78回転のレコード盤◎ ~社会人13年目のラストチャンス~

昨日の私よりも今日の私がちょっとだけ優しい人間であればいいな

◎泪も枯れる程泣き明かしたなら乗り越えてゆけると思ってたのに

2012-10-31 08:42:25 | 思ったことそのまま
普通の日記も並行して書いていきます。


KSM事件以来、何もかもが上手くいかない。

仕事も、世間一般の仕事に比べれば
それほど難しいことはやっていないはずなのに、
上手くいかない。

クズ人間に出来る事には限界があるのだろうか。

そして、触れたくないけど持病の件。
気にしないできたはずなのに、
やはり気になってしまう。

この仕事だけじゃない。
過去にいろんな職種をやってきて全部駄目で、
最後に行き着いたのが今の仕事だったが、
もしそれも最低限のことすら出来ないというなら
それはつまり……


まず持病と言っている時点で逃げだ。
微かにでも治る可能性を信じている証拠だ。
これは本当は「障害」の部類に入る。
障害なら治ることはない。この年齢までほっといていたのなら尚更。



救いなのは、当方みたいに変な社員がまだ何人もいるらしい、ということ。
病気か障害かは置いといて。
ただ彼等には会ったことすらないし、今もまだ続けているかは不明。




T店でKSMに感謝されていた時代が絶頂期だった。
もうあの頃に戻ることは二度とない。



セピア色に染まる心のフォトグラフ。

◎公務員試験の天秤問題を解いて現実逃避しよう【#2】

2012-10-27 05:34:49 | 現実逃避クイズ
天秤問題は書籍やテレビ番組等で散々既出なので出そうか迷ったが、
まだ2回目なので皆様に受け入れやすい題材にしたかったのが本音であり、
一応限界まで深く掘り下げたつもりなので、
自分がどこまで深く知っているかを確かめるという意味でもご一読していただければ幸いです。

天秤だけではまだピンと来ない方もいるかと思うので、軽く例題出しておきます。こういうことです。


【例題1】
分銅8個と天秤ばかりが1台ある。
分銅のうち1個は他のものより100g軽いことがわかっている。
軽い分銅を見つけ出すには天秤ばかりを最低何回使用すれば良いか。




見たことあるでしょ? もう解き方を暗記している人もいるはず。
なのでサクッと答えにいきましょう。















正解:0回(手で持てば解るから)



すみません許して下さい。
もちろんこういうことじゃないです。
では仕切り直し。


【例題1】
同種のコイン8枚と天秤ばかりが1台ある。
コインのうち1枚はダミーで、他のものより軽いことがわかっている。
軽いコインを見つけ出すには天秤ばかりを最低何回使用すれば良いか。


※例題ですがスクロールする前に少し考えてみて下さい。















8枚のコインをA~Hだとして
(1)ABCvsDEFを比較
↓釣り合った場合
(2)GvsHで軽いほうがダミー

↓ABCが軽かった場合
(2)AvsBで軽いほうがダミー、釣り合えばCがダミー

DEFが軽かった場合も同様。つまり、たったの2回でダミーを特定出来るのだ。



正解:2回



実はこの問題には別解がある。当方は初めて知ったのだが、これも有名なのだろうか。

【別解】
(1)ABCvsDEF
(2)ADGvsBEH

1回目でどうなってもこの2回目を必ず行えば2回で特定できるのだという。
分岐が沢山あるので、一つずつ解決していこう。

(1)で釣り合う→A~Fが正規コイン確定(=全て同じ重さ)→(2)は事実上GとHの一騎打ち
(1)でABCが軽い→DEF、ついでにGHも正規確定→(2)は事実上AとBの一騎打ち(釣り合えばCがダミー)
(1)でDEFが軽い→ABCGHが正規確定→(2)は事実上DとEの一騎打ち(釣り合えばFがダミー)




例題をもう1問。

【例題2】
同種のコイン9枚と天秤ばかりが1台ある。
コインのうち1枚はダミーで、他のものより軽いことがわかっている。
軽いコインを見つけ出すには天秤ばかりを最低何回使用すれば良いか。


※例題ですがスクロールする前に少し考えてみて下さい。














9枚もあれば流石に3回はかかるだろう……という安易な考えではいけない。
今度はA~Iになる。
(1)ABCvsDEFを比較
↓釣り合った場合
(2)GvsHで軽いほうがダミー、釣り合えばIがダミー

↓ABCが軽かった場合
(2)AvsBで軽いほうがダミー、釣り合えばCがダミー

なんと、8枚の解き方を少し修正しただけで、結局2回で特定できてしまうのだ。



正解:2回


ちなみに、実際に地方上級で出題された問題は「12枚」だったという。
ではそれを踏まえて本番行きましょう。


【問題1】
同種のコイン27枚と天秤ばかりが1台ある。
コインのうち1枚はダミーで、他のものより軽いことがわかっている。
軽いコインを見つけ出すには天秤ばかりを最低何回使用すれば良いか。
(予想問題)
















なんと枚数が地方上級の2倍以上。踏まえるってレベルじゃねーぞ?と思いがちだが、
9枚の問題をほんの少し応用させただけなのです。

エクセル風にA~ZとAAで27枚だとしよう(解りづらくてスマソ)。

(1)A~IvsJ~Rを比較
↓釣り合った場合
(2)S~AAの9枚で「9枚の場合の解き方(2回)」をやれば良い

↓A~Iが軽かった場合
(2)A~Iの9枚で「9枚の場合の解き方(2回)」をやれば良い

つまり、27枚もあるのにたったの3回で特定できてしまうのだ。


正解:3回



では次はいよいよ過去問。


【問題2】
8個の同形同大の金メダルA~Hがある。
このうち2個は金メッキをしたもので、両者の重さは等しいが、6個の純金のものよりは軽い。
どれとどれが金メッキのものであるかを天秤ばかりを使って調べたところ、次のようであった。

