春から始めた「京都探訪記」も連載に3か月半の間が空いてしまったので
途中までの総集編を載せてみます。
お暇な方は読んでくださいませ(^^)笑
闇夜を走る小田急線の車内でじっくりコトコト揺られながら私たちが目指しているのは終点・新宿だ。
22時をまわった頃の車内は普段の喧騒も嘘のようで空いていて少し寂しい。
待ちわびていた京都への旅行が始まるというのに未だに実感していない。
隣で中吊り広告をぼんやりと眺めている親友の母衣君は何を思っているのだろうか。
思えばこの旅行に至るまでは棘の道だった。
お互い、受験・就活だったのは言うまでもない。
“卒業旅行”は前々から温めていた試みだった。
参加者も一般受験中にもかかわらず嬉しいことに私を含め8人集まった。
ざっと紹介すると母衣君、D君、クソリン、O野君、OK氏、KD氏、山口氏といった面々。
去年の末から場所の候補も選び虎視眈々と準備をしてきたのだが、近くになるにつれて
集金日当日まで音信不通、
旅行開始日一週間前に発熱、
まさかの赤点で再試、
などが幾度となく順調な計画信仰を拒んだ。
予約後も数々の変更がなされ驚くべきことに出発の10分前まで旅行の手配をしていた。
んもぅ!
それでもなんとか今、思い鞄を手にしながら列車に乗っている。
多少の変更をしながらもついに旅路は始まったのだ。
コトトトト・・・・・
それにしても快速急行という奴は速い。
ふと、胸をなでおろした私は今、登戸を通過して真っ黒い多摩川を渡った―。
とはいえ、夜出発するのも半年ぶりのことだ。
夜の旅はちょっとした寂しさと高揚感が混ざり合って不思議な気持ちになる。
初めて夜行列車で京都へ行った3年前の事を思い出す・・・・
徐々に速度を落とし、
列車は新宿駅のホームに滑り込んだ。
今回は初めての夜行バス。
夜のうちに目的地まで運んでくれる低価格な乗り物。
乗車するのはJRバスの『青春エコドリーム号』。
いかにもなネーミングだが、JRだから安心かと往路・復路共に今回はこのバス。
だって閑散期だから片道3500円。
土日は4000円。
もうこれにはかなわない。
バス停は新宿新南口。
南口は再開発工事中なのでバス停の『新宿』とはほぼ嘘。
南口からタイムズスクエアのデッキを渡ってトコトコ歩いて、
次の駅、代々木駅の目の前にある。
余裕をもって到着したので近くのコンビニに夜食を購入。
母衣君はというとエヴァンゲリオンウエハース(カード付き)を購入した模様。
なんだかちょっと嬉しそうだ。
いいカードが出たらしい。
バスは大体10分前に到着する。
私たちの乗るバスは22:30発『青春エコドリーム19号』。
2階建ての大きなバスがついにやってきた―。
改札開始のアナウンスが流れるとすぐに乗車。
つるりとしたバスの側面に蛍光灯の光が反射してカッコいい・・・
平日の便でもほぼ座席はびっしりと埋まっていて、
私たちの席は2階の先頭1Cと1D席。
幸い、前面に何もないのでほかの乗客を気にせず寝ることができる。
それでも170㎝越えの男が2人座ると狭い・・・
ほぼ身動きがとれない。
定時刻に新宿を出発して運転手さんによる親切なアナウンスが始まるとお隣の母衣君は夢の中。
本当に寝るのが早い男だ。
カーテンが閉まっていて外の景色は見えないが
大橋ジャンクションをグルグルと旋回して東名高速に入ったのがわかった。
さぁ一路、関西へ。
日付が変わる頃には車内は真っ暗になって、ウトウトした私も束の間の休息に・・・・・
***
ふと目が覚めた。
時計を見るとまだ00:40。
束の間すぎた。
それにしても尻が痛い。
尻の痛さが気になって眠れない・・・・
畜生。
体制を変えようとするも右手には鉄壁の母衣君。
足も延ばせるようなスペースは無く仕方なく通路側に足を投げ出してみる。
