新説百物語巻之四 9、碁盤座印可の天神の事
2023.5
又、京の五条の東に手習いの指南をする何某と言う者がいた。
いつも、大いに天満宮を信仰していた。
ある夜の夢に、正しく天神様が現れて、こうおっしゃった。
「我は、これ天満天神である。明日、高辻の柳馬場に来なさい。」と、言うかと思えば、夢からさめた。
ありがたく思って、未明に高辻の柳馬場に至ったが、まだ、どの家の表の戸も開いてなかった。
しばらく休んでいると、ようやく角の家一軒が戸をあけた。
ふと見入ると、夢に見たのとすこしも違わない立像の天神様の像があった。
高さは、壱尺ばかりであって、碁盤の上に立っていた。
それを買って帰って、猶々信心をしたが、霊験いちじるしく、そのあらたかな事は度々であった。
手に巻物一巻を持っているので、碁盤座印可の天神と名付けて奉っていた。
普通の民家に置いておくのも畏れ多いと考えて、大龍寺の辻子の寺へあづけ奉った。
先年、開帳があった天神様の尊像は、この天神の事である。
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