左側にA、E、H、右側にD、F、Gのメダルをのせたところ釣り合った。
左側にA、D、E、右側にF、G、Hのメダルをのせたところ釣り合わなかった。
左側にA、D、E、右側にB、C、Fのメダルをのせたところ釣り合った。

このとき金メッキのメダルは次のうちではどれか。

1 A
2 D
3 E
4 F
5 G


(地上)















8枚の時の「別解」の考え方を活かす問題です。
1つを特定するだけでも大変なのに2つも見つかるかよ、と最初から投げ出してはいけない。
落ち着いて情報を整理すれば必ず正解は見つかります。
まず問題文が長ったらしいので、「=」と「≠」を使って短くまとめよう。


正規6つ、金メッキ2つ
(1)AEH=DFG
(2)ADE≠FGH
(3)ADE=BCF
金メッキはどれとどれ?



選択肢よりADEFGの中に金メッキは1つだけ。つまりBCHのどれかにもう一つの金メッキがある。
これならたったの3択だから1つずつ見てみよう。

【CASE1】Bが金メッキの場合
→CH正規確定
→(3)が釣り合うのはADEのいずれかが金メッキの場合のみ
→FGも正規確定
→どう足掻いても(1)が成立しない
→矛盾

【CASE2】Cが金メッキの場合
→BH正規確定
→(3)が釣り合うのはADEのいずれかが金メッキの場合のみ
→FGも正規確定
→どう足掻いても(1)が成立しない
→矛盾

【CASE3】Hが金メッキの場合
→BC正規確定
→もしADEのどれかが金メッキなら(2)のADE(金メッキ1個)とFGH(金メッキ1個)は釣り合ってしまうので有り得ない
→ADE正規確定、つまりFかGのどちらかが金メッキ。
→でもFは(3)で釣り合っているので正規確定、つまりGが金メッキ


正解:5


これが当方流の解き方である。
公務員試験はマークシートの選択問題であることを忘れてはならない。
時には選択肢さえもヒントになるのだ。



え?これじゃスッキリしないって?
ずるいと思うかもしれないが、これはクイズ番組ではなく試験です。
時間が限られているのだからどんな手を使おうが解ったもん勝ちなのだ。
思い出してみてほしい。中学のテストで図形の長さとか求める問題で定規で測ったり作図したりして解こうとしたこと一度はあるでしょ?
点が欲しけりゃ何だってするでしょ?



……やっぱりスッキリしないって?
わかったよ。ちゃんとした解き方を出せばいいんでしょ?



【別解】
(3)が成り立つということは、以下の2ケースが考えられる。
【CASE1】ADEBCFが全て正規確定の場合
【CASE2】ADEのいずれかと、BCFのいずれかが金メッキの場合

CASE1の場合はGとHが金メッキ確定で終了。

CASE2の場合であれば、今度は(2)を見る。
ADEのいずれかが金メッキなのだから、FGHが全て正規でないと「≠」にはならない。
もう一度(3)を見る。Fが正規確定ならBorCが金メッキ。
ところがここで忘れられていた(1)を見ると、左辺にも右辺にもBとCが存在しない。
ということはAEHDFGの中に金メッキは1つしか無いことになり、(1)の等式が成立しなくなるのだ。
つまりCASE2は最初から有り得ないということになる。
結局GとHが金メッキで終了。



……一応↑が本当の解き方なわけだが。
いきなり(3)から見るなんて発想にはならないだろ。普通は(1)から見るだろ。
これもスッキリはしない気がする。


では最後の問題と行きたいのだが、力尽きたので次回に続きます(マテ

◎公務員試験の暗号問題を解いて現実逃避しよう【#1】

2012-10-26 01:50:33 | 現実逃避クイズ
公務員試験には国家にせよ地方にせよ、「判断推理」という科目を避けて通れない。
「判断推理」とは、数学の知識をベースに、いかに短時間で判断し推理できるかをテーマにした分野。
市販の問題集を覗いてみると意外に面白い問題が多く、別に試験を受けなくても暇つぶしには持って来いなのだ。
当方は最近ちょっと色々あって絶望しているので(汗)、最近は時折この「判断推理問題」を解いて現実逃避している(いいのかそれ?)。

人生に疲れたあなた、ちょっと現実逃避してみませんか?


というわけで第1回は難易度を低めにして「暗号問題」。
公務員試験は大学生や高校生が受験するものだが、数学の得意な中学生、もっと言えば小学生でも安易に解ける問題も山ほどあるので、ゆとりの皆様も諦めずに挑戦していただきたい。

例えばこんな感じ。


【例題1】
「肌に冷たい北の風」を「ツニダハキイタメゼカノタ」と表したとき、
「ウヨイスギツノビナハヒノビウヨン?」に対する答えは何か。



【例題2】
「ローマ」を「ZRYOXMWAV」と表したとき、
「ZLYOXNWDVOUNT」はどこの国の首都か。



ね?簡単でしょ? こんな感じです。

じゃあ本番いくよ。



【問題1】
「秋の夕日」が「1÷1、4÷2、25÷5、24÷8、3÷1、12÷6」で表されるとき、
「4÷4、2÷1、2÷1、6÷2、25÷5、12÷6」は何月にあるか。
(予想問題)















