細く高い松の林を抜けると木造の三門が見える。
小さいころから様々な媒体を通して自ら作りあげた寺院のイメージに限りなく近い気がする。
背後には山に抱かれ、背の高い樹林に囲まれた閑静な地。
そこに現れる、思わず見上げてしまうような三門。
絵に描いたような寺だ。
いつかの宿の主人は、「雨の日の朝の南禅寺はいいですよ」と言っていた。
霧がかるひとけのない境内で聴こえる念仏を聴いてみたい。
私たちのような観光客が消え去った時、ここは俗世から離れた異世界になるに違いない。
とりあえず最初は高いところから、境内を見渡すことにしょう。
南禅寺は京都でも珍しく、年中三門に登れる。
きっと高い建物がなかった時代、三門からの景色を楽しみにしていた奴がいるに違いない。
石川五右衛門はかつてこの三門に登り、こう言ったという。
「絶景かな 絶景かな」
五右衛門が言ったか言わなかったかは置いておいて、そんなことを言われたら自ら登ってその景色を堪能するしかない。
本当に絶景かな?
壁のように急な階段を、綱でできた手すりにつかまって一気に登る。
スリッパを履いているが冷え冷えとした空気が足から伝わってくる。
今日はだいぶ冷え込んでいる。
階段を登り終えると目の前には京都市街の風景。
手前には南禅寺境内の林が広がって、その奥に京都の街並みが見える。
林の木々を雲に見立てて、遥か遠くに私たちの住む世界があった。
とすればここは天界だ。五右衛門の言うことにも納得した。