徒然なるままに…なんてね。

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ほとんど…小説…だったりも…します。

続・現世太極伝(第五十二話 不思議な石)

2006-08-08 23:18:46 | 夢の中のお話 『続・現世太極伝』
 三宅が知る限りでは周りに他家の呪文使いは居なかったというから…亀石に細工した業使いが居るとしてもこの地区のスタッフではなかったのだろう。
 それにしても三宅にほとんどの遺跡を任せておきながら、亀石だけ他の呪文使いに担当させるというのも解せない話だった。
しかも…三宅が呪文を解いたということは計画の中止をも意味するのだろうに、今なお、亀石だけが放置してあるというのも頷けなかった。

 亀石近辺での異変は、まだ初期の頃に滝川が目撃しているから、他の遺跡の異変とほぼ時を同じくして始まったとみていい。
状況から判断すれば同一犯人の仕業と考えて間違いないのだが…。
 ただ…いくらHISTORIANが無責任でも自分たちの墓穴を掘りそうなものをいつまでもほかっておくだろうか…?

 いや…もう完璧にお手上げ状態…。
西沢は頭を抱えて突っ伏した。

 特使だなんて…やっぱり…向かない…。
位なんかいらないんだ…自由にさせてくれ…。
背中の翼が疼いて…どこかに飛んで行ってしまいたくなる…。

 解いて…封印を…。 

 突っ伏した西沢の首に不意に柔らかな唇が触れた。
くすぐったいよ…。

 「お帰り…恭介…。 いやに早いご帰還じゃない…? 
仕事じゃなかったんだ? 」

 滝川は答えない。
こういう時の滝川は壊れている証拠…。
好きなようにさせてやる。

…があんまり先に発展しそうな時はストップをかける。
場合によるけど…。

 「恭介…そこまで…。 何があった…? 」

和の…実家へ行ってきた…突然…連絡があってな…。
ストップかけられても一向に動きは止めないが口は開いた。

もう…供養には来ないで欲しいと言われた…。

 「来るなって…おまえ…和ちゃんの正式な夫だろうが…? 」

 実家は代替わりで…和の兄貴夫婦が後を継いだようだけど…兄貴と和とは血が繋がってないんだ。
和が早くに実家を出て僕と暮らし始めたのもそのせいだったんだが…お義母さんが兄貴に気を使って…もう…これきりにと…。

 位牌は僕が持ってる…供養もそれなりにしてる…。
けど…亡くなった時に分骨したから…実家でも供養してくれてるものと思ってた。
 だから…毎年…命日辺りに実家にも顔を出してたんだ。
それも…あちらにとっては迷惑だったようだ…。

 和の部屋はリホームされて無くなってて…和の写真だけが仏壇の隅っこで小さくなってた。
和の形見に…とお義母さんが実家においてあった金のブレスくれたけど…あまりに細くてな…僕が着けるには輝にでも頼んで継ぎ足して貰うしかない…。

 亡くなってからも…和がこんな扱いされているのを見ると…切なくて…。
生きてるうちに…うんと大切にしてやればよかった…僕がもっと早くに売れてたらなぁ…。

 もっと良い思いさせてやりたかった…。 
モデルだった女なんだから…服も靴も…いいものを使わせてやりたかった。
大好きだったアクセサリーだって…今なら…好きなもの買ってやれるのに…。

 「おまえは十分大切にしてたぜ…。 貧乏してたけど夫婦仲めちゃ良かったじゃないか…和ちゃんいつも幸せそうだったよ…。
 恭介がな…何でもしてくれる…有り難いわ…って嬉しそうに何度も何度も笑って言ってた…。
何から何まで世話をして…最後までちゃんと看取って…。 」

紫苑…墓に布団は着せられずって…本当だなぁ…。
滝川の頬を涙が伝った。 

 「それ…親孝行の話じゃないか…? まあ…いいけど…。 
ね…ちょっと…恭介って…おい…怒るよ…。 」

 怒れなかった…。 
今の恭介は…ばらばらになったブロックみたいなもの…。
組み立て直すのに少しだけ時間が必要…。
 仕方ねぇなぁ…しばらく付き合ってやるよ…。 
但し…妙なことしたら即絞め殺すからな…。



 もう一度…あの手紙を思い返してみる。
ポイントポイントにパズルの断片を嵌め込みながら…。

 「なぁ…恭介…亀石のところでおまえが目撃した時に…何か…他と変わったようなところはなかったか…? 」

 変わった…ところ? 
ようやく脳内ブロックの組み立ての完了した滝川が頭を掻きながら起き上がった。

 「変わったところねぇ…? 現象的にはさほど…。
敢えて言えば…あの亀の形が一番造形的な感じがするかなぁ…。
三宅が呪文を使った巨石の写真をいくつか見たんだが…亀石はそれらに比べると時代がずっと若そうに思えたな…。 」

形…時代ねぇ…そいつは問題にならんな…多分…。

紫苑…。
滝川の唇が再び西沢の喉を狙う…。
 
 はいはい…いい年して甘えん坊さん…そういうとこ子供だよな…おまえ…。
僕の方がずっと年下なんだってこと忘れてないかぁ…? 

