TLH(腹腔鏡下子宮全摘術)は、低侵襲で患者さんの負担が少ない手術として広く行われていますが、合併症をゼロにすることは、残念ながらできません。TLHで起こりうる合併症には、例えば、他の臓器を傷つけてしまったり、手術中や手術後に大量に出血してしまったり、術後に縫合した腟壁が離開してしまったり、術後に感染を起こしてしまったり…といったものが挙げられます。
とはいえ、私は「合併症は限りなくゼロに近づけることが可能だ」と考えています。そのために大事なのは、これまで述べてきた「正確で精細」「分かりやすい手術」「一手間かける」「ゆっくり動く」などを、手術中にきちんと実行することです。そして、昨年、私が執筆した「よくわかるTLH」に書いた基本的なことを理解しておけば、合併症リスクは最小限になるだろうと考えています。
TLHにおける合併症の中で、特に深刻なのが尿管損傷です。
その発生率は、一般的に0.3~1%と言われていますが、私は4000例のTLHにおいて、尿管損傷をわずか4例(0.1%)に抑えることができています。当院には、多くの難症例が集まってきますので、そのような状況下でのこの発生率は誇れるものだと自負しています。 (わずか4例とはいえ、納得はしてはいないのですが)
しかし、合併症症例を後から検討すると、その手術操作において何らかの問題があったことは否定できません。ひとたび、合併症が起こってしまうと、患者さんだけでなく、私自身も非常に辛い思いをします。実は、「よくわかるTLH」も、合併症の経験を反省し、手術そのものの戦略や解剖の捉え方を再検討した結果、生まれたものなんです。
プロ野球の野村克也監督は、「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。」と述べています。これは、松浦静山の言葉を引用したものであり、負ける時には負けにつながる必然的な要因があるが、セオリーどおり、教科書どおりにやっていれば、なぜ勝ったのかどうにも思い当たらない不思議な勝ち🏅があるという意味のようです。
教科書どおりに手術をすれば、まあ、なんとかできた、ということはあるでしょう。しかし、手術や臨床解剖学の教科書や理論に完全なものはなく、教科書どおりにやっていても合併症につながる要因はどこかにあるものです。それは、不思議な勝ちを繰り返しているときに、突然悪魔のようにやってくるものかもしれません。
そういう意味では、『不思議の勝ちの中に、負けの種あり』と言えるのではないでしょうか?だからこそ、上手くいった手術動画もきちんと見なおして、負けの種を探していく作業が大事なのです。
そういう意味では、『不思議の勝ちの中に、負けの種あり』と言えるのではないでしょうか?だからこそ、上手くいった手術動画もきちんと見なおして、負けの種を探していく作業が大事なのです。