まずね、これを見て計算しない人はいないでしょ。
「秋の夕日」の6つの割り算を計算すると、「1、2、5、3、3、2」。数字の数が「あきのゆうひ」の文字数と同じになる。
「あ」は「あいうえお」の1番目、「き」は「かきくけこ」の2番目。つまりはそういうこと。
で、問題の6つの割り算は「1、2、2、3、5、2」。
「何月にある」って聞いているんだから語尾の「5、2」は「の日」。つまり高確率で祝日。
そしてポイントは2文字目と3文字目が同じであること。
祝日で6文字で2・3文字目が同じなのは「体育の日」一択。


正解:10月


実はこれ、「割る数」が子音と対応している(「あかさたなはまやらわ」で何番目か)というもう一つのカラクリも隠されているのだが、ポイントはそこまで気付かなくても解けるということ。
実際当方もそこまでは気付かなかったが前述のように解けた。
何か一つだけでも気付けば、そこから矢継ぎ早にひらめいてくる。
ほら、なんか俺でも解けるんじゃね?って気になってきたでしょ。



【問題2】
ある暗号によれば、“They speak French in Quisic.”は“Eythay eakspay Enchfray inay Uisicqay.”となる。
では、“Ehay oesn'tday ogay otay oolschay onay Undaysay. Odaytay isay Ondaymay.”から確実に言えることは次のうちどれか。

1 Ehay idn'tday ogay otay oolschay esterdayyay.
2 Ehay oesgay otay oolschay odaytay.
3 Ehay oesn'tday ogay otay oolschay odaytay.
4 Ehay entway otay oolschay esterdayyay.
5 Ehay illway ogay otay oolschay omorrowtay.


(国I)


※英語で拒否反応を示さないこと。これは英語の問題ではなく、あくまでも暗号の問題です。















まず全部の単語の語尾に「ay」が付いているから、それを全部削除する(語尾以外のayはそのまま)。

“Eh oesn'td og ot oolsch on Undays. Odayt is Ondaym.”

これだけで物凄く簡単になったでしょ? 一目瞭然すぎて暗号とは言えないレベル。
各単語のスペルを並べ替えると「Eh」は「He」、「oesn'td」は「doesn't」、つまり

“He doesn't go to school on Sunday. Today is Monday.”
(彼は日曜日には学校へ行きません。今日は月曜日です)

となる。このようにして選択肢の英文も直すと、

1 He didn't go to school yesterday. →昨日(日曜)は行かなかった
2 He goes to school today. →今日(月曜)は行く
3 He doesn't go to school today. →今日(月曜)は行かない
4 He went to school yesterday. →昨日(日曜)は行った
5 He will go to school tomorrow. →明日(火曜)は行く予定

で、確実に言えるのはどれか。4は明らかに間違い。2・3・5は月曜・火曜に行くかどうかは何も書いていないので確実ではない。よって1しか残らない。


正解:1


「日曜に行かないってことは、他の曜日には行くってことだろ?」と勘繰ってはいけない。じゃあ土曜も行くのかと。違うでしょ? 大学4年ならゼミ以外は休みになる週休6日制の人も多いだろう。嫌いの反対は好きではないのだ。

そしてこれもカラクリがもう一つあって、ただスペルを入れ替えたのではなく、「各単語の最初に現れる母音のところで前後の順番を入れ替える(母音で始まる場合は入れ替えない)」という規則になっていたのだ。だがそこまで気付く必要は無い。解ったもん勝ちである。



では最後の問題。これは最低でも中学数学をコンプリートした人が対象となる。中学で何を学んでいたか良く思い出しながら挑戦してみて下さい。

【問題3】
□□□■=1、□□■□=2、□■□□=4、□■■■=7のとき、■■□■はいくつか。
(予想問題)
※下にヒント有
















【HINT】
□□□■=1
□□■□=2
□□■■=3
□■□□=4
□■□■=5
□■■□=6
□■■■=7
これで何か見えてくるはず。















□=0、■=1に置き換えると解りやすい。
0001=1
0010=2
0011=3
0100=4
0101=5
0110=6
0111=7

そう、これは「2進法」だったのです。
忘れた人の為に……2進法とは簡単に言えば整数の羅列「1、2、3、4、5……」から「1」と「0」しか使わない数だけを抽出したもの。2~9の含まれる数は全て除外され、「1、10、11、100、101……」の羅列となり、問題の「1101」は13番目に来る。


正解:13


というわけで、この判断推理シリーズを今後も不定期にやっていく予定です。
これなら多少はまめに更新出来そうなので(汗)、ご期待下さい。

◎上手く歩かなくていいから一歩ずつ君らしくあれ

2012-10-20 11:32:30 | 思ったことそのまま
もう「物語」は当分UPしないので、
ブログに一旦区切りを付ける為にも最近の総括でもしときますか。



「絶望」は、今も続いている(総括じゃねえし)。
「負け組」で「非リア」、ついでに「借金」
3拍子が揃うと、生きていても良い事なんて無い事に改めて気付かされた。
今まで気付かないフリをしてきたが、KSMの件で気付かされた感じである。

女性も信じられなくなり、
食べる事と、ゲーセンでAnswer×Answerをする事だけが人生の救いになっている。


では今度こそ総括。



◎無断欠勤少女編

>女子高生とシフトインする4時間が唯一の楽しみになっていたのではなかったのか。少女もWも仕事で分からない事は何でも僕に聞いてくれる。こんなキモヲタのヘタレ社員を信頼してくれている。

こんな事書いていたのかよ。気持ち悪いなオイ(汗
まだ若い女性と仕事をする事自体に慣れていなかった頃の話。
前職までの職場は男ばかりだったからねえ。
たかが女子高生の為に本気出していた時代もありました。若気の至りとは良く言ったものだ(※4ヶ月前です)。



◎W編

一番衝撃だったのはこれだろう。本当に寂しくなった。KSMに出会うまではガチで生きる希望を失ったレベル。人事異動でオネエ店長→鬼のアラフォー店長に代わったのもこの頃だから尚更。