 紫苑…おまえこそ感覚ずれてないか…? 甘えてんじゃなくて…愛してんの…。
紫苑が可愛くて堪んないわけ…特にその喉が…さ。

 あ…時間切れ…残念でした…。
愛の語らいはまた今度ということで…。 

 何だよ…それ…気い抜けちゃうなぁ…。
いいよ…どうせな…おまえはいつだって他所ばかり向いてんだから…。
だいたい僕を袖にしておいてからに…玲人に手を出すなんてのはだな…ん…?
他所を向く…ん~? 

突然…何かを思い出したように滝川は眉を顰めた。

 「…紫苑…。 ひとつあるぞ…。 」

何が…?
西沢は訝しげに滝川の顔を見た。

 「他の遺跡との違いだよ…。 動くんだよ…この亀…。 」

亀が…動く…?
あのでっかい石がぁ…?

 「そう…。 この亀…最初は北に向いていたんだそうだ。
いつだかの地震で東に向いて…その後…いつの間にか勝手に回転して南西に向いちゃったんだそうだ。 」

勝手に回転した…?
生きてんのかよ…あの亀…?

 「それもな…あの亀石がもし西を向くようなことがあれば…大和盆地に大洪水が起きるって言い伝えがあるそうなんだ…。 」

 大洪水…場所を限定してはいるが…確かに…洪水伝説だよな…。
しかも亀は徐々に西に向かって回転してる…。
つまり…滅びに向かって時を刻んでいるってことだ。

 「誰かが細工したのではなくて…亀石自体が力を持っているんだろうか…?
だとしたら…なぜ急に人間に力を及ぼし始めたんだろう…?
 なあ…恭介…? 
石は…話せると思うか…? 石同士…或いは何か他のものと…。 」

う~ん…と滝川は唸った。
話せるかどうかは…分からんが…。  

 「石には不思議な力があるという話はよく聞くな…。
最近でも…パワー・ストーンなんかがよく売れているそうじゃないか…。
 それに…呪いのかかった宝石を手にした者が次々不幸に追い込まれるって話は昔からあるぜ。
 業使いでも水晶を使う類の者も居るから…石というのは侮れん存在かもしれん。
特に水晶なんかは持ち主の心を記憶するっていうぜ…。 」

 記憶媒体…亀石が記憶媒体だとして…人々に滅びを知らせるために西を向くのか…それとも西を向くのは滅びを招くためのスイッチなのか…。
亀じゃないけど…どっちを向いても謎だらけだ…。
西沢の脳裏を目まぐるしく考えが巡った。


 
 スミレちゃんから貰ったサンドビーズのデカクッションを、楽しげにクニクニと玩んでいたノエルが突然…あっと声を上げた。
驚いたような顔をして御腹を押さえた。

 「動いたよ…。 紫苑さん…。 今…ぐにゅぐにゅって…。 」

 えぇっ…ほんとか…?
西沢が急いでノエルの傍へとやって来た。

 「うん…一瞬だったけど…。 
何かこう…ここんとこで僕じゃないものが動いたんだ…。 」

 それは…不思議な瞬間だった。 自分の中で自分じゃないものが動く…。
ノエルは前に気の赤ちゃんを生んでいるけれど…まったく違った感覚を覚える。
御腹の中で動くのはエナジーじゃなくてちゃんと身体を持った赤ちゃんなのだ。

 「ねぇ…本当に生きてるんだね…。 僕のここに居るんだね…? 」

 ノエルが信じられないといった表情でゆっくりと御腹を擦った。
そうだね…と西沢も嬉しそうに微笑んだ。
楽しみだなぁ…ノエルのプレゼント…待ち遠しいよ。

 それを聞いてノエルの顔がいっそうほころんだ。
そう…これは紫苑さんへの大切なプレゼントなんだ…。
紫苑さん…ずっと欲しがってたもんね…。

 待ってて…紫苑さん…もうすぐだから…。
もう少し…あと…ほんの少しだから…。








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