小田井駅を出発した城北線は終点・勝川駅に向かってゆっくりと進んでいく。
車内はセミクロスシートになっていて、車両中間部がクロスシートになっている。
ゆっくり景色を楽しみたいときはクロスシートに限るが、1両編成のワンマンカーなのでロングシートの一番後ろ寄りに座って流れていく景色を眺める事にする。
それにしても立派な高架線である。
遮るものは何もなく、複線の軌道が延々と伸びている。
基本的に日中は毎時1本しか運行されない路線とは思えない贅沢さがある。
周囲に大きな街はないと思われ、停車する駅では数人の乗客が降りたり、降りなかったりする。
それもそのはず、城北線も名古屋の市街を取り囲むように周縁部を走っている。
都市へ直結しない路線である。
都心部に近いことで住民は都市への上り下りの移動が基本であって、横への移動は需要があまり無いのであろう。
同じく名古屋都市圏の周縁部を走る愛知環状鉄道は、比較的中心部との距離があるため、名古屋へ直結する乗換駅への横移動に使われると考えられる。
また郊外の核となる駅周辺が栄えることで両駅間の行き来も行われるはずである。
城北線は他路線との接続も悪い。
先程、歩いて乗り換えた小田井-上小田井駅間も決して乗換駅と言える距離ではない。
終起点となる枇杷島と勝川駅はJR線との接続駅ではあるものの、乗り入れは行っていない。
はたしてこの城北線は都市に潜んだ無用の長物ではないのか。
地図を眺めてはよくこのようなことを思っていたが、どうやら訳あり路線のようである。
城北線の立派な高架線、旅客鉄道の為につくられたのではないという。
貨物列車が旅客営業の多い名古屋駅を通過せずに済ませるために計画された貨物専用路線の未成線を旅客用に流用したものである。
愛知環状鉄道もまた、貨物計画線を受け継いだ路線だ。
この二つの路線は見事に名古屋都市部を囲うように迂回して東海道線と中央線を結ぶ形をとっている。
つまり城北線は貨物列車の巨大な未成線ということだ。
建設途中で事業は中断してしまったため、今現在勝川駅はJR線と接続しておらず、駅舎が離れた場所にある。
しかし、将来的にはJR駅構内に乗り入れて直通させる計画も考えられる。
起点の枇杷島駅と終点・勝川駅をJR線と接続することで、東海道線から中央線へ、金山や千種駅といった繁華街を通ることなく繋ぐバイパスになる。
これは貨物線以外にも中央線特急や回送車などにも利用できそうだ。
城北線の本領発揮はこれから。
そのために複線高架の立派な路線になっているそうである。
城北線の各所を見ると架線や駅ホームの増築用の用地は確保されている。
その時まで城北線は地元の人とマニアだけの知る謎のローカル線でいるのだろう。
進行方向左手には高速道路が並んで走っている。
隣では幾台もの自動車が目的地へ向かって急いでいる隣では、後にも先にも何も見えない広々とした高架を走る1両の列車。
本当に名古屋は車社会だと実感する。
高速道路の高架がこちらより少し高い位置にあるのが憎い。
しかし、この穏やかさは嬉しい。
ゆったりと座って、外の景色を何気なく眺める。
自分は何も動かずに、景色だけがただ移ろいでいく。
東京では休日でも、この穏やかさは体験できない。
周囲に遮る物がないためか、車内に西日が入ってくる。
このまま終点の勝川駅まで乗車して、最果て感を味わうのも悪くないが、もう一度名鉄小牧線に乗りたいので味美駅で下車。
列車はディーゼル特有の低い音を鳴らして去っていった。
小高いホームに聞こえる音は高速道路を走る車の音だけだ。
味美駅ももちろん無人駅である。
この駅も地上3階にあり、階段を伝って出口へと向かう。
小田井駅と同じく2階にはコンコースとなるような広い空間がある。
天井に鳩が巣をつくっているくらいで他には何もない。
しかし降りてみると、上空には高速道路、地上には片側3車線の一般道と騒がしい。
駅の出口も地下道で自動車道路をパスした先にある。
次に向かう、小牧線の味美駅は同じ駅名にもかかわらず700mほど離れている。
もはや乗り換えの域を逸脱し同一名称の付く全く異なった駅。
しばらくは高速道路沿いを進み、小牧線の高架が横切るとそれに沿うように左折する。
高速道路と城北線と小牧線の立体交差は見事。
高架線沿いを歩いていくと小牧線は次第に地上へ降りてくる。
すると味美駅も近い。
名鉄の味美駅も無人駅で、駅前は自転車でびっしりと埋まっている。
人の気配はなく、寂しげな印象だ。
ホームのベンチで列車を待っていると、上空から重音が覆いかぶさってきた。
何事かと見上げると、見たこともないような大きさの飛行機だった。
ひときわ巨大なわけではなく、距離が近かったのだと思う。
近くに小牧空港があることは後に知ったのだが、躯体が真上を飛んでいる感覚は決して気持ちのいいものではなかった。