尻の痛みがゆっくりと和らいで再び束の間の休息に・・・・・
***
ふと目が覚めた。
室内が明るくなって、アナウンスが流れた。
「足柄SAで休憩をとります。」
休憩によってまたも私の休息が短いものになってしまった。
仕方がないので乗車前に新宿で購入したおやつをほおばってやり過ごす。
茎わかめにプリッツ、ひもQそして水。
夜のお菓子はなんだか美味しく感じて、
結局、全部食べてしまった。
その頃にはバスも出発していて、元通り室内の照明も消されていた。
小腹も満たされた所で、おやすみ。
***
また、目が覚めた。
腹が痛ぇ・・・・・
冷たい汗が頬を伝うような嫌な感覚に見舞われた。
ちょっと食べすぎたと後悔してももう遅かった。
畜生・・・
浅い眠りの中、腹痛の波が定期的に私を襲う。
これは夢か現実か・・・
京都は・・・まだか。
尻も痛ぃ・・・
※
2月22日未明、ついに私たちはJR京都駅前に降り立った。
いつものような喧騒はそこにはなく暗く、静かである。
目の前のガラス張りの巨大な建物が京都駅だ。
半年ぶりの京都、
この建物は古都・京都にふさわしいか賛否両論があるけれどもこいつに迎えられなければ
京都に来た気がしない。
そう、中学の修学旅行の時、私はこのビルに恋をした。
大胆な設計、むき出しの鉄骨、迷路のような回廊、必要性を疑う大階段。
そのすべてにグッと来た。
憧れの地京都、再びの出会い。
「嗚呼、京都・・・・!!」
胸の高鳴りを感じながら駅ビルと対峙してみる。
バスから降りた多くの人々の姿も、すでになかった。
感慨にふけっていても仕方がない。
トイレを探そう。腹が痛いことを思い出した。
トイレを探して駅ビルの地下へ。
安堵の思いで入ると個室が全部使用中ではないか。
ざっと数えて5個以上もあるのに・・・
しまった、バスから降りた人々はまずここを目指していたんだ・・・
迂闊だった。
仕方なく駅ビル地下から地下街に入りトイレを探すも空いてない・・!
3年前の2009年、初めて夜行で京都に来た時に腹を痛くして
朝の閑散とする地下街をトイレを探して死に物狂いで駆け回った2人の友人をふと、思い出した。
私も今、同じことを―
している。
母衣君はというと自販機で買ったポタージュをすすりながらまったりしている。
なんだか幸せそうだ。
トイレ問題を何とか解決して、地上ののバスロータリーへと出る。
京都市バスのバスカードを販売する自販機で1日乗車券を購入し、早速バスへ。
本日、2月22日の予定は“嵐山電鉄で行く名刹古刹巡り”。
夜が明けきらない京都駅前を後にしてバスでまずは四条大宮まで。
まっすぐ伸びる二車線の道路を駆け抜けて行く。
車窓からは所々に町家や寺院が望め、色の控えめなコンビニ看板が目に付く。
それにしたってビルはあるし都会の風景。
様々な情報の中から京都のイメージを作り上げてきた人が初めて京都に来たときに
「これが京都・・・?」と思ってしまう。
JR京都駅に然り京都タワーに然り・・・
私も中学3年の修学旅行の時、それに似た感想を持った。
しかしそれは幻滅というより驚きに近かったのだ。
自分の中の京都のイメージがもっと時代の止まったような古めかしいものだったのもある。
その時に京都が教科書に載る過去の存在でなく、現在進行形の生きた都市だということを感じた。
「京都はとても奥の深い場所なんだ。」
京都をもっと見たくて知りたくて、この旅は始まった。
四条大宮には阪急京都線の大宮駅と嵐電の四条大宮駅がありバスのロータリーも存在する繁華街。
とりあえずこの場所で荷物を預けて身軽にならなくては。
地上にコインロッカーが見当たらないので地下に潜る。
地下には阪急線の駅がある。京都の中心を走る鉄道はほぼ地下を走っているという。
幸い地下にコインロッカーがあったので2人分の荷物を一緒にぶち込み身軽に再出発!
