富田の猫 侍女に化けた猫
2023.1
安濃津(三重県津市)城主の富田氏の子息である千丸は、慶長九年に亡くなり、其の墓は、四天王寺(三重県津市)の宗宝院にある。
千丸が闘病中に側付の老女の一人に、いつも額綿帽子でもって顔を隠しているのがあった。
その素振りに不審な点があるので、或る武士が機會を見て、不意に『綿帽子拝見!』と声掛けて、手を延ばして、それをはね除けた。
すると意外にもその顔は人間ではなかった。
世にも怖ろしい大きな虎猫であった。
ソレ!と三四人の武士が飛びかかって、引っ捕えて繩を掛けて縛り上げた。
城主に、その由を急いで報告した。城主は一見して大いに驚き、書院の庭の梨の大木に搦めつけさせた。
日本犬、唐犬の強そうなのを三四匹をつれて来て、けしかけさせた。
しかし、猫は平然として目を細くして睡りかけている状態であったが、犬たちはかえって尻尾を下げて、後ざすさりして、怖がっていた。
それで、鉄の鎖でしっかりと縛り、大手門前の橋の欄干に繋いで、晒し物にして諸人に見せた。
しかし、或る夜、番人の隙を窺って、鎖を切ってどこかへ逃げてしまった。
それから幾年かを経た慶長の末、藤堂高虎が安濃津の城主になった時代に、丸之内にある菅平右衛門が拝領した屋敷内の植え込みの茂った林の中に、猫股が住んでいた。
平右衛門は、その後切腹させられ、それから屋敷は長井勘解由が拝領した。
その頃にも度々怪異な事があった。
それで、富田の猫股がまだ生きているとの噂がしばしばであった。
「安濃津昔話」より
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