って憚らない人たちもいる。
彼等は…2012年に太陽系がこのフォトン・ベルトの中にすっぽり入ってしまう為にアトランティス大陸やムー大陸が沈んだのと同じくらいの大災害が起きると考えているわ。
書店へ足を運んで御覧なさい…いっぱい本が並んでるから。
どなたかの予言だとか…お告げだとか…。
科学的には何の根拠もないことだし、フォトン・ベルトなどというものの存在さえ否定されている。
けれども…フォトンがどうのこうのという以前に、過去から現代に至る幾人もの預言者が、近いうちに世界的にとんでもない大災害が起きるということを予知していることだけは確かなの。
お告げ師である天爵ばばとしてではなく…私的見解を述べておくと、なんだかんだ言っても…すべては人間が引き起こしたことよ。
後に起こることは、破壊し尽くされた天地の怒りと考えた方が当たってるわ。
予知・予言の類から宗教的な部分をすべて取り除いたとしても…人間は遣り過ぎた…そういうこと。
できる限り被害を防ぐために世界中が眼を向けなければならないのは、大災害が起こる前に少しでもこの星の病気を回復させておくことだったのに、今の状況では病気はますますひどくなっていくばかりだわ。
あらゆる場所で火種が熾っている。 あらゆる場所で破壊が続いている。
それを防ぐという目的で…火をつけようとする連中を抑えこむためにHISTORIANが世界中を監視している。
あの手紙から察するにそういうことが言いたかったのよね…。
だから…この国の力ある者は手を貸してくれと…。
でも…彼等のやり方は納得できない。
私から見れば…もともと他国から来た連中が、この国の中枢部の人間を操って、世界を護ることを建前に、自分たちと意見の異なる者たちを潰していってるように思えて仕方ないの…。
彼等が三宅にしたことを見たでしょう?
世界平和大義名分の下に恋人の死を尊い犠牲として正当化させたのよ…。
おまけに自分たちがその発症のきっかけを作ったくせに、発症者たちを見捨てて助けようとさえしなかった。
あなたみたいな…ちょい抜けのお人好しが居なかったら、事態は悪化、大混乱が起きていたかもしれないわ。
HISTORIANの失敗の後始末にいいように利用されたってわけね…紫苑。
この国を護ってやるだなんて綺麗ごとを述べても…彼等は自分たちの考えを押し付けて好きなように動かそうっていうだけのことよ。
その上…結果的に何が起きても彼等は責任を取らないわ…。
こういう世の中だから…これが悪だなんて言い切ることは難しいけれど…悪は悪の顔を持っているとは限らない。
いい顔している連中は疑ってかかった方がいいのよ。
彼等だけに任せておいてはいけないわ…。
この国に危機が訪れているなら…私たち自身が動かなければ…。
これまで我国の能力者はほとんどがそれぞれ独自に行動してきたわ。
最近になって裁きの一族がやっと重い腰を上げたけれど…統率者として動くならもっとはっきり主張すべきだわね。
「裁きの一族は…統率者ではない…。
あくまで…裁定人の分を超えてはならない…それが宗主の考え方だ。
裁定人と統率者が同じであることの危険性を思えば…当然のこと。 」
それまで黙って麗香の話を聞いていた西沢が突然口を開いた。
これまで聞いたことのない厳しい口調に麗香も智明きも少なからず驚いた。
「私的見解とあなたは言った。
ならば…僕も私的立場として答えることにする。
僕はHISTORIANに助力も協力もした覚えはない。
彼等とは会って話もした。 確かに…助力してくれとは頼まれた。
事の成り行きで僕の身内が彼等を助けたこともある。
けれども、この騒ぎの原因をつきとめて解決を図ろうとしたのは、彼等の依頼を受けたからではない。
僕の命を救ってくれた大勢の人々…自分がいつどうなるか分からないような状況に置かれている人々のためだ…。
もし…彼等の依頼がなくても僕はその人たちのために動いただろう。
結果的にHISTORIANの思惑通りになったからと言って、彼等のために尽力したと思われるのは心外だ。 」
まるで…別人…。 ふたりは瞬時…呆然と西沢の顔を見つめた。
「やだ…紫苑ちゃん…そんなにマジにならないでちょうだいな…。
お姉ちゃまは裁きの一族や紫苑ちゃんの悪口を言ったんじゃないのよ…。 」
智明…言葉!
あ…はい…気をつけます…。
「怒ってるわけじゃないよ…。 麗香さんが言いたいことも分かるんだ。
誰かが主になって国内の特殊能力者たちをまとめ、外来の勢力に対抗していかないと、いざという時に自分たちが本当に護りたいものを護れなくなってしまうということだろう…? 」
そうよ…だって御覧なさい…。
あいつらのお蔭でこの国では人々がワクチンとオリジナルに分かれて戦う羽目に陥るとこだったのよ。
お互い協力すべき時に…分裂させるだなんて…とんでもない行為よ。
「それには僕も同感だ…。 」
だからね…紫苑…私はこの国の特殊能力者をまとめて、この国のことはこの国の者で護ると言えるくらいの強力な組織を結成しようと思うの…。
それには裁きの一族の協力が必要なのよ。
彼等がうんと言わなければ…能力者は誰も賛同しないわ。
それにもうひとり…すべての能力者たちから絶大な信頼を得ている特殊能力者…その人の支持も重要なの…。
あなたも…協力してくれない…?
英雄さん…。
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