>Wの携帯電話の着信音は浜崎あゆみの『SEASONS』だった。発売当時彼女はまだ4歳。このセンスの高さはガチだと感じ、僕は3枚組のベストアルバムをレンタルし全曲をDAPに入れてしまった。少しでもWの事を、現役女子高生のリアルな気持ちを知りたかったから。

↑なんじゃこりゃ? 金も無いのに何やってんですか。



◎カピバラ編

まあ女子高生の中では一番理性を保てていた。三度目の正直ってやつか?
そもそもこの物語のメインは「当方vsT」であり、カピバラは最初から脇役だった訳で。
ちなみに彼女は今も続けてくれている。
余計な感情を捨てて教える事に徹した効果がようやく出始めていると信じたい。



◎KSM編

第1話「あの時は笑ってくれた、ような・・・」
第2話「それはとっても悲しいなって」
第3話「もう女は信じない」
第4話「夢も、希望も、ないんだよ」
第5話「薔薇色なんて、あるわけない」
第6話「こんなの絶対おかしいよ」
第7話「本当の気持ちと向き合った結果がこれだよ」
第8話「あたしって、ほんとバカ」
第9話「笑顔で騙すの、あたしが許さない」
第10話「もう女は信じない」
第11話「最後に残ったメアド交換」
最終話「わたしの、最高の“仕事仲間”」

あくまでも“仕事仲間”。
わけがわからないよ。




カピバラ以降、更に男子高校生が2人増えた(一人は「乳液物語」の人)。
彼等ももう2ヶ月は経つが、ここに書くほどのネタは一切ありません。男なんてそんなものです(マテ

◎薔薇色への架け橋(最終話)

2012-10-18 01:13:11 | ある少女の物語
「おはようございます。すみません待っているって聞いたんで」
 ついにKSMが姿を見せた。いよいよ作戦決行の時が来た。
「今日シフトインするとか言って来れなくてすみませんでした」
 僕は落ち着いて脳内の原稿を読み上げる。
「イヤ全然大丈夫ですよ(笑)」
 この時KSMは確かに笑っていた。
「それでですね……あ、仕事残っているなら先にどうぞ。終わるまで待っているんで」
 それは原稿には書かれていなかった。だが仕事を中断させてまでする話では無いと思い、とりあえず彼女を仕事に戻らせようとした。しかし、
「イヤ、あとちょっとなので大丈夫ですよ」
「あ、それなら、エーット、その……」
 アドリブの効かない僕はとうとう吃音の症状が出始めてしまった。
「じゃあすぐ終わるんで。あの……いきなり変な事聞くことになるかもしれませんけど、さ、最初は誤解するかもしれませんけど、と、とにかく最後まで落ち着いて聞いてもらえますか?」
 平常心を失い、原稿の台詞とは3割ほど異なる言葉を発していた。
「え、え、何ですか?」
「KSMさんって、彼氏とかそういうのいるんですか?」
 落ち着け。これはハードルの低いミッションだ。
「あー、居ないですよ」
 ベストな返答が来た。これで交渉はかなりしやすくなった。
「実は僕の友達で彼女居ないとか友達少ないとかで困っている人が何人か居るんですけど、もし良かったら今度その人たちと会ってみませんか?」
 今度は落ち着いて言えた。しかし、
「イヤいいですよ(笑)。私彼氏とか要らないんで」
 まさかの拒絶。しかも予想だにしない理由だった。そう来るとは思わなかった。だが理由など関係ない。拒絶された以上、せめてアドレス交換には持っていかなければならない。
「ああそうですか……後は僕個人の話になりますけど、T店の情報も色々知りたいですし、アドレス交換してもらえますか?」
 あくまでも仕事上の情報交換の為のアドレス交換。不自然ではなく、むしろ仕事をする上で普通の事なはずだった。
「イヤ私、この店の事ほとんど知りませんよ?」
 それすらも彼女は躊躇った。ここで身を引けば良かったものを、僕は更に暴走してしまう。
「あとは仕事の愚痴とか悩みとか色々話したいってのもあるんで」
「イヤイヤ、それは私なんかより部長に言ったほうが良いですよ(笑)」
「イヤそれは一番出来ないので……アドレスだけでも交換して貰えませんか?」
 何を血迷ったのか、僕はアドレス交換という言葉を二度も使い、より強調されてしまった。
「………」
「………」
 とうとうお互いが言葉を失った。そして、
「バタン」
 KSMは無言で出てしまった。僕は事務所に居ながら彼女の動きを防犯ビデオで追うと、Hと笑いながら何かを話す映像が確認された。


――もしかして、フラれた?――


 会話を振り返ると、友人を口実に僕自身がKSMに迫ったかのような交渉になっている事に気付いた。そんなつもりはハナから無かった。ただ僕はリア充の仲間入りをしたい、それだけのささやかな願いだった。
『どんなに嫌でもアドレス交換をその場で拒否る人は居ないでしょ』
 現実は、仕事目的でのアドレス交換すら断られるという1ナノも想定していなかった結果になった。



 数え切れないほどの僕への感謝と笑顔は何だったのか。あくまでも仕事上の感謝と上辺だけの笑顔、ただそれだけだったのか。結局彼女は僕を仕事仲間以上の存在だとは思っていなかった。イヤ、それで良かった。週2でKSMと笑い合いながら仕事をする、それだけの関係で僕は満足なはずだった。T店ヘルプが続いてさえいれば、ここまで傷心を負う事は無かったのだ。
 そして僕はKに負けた。僕がどんなにKSMの負担を減らす事を考えて仕事をしても、彼女と仲が良いのはそんな事を微塵も考えていないKのほうである現実。仕事とプライベートは全くの別物だったのだ。何故そんな簡単な事にも気付かなかったのか。



「違う! 同じ事何度も言わせんな」
 人に感謝される仕事をしていたT店ヘルプの日々が嘘のように、僕はK店で店長とマネージャーに怒られる日々に引き戻された。僕の配属はK店であり、これが当たり前なのだと割り切る事にした。

 人の心を散々掻き回しておいて、簡単に突き落とす。この仕事を始めてからもう何人目だろうか。当分の間、女性を信じる事は出来ないだろう。それでも非リアからリア充に転身する日を夢見て、今日も仕事をする。


(Fin.)