ここから嵐電には乗車しないでまたバスで北上。
嵐電北野線の北野白梅町駅を目指す。
千本通りをまっすぐ、二条駅を過ぎて左折して今出川通りへ。
北野白梅町の手前、学業成就で有名な北野天満宮前で下車。
京都の寺社は拝観時間が決まっているゆえ早朝は入れないことが多いが
北野天満宮は朝5時から参拝することができるのだ。
今出川通りに面した入り口から参道を進むとゆるーく右にカーブしていく。
左右には寄進されたものであろう大きさがまちまちの灯篭が建っていて社殿へと誘う。
修学旅行生に人気のこの場所も朝が早いと誰もいない。
時々、散歩中と思しき人たちとすれ違うくらいだ。
参道を進んでいると気になるのが牛の像。
ブロンズのものから石のものまであり、どれもドッシリと座った姿をしている・・・・
これは菅原道真公に関する逸話に基づくものらしく、
どうやら道真公は牛(丑)に縁があったようだ。
そして梅!
梅も道真公のお気に入りだったらしい。
境内には梅園まであるが、残念ながらまだ蕾。
日のあたる場所から少しづつ咲き始めていた。
北野天満宮に祀られているのは菅原道真公。
平安時代に活躍した道真公は、怨霊の代名詞とも言える存在。
彼の怨霊を祀ったのがこの神社の始まりなのに
現在では学業の神様として全国の学生に信仰されている。
1000年前は誰もが恐れる怨霊が今では学問の神様に。
なんだかとってもポジティブ!!
物音すらも聞こえない朝の境内は清々しく、禍々しい気は感じられない。
道真公は1000年という時代の流れをどう感じているのだろうか・・・・
朝の境内に柏手が響いた。
北野天満宮から今出川通りを西にトボトボ歩いていくと目の前に北野白梅町駅が現れる。
予想以上に小さな駅舎だ。
ココから嵐電こと京福電気鉄道に乗って京都の西側を旅する。
嵐電は四条大宮から嵐山を結ぶ本線と、帷子ノ辻から北野白梅町を結ぶ北野線の2路線からなり、
この駅は北野線の終着駅だ。
窓口で1日乗車券を500円で購入し入場する。
1日乗車券は各施設で優待が受けられる券も付いており、乗れば乗るほど使えば使うほどお得。
しばらくするとホームに1両の小さな電車が到着。
神奈川に住む私にとっては江ノ電を彷彿とさせる抹茶色のボディ。
どちらも古都をコトコトと走る小さな電車だがどうやら姉妹協定を結んでいるらしい。
わずかな乗客を乗せて列車は出発。
江ノ電のように景色はそれほど楽しめないが、
等持院、妙心寺、竜安寺と駅名に寺院の名前が続く。
さすが京都、といった感じ。
まもなく御室仁和寺駅に到着。
降りる時にはバスのようにチャイムで知らせる方式。
駅名の通り、仁和寺の最寄駅。
踏切を渡ると仁王門が見えるので迷わずに辿り着く事ができる。
まっすぐ伸びる緩やかな上り坂の先には仁王門!
