
試運転の初日。それまで詳細な資料を入手していたのでE851が12系客車を牽引する事は夢ではなく、現実なんだ!と理解はしていましたが庫から出て来たE851の後ろに鮮やかなブルーの12系客車が連なっている姿を見た時の感動はいまだに忘れがたいものがあります。 96,05,23 西武鉄道小手指 オリンパスOM1 TMX スキャナー : Nikon COOLSCAN ⅣED
西武E851は西武秩父線開通に伴い同線に急勾配が存在する事からF型機関車でなければ重貨物であるセメント車を牽引する事が出来ず私鉄としては後にも先にも唯一のF型電機機関車が登場しました。そして永年秩父の守り神としてE851は西武秩父線で活躍していました。
その後、西武秩父線と並走する国道299号線を始めとした秩父周辺道路整備の整備に伴って東横瀬駅隣接の三菱マテリアルのセメント工場から産出するセメントは徐々にトラック輸送の占める割合が増加し鉄道輸送によるセメント輸送量は年々減少の一途を辿り最後は最盛期の半分以下にまで減少ししてしまいました。
輸送量の減少と時を同じくしてE851の全検も控えE851の所有者である三菱マテリアルよりセメントの鉄道の打切りが通告され西武鉄道秩父線のセメント輸送は86年03月に全面的にトラック輸送切替となりE851は余剰→廃車の運命となってしまいした。なおこの当時、三菱マテリアル側からE851の全検費用が出るのであれば(繰り返しになりますがE851の車籍は西武鉄道ながら所有者は三菱マテリアルになりますので検査費用は三菱マテリアル負担となります)しばらくはセメント輸送を続けることは何ら問題はないと言うのが西武鉄道の姿勢だった様です。
さて、西武鉄道秩父線のセメント輸送廃止に伴ないE851の4両は余剰による運用離脱→廃車の運命を辿る事になりますが、このままE851を終わらしてはならぬと西武鉄道社内の鉄ちゃんのご熱意により、E851が12系牽引を牽引すると言う度肝を抜かされる運転が計画されました。それまでセメント列車しか牽引しなかったE851にとって最初で最後の客車牽引と言う晴れ舞台を作り上げたのは当時、車両関係の部署にいた知り合いの鉄ちゃん(彼は今、西武鉄道の運転保安の責任者となっています)のご尽力が大きかったと言えます。
まぁ~本人が一番撮りたかった素材と言ってしまえばそれまでですが、事もあろうかJR東日本・高崎支社から12系客車を借り入れてさよなら運転を実施すると言う奇想天外で実現不可能に近い計画にはその計画をはじめて知った時は腰を抜してしまうくらいびっくりしたを越えて、開いた口が塞がらないくらいの嬉しいショックを受けた方も多かったと思います。
ただ、この企画もJR東日本の協力は当然として所轄官庁の関東運輸局の理解がなくては実現するのは難しくその他所轄官庁への事前の根回しのため所沢から桜木町まで通い詰めてこの計画が頓挫しないようにかなり神経を使ったと言う話を事後に伺ったことがありました。ちなみに当時は新宿・湘南ラインがなく所沢から桜木町まで所沢―高田馬場―品川―桜木町と往復するだけで一日仕事だったようです。
また、担当者は12系を借りるために新宿のJR東日本本社に訪れE851のさよなら運転の趣旨を説明の上、貸出のお願いをしたところ趣旨に賛同した担当者から快諾していただき(この担当者もどうやら鉄ちゃんだったらしいとの事。でもあの人ではありません。)大変に助かったと言う事でした。この12系のリース代金も1両/60万円と激安で貸し出され(実際には5月22日~27日に12系6両を借り受けています)、さらに高崎ー新秋津の回送料は免除。その上、運転日に12系に不測の事態が発生しては大変と西武線沿線に居住している高崎運転所の検修係員が派遣して、毎日2名が12系に添乗させてもらえると言う計らいまでしてくれたそうで(結果的にはJR東日本から検修の方の人件費や出張旅費も請求されなかったの事)JR東日本の全面的協力がなかったら(よく言うと大盤振る舞い、悪く言うとどんぶり勘定になるかな?)このさよなら運転は実現しなかった事も事実だと思います。

私が子供の頃、客車を牽引させてたい貨物用電気機関車のNo1はEF66、No2が西武E851と言われていました。その後EF66は数奇な運命をたどってブルトレ牽引機となりますが、E851は私鉄唯一のF型電機であるが故に客車牽引は叶わぬ夢と思っていました。そのE851が12系を牽引する姿が目の前にありました。これって夢?って多くの鉄ちゃんが思ったことでしょう。今考えていても良く実現したなぁ!と感心すると共にこのイベントを計画し実現にこぎつけた関係者には今も感謝するばかりです。 96,05,24 西武鉄道西吾野 850レ オリンパスOM1 TMX スキャナー : Nikon COOLSCAN ⅣED
05月22日に新秋津でEF65PFに牽引されてきた12客車6両の受け渡しが行われ05月23日・24日に小手指ー所沢―横瀬間で試運転が実施され05月25日・26日の両日に所沢 - 横瀬間において運行されたさよなら運転当日は、E853・E854を牽引機として単機牽引・重連・プッシュプル等、いろいろな牽引形態によって運転されました。
試運転では装着されませんでしたが本運転ではE851には永年E851を検修して来た所沢車両管理所のみなさま手作りの「さよならE851」のヘッドマークが掲出されました。これも当初は計画になく、現場からヘッドマークを作成したのでぜひ装着させて欲しいと言う要望が出たので永年、苦労を共にした車両管理所のみなさまの心をくみ取って急遽装着する事になったとの事でした。

このイベントで最大の見せ場はE851の重連でした。牽引するはブルーのノーマル12系客車と申し分ありません。吾野駅は長く秩父線の終着駅であったために山に挟まれた駅にしては立派な構内なのが印象的でした。余談ながら12系も高崎運転所の計らいで塗装が褪せていない車両で統一してくれたそうです。 96,05,24 西武鉄道吾野 851レ オリンパスOM1 TMX スキャナー : Nikon COOLSCAN ⅣED