◎薔薇色への架け橋(第4話)

2012-10-18 01:10:40 | ある少女の物語
 もう迷いは無かった。それでも作戦だけは慎重に立てた。そもそも僕は現実的にKSMと真剣に付き合えるとは思っていないし、そんな大きな目標ではない。ただリア充の仲間入りをしたい、それだけのささやかな願いだった。そこで出会いに飢えている友人に相談をもちかけた。
「じゃあ俺を含めて彼女ほしい友達が何人か居るっていう体で」
 友人が名案を考えてくれた。まずはKSMに彼氏の有無を聞き、居ない場合は、
「実は僕の友達で彼女居ないとか友達少ないとかで困っている人が何人か居るんですけど、もし良かったら今度その人たちと会ってみませんか?」
 と交渉する。彼女のOKが出れば後はメールアドレスを交換し終了。後日僕が仲介役となってKSMと友人と3人で食事をし、晴れてリア充にジョブチェンジという策略である。
 もしKSMに彼氏が居るなら、仕事の悩みや愚痴を話したり店の情報交換をしたいという理由でせめてアドレス交換に持っていき、一旦身を引き作戦を練り直す。それだけでもリア充に一歩近付く。
「どんなに嫌でもアドレス交換をその場で拒否る人は居ないでしょ」
「だよねー」
 作戦の全容は決まった。それでも不安が消えなかった僕はワードで台詞の原稿を作成した。分岐A、分岐B、分岐A-1、分岐A-2、分岐B-1……アドリブに重度に弱い僕でも対処できるよう、分岐の多い精密な原稿が完成した。アドレス交換に必須な赤外線通信のリハーサルも行い、準備は整った。



 9月18日、ついに勝負の日を迎えた。朝の5時45分にも関わらず、僕は既にT店の最寄り駅に居た。通勤服のワイシャツとスラックスを身にまとい、ギャツビーフレグランスを頭、顔、首筋に腕までたっぷり塗りたくった。身だしなみの最低レベルはクリアしただろう。原稿を読み直し最終確認。緊張は臨界点を突破していた。イヤ、緊張する必要は無いはずだった。これは決してハードルの高い試練ではないのだ。愛の告白ではないし、二人きりで食事に誘う訳でも無い。KSMに友人を紹介する、ただそれだけの事なのだ。
『夜勤スタッフの黒髪セミロング眼鏡っ娘です。今日はわざわざ来ていただきありがとうございます』
『今日は本当に助かりました。ありがとうございます』
『僕さんが一緒だと心強いです』
『イヤ、何でですか?(笑) 全然大丈夫ですよ』
『イヤイヤ、ありがとうございます、とても助かります』
 彼女は何度も僕に感謝し、笑顔を見せていた。加えて吹きガラスのコップ。ここまで成功の二文字が見えるミッションは僕の経験では前例が無い。
「よし、やってやるぜ」
 確固たる自身を持ち、僕は歩き始めた。一歩、また一歩とT店に近付く。



 不思議だった。入社してから5ヶ月ちょっとで、それまで僕は、何処にでも居る普通の非リアで。でも感じていた。今までの自分じゃ、普通の非リアじゃ無くなる瞬間を。



「おはようございます」
「アレ? 僕さん何で来たんですか?」
 6時5分、店内に居たのはKSMではなく女性マネージャーのHだった。KSMの勤務は6時までで、ちょうど退勤時を狙って鉢合わせる予定だった。
「K店に足りないPOPをいくつかコピーして貰いたくて来ました」
 だがこれも想定の範囲内。僕はHにT店に来た表向きの理由を説明した。
「何でこんな朝早くから?」
「このあとK店に発注しに行くんですよ」
「なるほど。それで通勤服ですか」
 辻褄合わせは完璧だった。そして、ヘルプに行けなくなった事を謝罪し、POPのコピーという事務的な処理を終えると時既に6時20分。KSMの鞄が置いてある事も確認できたが、未だ彼女は姿を現さない。
「もしかしてKSMさんはウォークインに居ますか?」
「そうですね。まだやって貰っていますね」
「ちょっとKSMさんにも挨拶したいので、事務所で待っていても良いですか?」
 まさか待機になるとは予想していなかった。僕と組んだ日にKSMがこの時間まで残業した事は無い。やはり僕が早出をしてまで彼女の作業を手伝っていた事に意味はあった、そう思いたかった。
 緊張が途絶えないまま、壁に貼られたシフト表に自然と目が移る。僕の名前が書かれるはずだった月曜夜勤と水曜夜勤の枠には、それぞれ部長とKの名前があった。翌週の表も同じだった。これで水・金と、Kは週2でKSMと一緒になる。もう僕の出る幕は本当に無くなった事に気付き、改めて悲しくなった。だが待ってろよK。すぐにお前と同じ状況になってやる。第二章に足を踏み入れてみせる。


(つづく)

◎薔薇色への架け橋(第3話)

