78回転のレコード盤◎ ~社会人13年目のラストチャンス~

昨日の私よりも今日の私がちょっとだけ優しい人間であればいいな

◎片山恭一の『満月の夜、モビイ・ディックが』を読んでみた

2010-03-07 08:21:54 | 小説30冊読破への道
──待っているから。いつまでも待っているから。

家庭崩壊で失われた自分の居場所を求めてモーツァルトを聴きバス釣りをする大学生・鯉沼は、
謎めいた同級生・風嶋香澄に恋をする。アプローチがありながらどこかで拒絶しているようでもある彼女の本心が読めないまま
2人はデートし肉体関係まで結んでしまう。その後、ひょんなことからバス釣りが趣味の“絵描き”タケルと3人で
やくざの集団から逃げ回る旅に出る。

===

原作320万部、劇場版の興収85億円、ドラマ版の平均視聴率15.9%、
更には漫画化、舞台化、ラジオドラマ化までされ社会現象と化した
『世界の中心で、愛をさけぶ』の著者・片山恭一氏の作品である(長すぎ)。
氏の数ある作品の中で、未読のセカチューを避けてまでこの作品を選んだのは、
意味深なタイトルと美しい絵の表紙に惹かれたからである。

というわけで読んでみた。










※以下、本格的なネタバレです。










香澄は精神が病んでいた。
それが鯉沼との出会いで変わることができた。
しかし、自分が楽になるための手段として鯉沼を利用しているだけだとも感じた。
鯉沼の望む女になることは、本当の自分に蓋をすることになってしまう。
そんなことは出来ない。だから一緒にはいられない。



ラストの入院先からの香澄の手紙によって、↑が明らかになる。
香澄は三人旅の終盤で刃物で自殺未遂を図り、そのまま入院してしまったのだ。
手紙を書く数ヶ月前?にお見舞いに来た鯉沼は、最後にこう言った。

>「待っているから」
> 言葉は返ってこなかった。もう一度、繰り返した。
>「いつまでも待っているから」

そして手紙には、

>あのときの鯉沼くんの言葉を拠り所にして、いまのわたしは生きていると言ってもいいくらいです。



これが純愛小説としての一応の結びである。

何だか救われない結末に空虚感と何か物足りない感じが残された。
感動も出来なかった。まあエロゲ原作のアニメぐらいしか感動できない当方の意見など当てにならないだろうが。

3人旅が始まる時には「やっと面白くなってきた」という感じだっただけに
救われる結末を用意して欲しかったが、おそらくそれはベタと言うのだろう。

あまりレビューが詳しくないので、分かりやすく★の数で表現させてもらうと
★★★☆☆
となります(要は微妙だと……)。



ちなみに、タイトルの「モビイ・ディック」(=大きな鯨)が何を意図するのか、当方には解読できなかった。