新シリーズ(に、なるかどうか。)笑いについての考察
第1回 含み笑い
「含み」は、含み資産、含み損、そして含み笑いなどと使用頻度は高い。含蓄や含意などと熟語も多い。含み資産や含み損は経済ではよく使う表現で、時価会計が進んで今はあまり使わないが、バブル当時は帳簿上の価格に対して、時価が相当値上がりしていて表面化しない資産が株の買い材料になったりした。いかがわしさが漂うが、本来表面には表れないが、なんとなくほのめかす場合に使う。奥ゆかしい表現方法だ。
それと「笑い」が、合体するとややこしい話になる。
大企業の重要会議。経営トップが部下の不始末に大怒りしている。役員一同下を向いたまま、トップの叱責は続く。滔々と怒りをぶつけた後、「どうなっているんや。」と言った直後「知らんけど。」と、言った。某役員は、思い出した。昨夜の宴会で、大阪のおばちゃんの話になった。必ず「知らんけど」と言う。「あそこの旦那さん、浮気してるらしいよ。知らんの奥さんだけや。知らんけど。」と、なる。その話題で取引先と大いに盛り上がった。
そのことを思い出したその役員は、一瞬ためらった。神妙にすべきか、笑うか。笑かせるつもりなら笑わないとダメだ。しかし、かなり怒っているようにも見える。恐々、顔を上げた。っと、トップと視線が合った。思わず、笑ったような笑わなかったような、正に「含み笑い」となった。腹の中では笑っていた。しかし顔は真顔のつもりだった。「しまった。」トップの表情が明らかに変わった。
含み笑いをする場合ではなかったことは明らかだ。すぐに視線を外し、覚悟を定めた。役員の更迭はおろか、進退伺いの提出まで考えた。家にはまだ、学費のかかる先妻の娘が3人もいる。現在の妻には双子の乳飲み子までいる。家族の笑顔が走馬灯のように巡った。
「お前だけや、分かってくれたのは。」社長は、大笑いしている。一生このトップについて行こうと決心した。彼の含み笑いが、苦笑いに変わった。