2012-10-18 01:07:11 | ある少女の物語
 この世に存在する70億ものホモサピエンスは、ありとあらゆる方法で二つに大別される。男と女、大人と子供、サディストとマゾヒスト、平和主義者と軍国主義者、そしてリア充と非リア充だ。リア充とは三次元世界での生活が充実している人物を指し、それ以外の人物は非リア充となる。そして僕は非リア歴26年の26歳にも関わらず、リア充の軍団に紛れ込んでしまう事件が片手で数えられる程の回数は記憶に残っていた。
 そのうちの一回は2012年10月5日、新宿の某所で起きた。
「お土産は?」
「全部食べちゃいました、てへぺろ(・ω<)」
「太りますよ?」
「失礼ですねもう(笑)」
「ホラこいつ、こういう所がキモイんだよ」
「おいキモイって言うなよ(笑)」
 男女を意識せず、何でもかんでもしゃべり、周りは嘘でも笑って盛り上げ、多少失礼な発言も受ける側はネタとして受け止める。僕にはこういうものが無かった。九分九厘は黙り込み、聞き役として徹しているだけだった。イケメンでも無い男が乙女に対して「太りますよ」と発するなんて僕の中では冗談でも有り得なかったが、それすら許されるのが彼のキャラだった。これがリア充という名の薔薇色の世界。極度の人見知りで根暗の顔も気持ち悪い僕には永遠に縁の無い世界。そう思っていた。あの事件が起きるまでは。



<第二部:bridge>

「予定では来週の月曜にまたヘルプで来る予定なので、よろしくお願いします」
 2012年9月12日深夜、僕はKSMにお土産を渡すだけの為にT店に来ていた。
「おお、ちょうど良かった。今度言おうと思っていたんだけど」
 そこには部長も偶然居合わせていた。
「K店に新しく入った社員、エーット誰だっけ?」
「Iさんですか?」
「そうそう。彼女にK店を任せて、今後僕君には色んな店を回ってもらう事になると思うから。移動とか絡むとやっぱり体力的に男のほうが良いだろうし」
「ああ、それは全然良いですけど」
「とりあえず週の半分くらいはN店に行ってもらう事になると思う。あそこも今人が足りないんだよね」
 それを聞いた僕は内心でガッツポーズを決めた。既に週2でT店の夜勤が入っている現状に更にN店のヘルプも加わる。となると自店のK店に居る事はほとんど無くなるのではないか。上司に理不尽に怒られる回数も格段に減るだろう。入社して5ヶ月、ついに僕はパラダイスを手に入れた。ここまで耐えてきて本当に良かった。新入社員のIにも感謝しなければならない。彼女が居なければこうはならなかっただろう。
 そして、来週月曜にはまたT店ヘルプが控えている。KSMの期待を更に越えるには、今まで以上の仕事をしなければならない。前回2時間も早出してカップ麺の品出しまでやってしまったから、今度は4時間くらい早く出勤してウォークインの在庫の補充でもしちゃおうかな。KSMは更に驚き、飛び切りの笑顔も見せてくれるだろう。今から楽しみだ。その時僕は確かに幸せの頂点に居た。



 しかし3日後、散々持ち上げられた僕は、アラフォー店長とマネージャーの会話を盗み聞きし絶望の底へ転落する事になる。
「S店の店長が飛んじゃって、急遽明日からIさんを送り込む事になったの」
「大丈夫なの?」
「イヤ解らないけど、もう彼女しか人が居ないから。家も近いし」
「で、僕さんのT店ヘルプが無くなっているけど」
「もう無理でしょこの状況じゃ。私もN店に行かなきゃならなくなるし、T店まで構っていられないわよ。もし電話来たらテメエらで何とかしろって伝えといて」

 なんと、僕のT店へのヘルプ出勤が突然打ち切られた。あくまでも交通事故による自宅療養中のスタッフの代理であり、いずれは終わると腹を括っていたとはいえ、彼の復帰より前に違う理由で終わらざるを得なくなるとは、あまりにも理不尽すぎる。しかも、僕が週の半分は行く予定だったN店へのヘルプは交通費削減の為に自転車で通勤可能な店長が務める事になってしまった。来週から僕は元の週6自店勤務に戻る。話が違う。僕はパラダイスを手に入れたのでは無かったのか。幸運なのは店長とマネージャーの二重の魔の手から上手く逃れられたアラサースイーツIのほうではないか。何故5ヶ月も耐えてきた僕のほうが更なる不幸を背負わなければならないのか。元凶は突然辞職したS店の店長。今すぐ怒りをぶつけに行きたい、だが彼はもう僕の力では探し出せない。成す術はただの一つも無く、ただただ大人の事情に素直に従うのみだった。
『おーー、ありがとうございます(笑)』
 即座にKSMの笑顔が浮かんだ。その笑顔を見る事は二度と出来ない。この現状を納得できる人は居るのだろうか。少なくとも僕は違った。

――このまま、終わらせたくない――

 では、どうすれば良いのだ。

――第二章を始めちゃえば良いじゃない――

 何も仕事の付き合いのみに留める義務は無い。序章が仕事だとするなら、進むべき次のステージ、第二章は“プライベート”。早出をしてまでKSMの分の作業を代わりに行い、その分だけ感謝されてきた僕は、僕に出せる最大限の力で序章をコンプリートしたつもりだった。ならばこれを機に、彼女とプライベートの付き合いを始めてしまえば良いではないか。
『月・水が僕さんと一緒で、金曜だけK君と一緒ですね』
『ああ、あの2人(一人はK)とはプライベートで良く飲んだりしているんですよ』
 事実、あの時KSMと仲良く話していたKは一足先に第二章に突入している。
(何だよ……あんなに仲が良いなら付き合っちゃえば良いのに)
 イヤ、Kを妬むだけでは何も始まらない。僕にもKSMと仲良くなる資格はあるはずだ。偶然にも僕は秋田のお土産として3000円もの吹きガラスのコップをKSMにプレゼントし、既に親交を深める下地は出来ている。
 確かに僕はT店ヘルプが打ち切られ、絶望を味わった。だが、もしそれが僕の足を第二章へ踏み入れさせる為に神が仕組んだものだとするなら。リア充の仲間入りをするチャンスを与えてくれたものだとするなら。薔薇色の世界への橋を架けてくれたものだとするなら。

