この夏は上野動物園をはじめ、東京動物園協会の管理する3つの施設で夏休みのお盆休みを中心に閉園時間延長を行っていた。
ナイトズーなどと題して、夏には毎年のように行っている施設も多いが、どうにも忙しい時期であるし、予定が被ってしまって行けずじまいであった。
そんなこんなであったが、東京動物園協会は今年の広報活動に力を入れていたようで、施設それぞれのチラシを観光情報館などで配布していた。
デザインもさることながら、「真夏の夜の動物園」とか「夜の不思議の水族園」などという好奇心を煽る文句に心掴まれて、是非行こうと意気込んでいた。
ちなみに東京動物園協会は上野動物園・葛西臨海水族園・井の頭自然文化園・多摩動物公園の4施設を管理している。
そのなかで、井の頭自然文化園を除いた3施設でこの夏は夜間開園が行われていた。
多くの施設はお盆休みにあたる8月13日から16日付近が開催期間であったが、多摩動物公園は8月中の土日はすべて夜8時まで開園しているとのこと。
お盆休みを逃してしまった私たちは、8月最後の土曜日に多摩動物園に滑り込んだのである。
※
京王線・高幡不動駅から動物園線に乗って4分ほど。
多摩動物公園駅の目の前が、動物公園の入り口である。
広々としたアプローチの先には象をあしらった巨大なゲートが聳えている。
この巨大なコンクリートの象には既視感を覚えたのだが、幼い頃に両親に連れられてきた記憶残っているのだろう。
どうにも幼い頃に見たものというのは、大人になってから再会すると、思いのほか小さく感じることがある。
小学校の校舎とかもそうだ。
しかし、この象は今見ても大きい。
入園料は日中と変わらず大人600円。
多摩動物園といえば、動物だけではなく昆虫館があることでも有名である。
昆虫生態館では植物園のような温室の中で蝶や蛾が飛び回る姿が見学できるのだが、この施設は夜間は閉館してしまっていた。
そのかわり、隣に建っている昆虫園本館は開いていた。
二階に上がると、国内外の昆虫の生態展示。
大きな展示ケースの中の、小さな飼育ケース内で飼われている昆虫たちは狭そうであるが、それぞれ好きなように暮らしている。
大陸の巨大昆虫を見てしまうと、日本のカブトムシやクワガタムシが可愛らしく見えてくる。
超巨大なゴキブリだかダンゴムシだかの仲間もいるから、女性を連れていくには注意した方がよさそうだ。
時すでに遅かったが。
一階のグローワーム展示室は圧巻。
ホタルなどを含む発光昆虫をグローワームと総称するらしいが、ここの展示室にいるのはハエの仲間らしい。
二重扉を開けた先には、真っ暗闇の世界。
闇の奥に目を凝らすと、現れる無数の青白い光。
この光はヒカリキノコバエが餌となる虫を捕食するために出しているという。
当然、日本にいる虫ではなく、オーストラリアなど南半球に生息しているらしい。
ホタルやヤコウタケのように闇夜に光る生物はなんとも幻想的だ。
それが蠅であっても。
建物内で昆虫を見ていても、夜の動物園に来た意味は無いことに気づいた私たちはいよいよ起伏ある園内へ。
小高い丘には猿山がある。
餌を食う奴に毛づくろいする奴ら、たそがれている奴など見ていて飽きない。
岩場やロープを日が暮れてもなお闊歩する猿たちは結構視力が良いのであろう。
夏の終わりは夜がやって来るのが一段と速く感じる。
動物園はそもそも夜は閉まっている場所であるから、夜歩くための街灯などは無いに等しい。
枝分かれする園路には申し訳程度にライトが取り付けられているが、それでも闇の方がはるかに強い。
動物園特有の賑やかさは無いけれども、園内にいる子供たちも熱中して動物を探している。
動物を見るのに一生懸命になる動物園はなかなかない。