このアプローチがとても好き^^
電線が地下に潜ってくれるとさらに嬉しいなぁ。
木造の仁王門にはその名の通り仁王像が待ち構えている。
テンション上がってこのまま門に突っ込もうとすると意外に目の前の道の車通りが多いので無念の死を迎える可能性が高い。
右側にある信号を使った方が安全だ。
仁和寺というと中学校の国語で習った『徒然草』を思い出す。
“仁和寺にある法師”と題された章を勉強した気がする。
作者の兼好法師こと卜部兼好は仁和寺からほど近い双ヶ丘で『徒然草』の執筆をしたといわれている。
仁和寺もどうやら庭や宝物館の拝観時間にはまだ時間があるということで
金堂まで往復してバスに乗車。
木々の覆われたきぬかけの路を通って、降りるバス停は竜安寺前。
次なる目的地は石庭で有名な竜安寺。世界遺産でもある。
訪れるのは今回が初めてだ。
今まで4回京都に来ているのに竜安寺に訪れたことがないのには理由があった。
庭園や枯山水に興味が無かったからだ。
嵐電1日乗車券の優待券で拝観料も1割引き。
拝観料を支払って鏡容池を横目に見ながら目的の方丈を目指す。
それにしても緑の多い境内。
朝早くから樹木の手入れ作業が至る所で行われている。
方丈内に入って靴を履き替える。
スリッパは大人用と子供用が用意されており子供用はミッフィーが描かれていて可愛い。
竜安寺可愛いな^^
お寺で靴を脱いで入るという行為が何となく好き。
人の家にお邪魔するような、親近感にも似たような気持ちがしてドキドキする。
でもこういう感情って日本人独特のものなのだろうか、、
薄暗い方丈をスリッパでパタパタ歩いていくと、
ついにアレが姿を見せる。
「な・・なんなんだこれは・・・・・・・!!」
噂には聞いていた竜安寺石庭。
そんな庭との対峙が始まった・・・・
思ったより小さいが、
土塀に囲まれたモノクロの空間に配置された15の石・・
それ以外には何もない。
これが本に載っていた“極端にまで抽象化された世界”?
何もない庭、
しかし、何かある。
庭に興味のない私をも引きつける何かが・・・
縁側に腰を下ろして、その石の数を数えてみる。
「ひとつ、ふたつ・・・・
みっつ・・・・
一つ足りない・・・・」
そう、この庭の石をすべて同時には見れないというのだ。
はたして何故―?
そしてこの庭園は何を現している?
謎が謎を呼ぶ石庭。
“虎の子渡し”や“七五三配置”などとも呼ばれ、
従来から様々な憶測がなされるこの石庭。
もちろん私にその謎が解けるはずもない。
人の少ない朝の竜安寺。
縁側に座る者は私の他にあと2人ほど。
静けさがあたりを包んでいる―。
「まるで額の中の絵のようだ。」
と思った。
もっとじっくり見つめてみる。
それは全体の庭ではなく、その石がとても気に入った。
すると・・・
「この庭、角度美人だな。」
自分が気に入った場所から見た2つの石。
ゆっくりと流れる時間の中でその風景が生きてるように、動いているように見えるではないか。
「これが・・・枯山水か。」
静けさの中にこそ枯山水の良さはあるのかもしれない。
たとえそれが抽象的なものでも。
いや抽象的だからこそ根源的なものに気付かされるのかも・・・・
庭に興味がなかった私は謎に満ちた竜安寺の石庭で、少し庭が好きになった。
その謎を解かなくたって石庭と仲良くなれた気がする。
竜安寺の方丈内には売店が組み込まれていて、
この寺にちなんだグッズが販売されていた。
中でも気に入ったのが竜安寺オリジナルの御朱印帳。
表紙に「我唯足知」のつくばいの印が押してある。
今年に入って気になり始めた御朱印。
従来は寺院で納経するといただけるものだったようだが
現在は参拝するだけでもいただくことができる。
御朱印は寺院によって多種多様、神社でもいただくことができるという。
この機会に御朱印帳を購入。
そして拝観受付で御朱印帳をお寺の人に預ける。
しばらくすると御朱印帳が返ってきた。
そして300円を納める。
御朱印帳を開くと達筆な「石庭」の文字、個性豊かな押印!!
書きたてほやほやな御朱印に感動。
御朱印はお坊さんなどがリアルタイムで手書きしてくれるのだ。
ゆえに世界に一つだけのもの。2つと同じものはない・・・
それだけでただのスタンプではないことが分かる。
ついに人生初の御朱印をゲット・・・!
竜安寺と私は御朱印によって結ばれた。
素敵すぎる!!
お寺に参拝した証として、これからも御朱印を集めていこう。