――渡るしかない――


(つづく)

◎薔薇色への架け橋(第2話)

2012-10-05 04:45:27 | ある少女の物語
 11時、ついに目的のバスがターミナルに停車。秋田は全路線が後払い制の為、後ろのドアから乗り込み、真っ直ぐ運転席へ向かう。
「214号線沿いにある《M吉神社総本宮》に一番近いバス停はどこですか?」
「え、何だって!?」
 50は超えているであろう運転手が聞き返す。
「214号線沿いのM吉神社総本宮です」
「214ってK曽石のほうか?」
「ハイそうです」
「そっちまでは行かねえぞ」
「それは解っていますけど、あの、一番近いバス停で降りたいんですけど」
「おーい、K曽石方面の人いっか?」
 なんとバスの運転手が乗客に道を聞くという暴挙に出た。
「いないでしょ。K曽石の人はこのバス乗んないもの」
 乗客の一人が答える。僕以外の乗客全員がおばさんだった。
「あれだ。《H田下町》だっけ?」
「《H田上町》じゃないの?」
「ああそうだ、H田上町」
「す、すみません、ありがとうございます……」
 まさかコップ一つを買う為にこんな恥をかく事になるとは思わなかった。今の僕は運転手にも乗客にも迷惑をかけている。
「でもそこから30分は歩くんじゃないの?」
「イヤ、それは全然大丈夫なんで」
 一往復とはいえ、初対面のおばさんと普通に会話を交わす僕。高齢化が止まらない秋田では珍しい事ではなかった。
 ヨーカドーの撤退を始めとする商店街の瀕死状態が全国ニュースで晒されてから早2年。ジュンク堂やロフトがオープンしささやかながらも復興の兆しを見せている秋田駅周辺を離れ、僅か20分で車窓からは田んぼしか見えなくなっていた。そして11時40分、僕は《H田上町》のバス停でバスを降りた。
 目の前にある214号線の入口には、この先に神社がある事を示す鳥居が立っていた。その横の看板には《M吉神社まで3km》。14時の法事に間に合わせるには、12時10分に《Dの下》を通過するT部線のバスに乗る必要があった。既に30分を切っている。僕に残された選択肢はただ一つ、“走る”事だった。フルマラソンの14分の1に過ぎない距離でも、学生時代に体育祭で走った1500メートルですら息を切らしていた僕にとっては苦痛だった。職場から東京駅へ直行し深夜バスに乗って秋田に来た僕は通勤服であるワイシャツとスラックスを身にまとい、ビジネスバッグを持ったままだった。それでも走るしかなかった。全ては世界に一つだけのコップの為に、KSMへのお土産の為に。
 左には木々しか無く、右には収穫間近の稲たちが生い茂るだけの民家一つ無い214号線。何故僕は今、こんな田舎道を走っているのだろうか。何が僕をここまで動かしているのか。

――笑顔――

 やはり行き着く先はその2文字だった。ヘルプ出勤の時も、KSMを笑顔にする事が彼女の期待を越える仕事をする事だと信じていた。今も同じだ。全ては彼女を笑顔にする為。金萬や携帯ストラップなら駅ビルでも買える。だが僕はKSMをその程度の存在だとは思いたくなかった。オンリーワンのコップを求め、ナンバーワンの想いで走り続けた。

 20分後、ついに僕は《M吉神社総本宮》に辿り着いた。おばさんの予想タイムを10分縮めた。そして目の前には《ガラス工房◎◎ 左折》の案内板が。目的地は目と鼻の先だった。案内板の指示通り脇道に入ると、今度は左右共に木々しか見えない。笑う両膝を懸命に動かす事5分。
「やっと……着いた」
 まるで秘境のジャングルを探検し巨大な蛇でも見つけたような感覚だった。その店は、左にショップ、右に吹きガラスの体験も出来る工房があった。今は体験などどうでもいい。帰りのバスの時間も迫っている為、急いで左の扉を開けようとしたその時だった。

《ショップは土日・祝日のみの営業です》

 扉の横にそう書かれていた。なんと、工房での作業に集中する為、平日はショップを閉めていたのだ。僕は店員に無理を言ってショップを開けて頂いた(※良い子は真似をしないで下さい。筆者自身も反省しています)。
 こうして多くの人に迷惑をかけてまで手に入れた3000円の吹きガラスのコップは、高さ10センチ程の円柱型で、白っぽい半透明の下地に筆で一点一点描いたような水玉の模様。手作りの温もりが溢れる至高の一品だった。
 他の社員へのお土産用にオリーブオイルの石鹸3個も併せて購入し、総額4260円。予算を大幅にオーバーしてしまった。ギフト用のラッピングも丁寧にして頂き、結果的にバスには乗り遅れた。こんな理由で法事に穴を空けるわけにはいかないので、急遽タクシーを手配し約2000円の出費が余計にかかった。だが後悔はしていない。KSMの笑顔の為なのだから。