目を凝らすと、カワウソやヤギや、モモンガなど様々な動物が夜でも元気よく過ごしている。
大型の動物は宿舎に入ってしまっているものが多いが、楽屋でのアーティストを覗いているみたいな感じがあって楽しい。
蛍光灯に照らされたサイの身体の陰影が個人的には印象的であった。
時折現れる、巨大な建造物。
夜は余計なものが見えなくなるから、より印象的に視界に入ってくる。
アジアゾウのコーナーは長崎ちゃんぽんのお店にあるような赤色トンガリお屋根である。
アジアゾウはこの動物園の中でも比較的大きな動物だと思われるが、ゾウが小さく見えてしまうほどの規模。
象はどこだと探すと、すみっこの薄暗いところで夕食を食べていたのだった。
静かに腰を下ろしているのはニホンカモシカ。
草の上で眠そうにしている。本日の営業は終了、と言った雰囲気だ。
最奥のオラウータンコーナーまで到達してから折り返し。
飼育舎からオラウータンの森まで、スカイウォークと呼ばれる架線のようなものが伸びていて、昼間は上空を移動するオラウータンを見ることができるらしい。
多摩動物公園の目玉といえば、今も昔もコアラのようだが、コアラ館までは距離もあるために諦めることにする。
道端に建っていたダミーで我慢。
最後にライオンを中心とするアフリカ園に行くために、近道。
メインストリートはそれなりに人がいるものの、脇道にそれると人が一気に少なくなる。
フライングゲージには鷲のシルエットが。
先程のダミーコアラのようにまったく動かない。
一方でフクロウは元気に活動中である。
元気に飛んだり首を動かしているから、逆に写真を撮影することはできなかった。
昼間のフクロウは眠っていて動かないから貴重な活動シーン。
うとうと眠っているのもそれはそれで可愛らしいのだけれど。
小高い峠を抜けるとアフリカ園に到着。
広い盆地に動物図鑑でお馴染みのキリンやゾウやライオンが飼育されているから、この動物園のハイライトでもある。
確か昼間はライオンバス(有料)が運行されていて、間近で猛獣が見れるということで人気。
チンパンジーの遊具は立派で、何かのオブジェのよう。
キリンは普通に野外で休んでいる。
日中ずっと立っていたら疲れるもんな。
それにしてもキリンも結構無防備に座るんだなぁ。
互いに背中合わせで座っているのはこれも用心?
飼育舎の中にもキリンの姿が。
本日のお仕事を終えたキリンのプライベート的空間を覗いている感じがいい。
キリンも窓から外の世界を見てどう思うのだろう。
アフリカ園を歩いていると、突如に現れる異国調の寺院建築に驚く。
ちょいと昔の遊園地に来ているかのような気分にさせてくれる。
よみうりランドの聖地公園みたいな。
どうやらこの建物付近にライオンバスの乗り場があるらしい。
バスもリニューアルされたようなので乗ってみたいものだ。
気付けば、閉園間近。
ライオンたちの生活スペースの上に架かるアフリカ橋からライオンを眺めていると、思い出したかのようにむくっと立ち上がって歩いていく。
寝床に帰るらしい。
橋の反対側から見える大きな飼育舎からはガラガラと扉を開ける音やライオンたちの吠える声が聞こえてくる。
なんだか、不思議と動物たちに「お仕事ご苦労様です」という気持ちになる。
別に動物が動物を演じているわけでも、営業しているわけではないのだけれど。
夜の動物園。
思ったよりも不思議な空間である。
賑やかで、明るい昼の動物園とはうってかわって静かで少しだけ寂しい。
動物たちも、今まで見たことのないような姿を見せたりするのでなんだかすべてが新鮮である。
園内は丘陵地帯になっているので、散策にもちょうどいい。
それにしても散策にも楽な気温になってきた。
涼しい風に吹かれて、いよいよ夏の終わりを感じるのだった。