 2日後、僕は自店で仕事を終えるとT店に直行した。
「秋田のお土産で、りんごもちっていうお菓子を持ってきたので食べて下さい。あと店長とマネージャーには個別のお土産があるんですけど、実はKSMさんにも、フィギュアのお返しがまだだったので用意しました。全部事務所に置いてあるのでお持ち帰り下さい」
「ありがとうございます。別にお返しなんて要らなかったのに(笑)」
 ついにKSMの笑顔を見る事が出来た。実は先日、KSMが“一番くじ”で当てたフィギュアを僕が引き取っていたのだ。お土産を渡す口実には最適だった。店長には携帯ストラップ(525円)、マネージャーには石鹸(420円)、そしてKSMには吹きガラスのコップ(3000円)。金額に差はあれど、3人にお土産を用意し、全て違う物にした事で上手い具合にカムフラージュも出来た。
「予定では来週の月曜にまたヘルプで来る予定なので、よろしくお願いします」
「ハイ、こちらこそよろしくお願いします」

 僕を絶望に突き落としたのは、その僅か3日後だった。


(第一部・完)



※214号線は仮称であり、実在しません。

◎薔薇色への架け橋(第1話)

2012-10-05 04:42:45 | ある少女の物語
※先に『7月第5週(番外編1)』→『同2』→『期待を越えたい物語(前編)』→『同後編』をお読み下さい。



 不思議だった
 入社してから5ヶ月ちょっとで
 それまで僕は
 何処にでも居る普通の非リアで
 でも感じていた
 今までの自分じゃ
 普通の非リアじゃ無くなる瞬間を



<第一部:gift>

「ご乗車ありがとうございました、秋田駅東口です」
 2012年9月10日、午前9時。乗務員のアナウンスと共に僕は深夜バスを降りた。
 実家に帰るというのは、あまり気の進む話ではなかった。僕の家族は色々と崩壊していたのだ。それでもこの日だけは法事という事情により帰る必要があった。会社には無理を言って公休日をずらして頂いた。と言ってもこの日の夜にはまた深夜バスで帰らなければならなかった。
 僕にとっての帰郷する意味はただ一つ。それは「KSMへのお土産」だった。毎週月・水のT店へのヘルプ出勤を無難にコンプリート出来るのは他でも無い彼女のお陰。それが僕側の身勝手な都合により10日月曜のヘルプを休まざるを得なくなったのだ。お礼とお詫びをお土産に代えて彼女に渡す事で、お金も時間も浪費する無駄に等しい帰郷に意味を見出したかった。
 問題は何をお土産にするか。駅ビルの物産フロアを散策しながら考えた。秋田のお土産の代名詞と言えば「金萬」だが、それではベタすぎる。他にはきりたんぽ、稲庭うどん、横手やきそば等の販売店が軒を連ねるが、何も食べ物に固執する必要はない。消えて無くなるものではなく残るものにしたい。ならばご当地モデルの携帯ストラップはどうか。それもお土産としてのインパクトは弱い。そもそもスマートフォンの普及でストラップは衰退しつつある。
 実は最初から目処を立てていた。前日の東京駅で手に取った秋田のパンフレットに記載されていたガラス工房のお店を見て、吹きガラスのコップにしようと決めた。一つ一つが職人の手作りであるが故に全く同じものを量産できない、いわば世界に一つだけのコップ。特別なお土産にしたい僕の希望に沿う最たるものだと思った。

 問題はお店までの道のりが長いという事だった。関東とは違い、最寄り駅というものが存在しない。ちなみに秋田駅から歩くと2時間以上はかかるという。公式サイトによるとお店近くの《M吉神社総本宮》の前に案内板があるそうなので、まずはそこを目指しバスに乗らなければならない。
 駅前のローソンに入り秋田市内の地図を立ち読みする。早速試練が訪れた。《M吉神社》の文字が3箇所も4箇所も記載されている。何故同じ名前の神社が幾つも存在するのか、僕は憤りを覚えた。公式サイトの住所を頼りに携帯でYahoo!地図を開き、何とか特定。《Dの下》がM吉神社総本宮の最寄りのバス停のようだ。
 今度はバスの公式サイトを開き、《Dの下》をキーワードにバス路線を検索すると、駅から直通で行ける路線は無く、大学病院で乗り換えが必要であり、しかも病院からDの下までの路線《秋田市マイタウンバスT部線》は一日2往復しか走っていない事が判明した。これが“秋田”なのだ。自動車普及率94%(東京は61%)だけあって、市内でさえ車が無いと支障をきたす現実。自分の故郷の交通事情を思い知らされた瞬間だった。2往復のうちの一本目が13時10分に病院を出るのだが、あいにく僕は14時からの法事に間に合わせる必要があった。ならばT部線は諦め、少しでも神社に近い道を走るバス路線を探す事にした。
「すみません、214号線(仮称)沿いにある《M吉神社総本宮》に行きたいんですけど」
 駅の総合案内所でおばさんに聞いてみる。
「M吉神社ならS北手線で10分よ」
 違う、そっちのM吉神社ではない。そこなら徒歩でも行けるし、訪れた事も何度もある。
「イヤ、214号線のほうなんですけど」
「214号線? ちょっと待って地図を見てみるから」
 案内所の人ですら馴染みの薄い《M吉神社総本宮》。別にお参りに行くわけではなくその近くのガラス工房の店に行きたいだけなのだが、神社は本当に実在するのだろうか。僕は不安になってきた。
「ああ、H田のほうね。T平線が一番近いんじゃないかしら」
「次の便は何時頃ですか?」
「11時よ」
 なんと、M吉神社総本宮に“近づける”路線さえも一日僅か8往復、2時間に一本しか走っていなかったのだ。まだ9時を過ぎたばかりなのにこれは痛かった。タイムリミットを考慮するとギリギリになる事は容易に想定できた。それでもKSMへのお土産の為に諦めるわけにはいかない。


(つづく)